滑舌最悪ババア

「ああ~ヤバイよ!終わったかもしれん」

「多分七割はいった」

「問五の答えってなんだ?」


テストが終わると馴染の言葉が飛び交う。僕には話し相手なんていないから、盗み聞きをすることしかできない。


それでも勉強した成果は出せたと思った。シェーラ先輩に叩き込まれたところは確実に書けたという自負がある。それで赤点のボーダーを超えたかどうかはよく分からない。


「≪冥府の日輪ラストサン≫様はどうでしたか?」


堕ちた雌豚ルシファー≫が話しかけてくるが、無視して帰り支度を始める。残りの国語と社会、そして、カンニング必死の英語が残っているのだ。


戦いはまだ続いているのに浮かれている時間など全くない。帰ろうとするとき、最後に佳純先生と目があった。


後で行くというニュアンスだというのが分かったので、僕は頭を下げて、教室を出た。僕はこのまま詩の家に直行しようと思ったのだが、家に詩がいなかったら不法侵入になってしまうので、詩のいる特進クラスに向かった。


━━━


「音無詩さんはいますか?」

「ひっ!?『勇者』!?」


(『アーサー王』、『鬼畜ロリ王』と来て『勇者』が来たか…)


抜くものを間違えなければ英雄だったんだろうなぁと思った。教室を見渡しても詩の姿は見えない。ぼくはさっさと特進クラスから出た。『勇者』なんて言われて注目されてしまったし、ここにいる理由はない。


「あ、あの」

「ん?」


突然後ろから声をかけられた。三つ編み眼鏡という典型的な陰キャ女子だった。


「詩さんなら、英語の先生に会いに行くって言ってましたよ…?」

「あっ、ありがとうございます」

「いえ。テスト頑張ってください」


親切な彼女は詩の居場所を教えてくれた。僕は頭を下げて、英語の準備室に向かった。


━━━


「ビンゴだ…」


詩が英語の準備室にいた。ただ英語の先生と何か話しているみたいだったので、教室の外で盗み聞きをしていた。


「ミズ、おどなし。良いですか?わたすはイングリッシュを使いこなずごとができるスーパーハイブリットパースンを育て上げるぅことをパーパスにしていまず」


(滑舌悪…)


「素晴らしい教育理念だと思います。英語を話せることこそがこの先のグローバルな社会で活躍するマストな条件となります。そんな生徒を育て上げようとしている野々村先生には尊敬の念しかありません」

ザッチュライチュその通り。よくわかっていまずね」

「ええ。だからこそ英語の点数を取る秘訣をスーパーハイブリットパースンの野々村先生に教えていただきたいのです」


合点がいった。佳純先生が言っていた滑舌最悪ババアってこの人か。そして、今回のテストを作る先生だ。パンチパーマを効かせたおばさんで、いかにも意識が高そうな恰好をしている。確かに、佳純先生のことを嫌いになりそうな人だ。


「お~、ミズ、おどなし。貴方は模範的なスーパーハイブリットパーズンです。その心がけやベリーグッチョ」

「ありがとうございます」


詩がなんでこんなところにいるのか疑問に思ったのだが、これはテストに関して探りを入れているのだろう。


「英語の秘訣はオンリーワン。スピーキング話すことリズニング聞くことの二つで~す。ライティング書くことをじゅうじするジャパニーズテズトでは養われないパワーです」


(一個じゃねぇのかよ…しかも最後は日本式のテストをディスってるし)


「なるほど…つまり今回のテストはスピーキングとリスニングを重視するテストを作るということですか?」

ザッチュライチュその通り!ミズ、おどなしは理解が早くてたすがります」


詩のコミュ力異常すぎるわ。


僕は滑舌が酷すぎる野々村先生の言っていることが全くもって理解できない。詩が理解してくれたということで機嫌を良くした野々村先生は続けた。


「ですので、今回は今までのイングリッズテズトのようなつまらないものではなく、レボリューショナルなテストをメイキングしまずた!これを乗り切ればスーパーハイブリットパーズンになれること間違いなじでず!」

「なるほど…それは今からエキサイティングしますね」


詩が野々村先生の欲しがりそうな言葉を言う。しかし、野々村先生は途端に苦虫を嚙み潰したような顔をした。


バッドしかし、ボズはスピーキングのテストは作ってはいけないと言ってきたので、それは廃止になりまじた。この学校はスーパーハイブリットパーズンを育てることの意義を全く分かっていないでず」

「野々村先生の≪アイディール理想≫がノーブル高尚すぎて愚民共では理解できないんですよ」

ザッチュライチュその通り!ああ、本当にフーリッスピポー馬鹿な人たち!分かってくれるのはミズ、おどなしだけです」


詩もちょくちょく英語を使っているんだけど、何を言っているのか分からない。俗にいう意識高い系の会話ってこんな感じなんだろうなぁと思った。


「Ms.Nonomura,I want to know what will specifically appear on the test.(野々村先生、私はテストで特に出るところを知りたいです)」


(おお!カッコいい!何を言ってるんだか全然わからないけど!)


改めて詩が天才だということに気付かされた。


「…ミズ、おどなし。貴方はスーパーハイブリットパーズンではありまずが、英語の発音が聞き取りづらいでず」


(お前が言うんかい…)


「やはりそうですか。ボーイフレンドにもよく言われるんですよね…」


(彼氏って僕のことじゃないよね?)


「お~ボーイフレンド…ミズ、おどなし。ボーイとガールで遊ぶなとは言いませんが、ボーイフレンドのと遊ぶことであなたの能力が消えでしまわないが、じんぱいでず。別れた方がよろしいのでは?」


別れるも何も僕と詩は付き合っていないし、先生に別れろと言われる筋合いもないのではないだろうか。野々村先生の眼を見ると完全に私怨が入っていた。


この流れで行くと詩に対して警戒心が強まって、テストで有益な情報が手に入らないのではないだろうか。詩がどうするのかと見ていると、


「ご忠告ありがとうございます。ですが、私の彼氏はバーチャルな存在なので、大丈夫です」

「!OHそうでしたか!はやとぢりベリーソーリー!」


(うまい…)


確かに≪冥府の日輪ラストサン≫は僕だけど、バーチャルな存在ではあるから間違えではない。野々村先生も機嫌を取り戻したようだし、流石としか言いようがない。


「今回のテストを完璧にこなせばあなたはベリースーパーハイブリットパーズンになれること間違いなじです!つきまじては、ここと━━━」


そうして、詩は上手いこと先生に取り入り欲しい情報を手に入れた。僕は時間がかかりそうだと思ったので自販機に行って飲み物を買いにいった。


━━━


━━



「失礼しました」


詩が準備室から出てくると、僕と目が合った。一瞬だけ驚いた顔をしていたけど、すぐにいつもの表情に戻った。


「待たせたわね、旭。これで必要な情報は揃ったわ」

「ああ…僕のためにありがとう」

「気にしないで」


詩は僕のために自分の時間を削ってここまでの駆け引きをしてくれたのだ。感謝してもしきれない。


「でも、随分、時間がかかったね。それだけテスト範囲を教えてもらっていたってこと?」

「テスト範囲のことは最初の五分で終わったわよ?」

「え?そうなの?」


僕は三十分くらい校内をぶらついてここに戻ってきた。それで丁度詩が出てきたので、結構白熱していたのかと思っていた。


「≪暖炉の聖女ヘスティア|≫への愚痴で盛り上がっていたのよ。結構充実した時間だったわ」

「そうですか…」


そんな黒い話は知りたくなかった…

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