第4話 言葉——コトノハ——①

とある書店

毎週1回は足を運ぶ


「・・ありがとうございました」


 店員がこちらをチラチラ見ていて、後ろの方でも話をしている。


「もの凄い綺麗な人だよな?」

「ああ、ヤバいわ。マジで」


「おい・・あの女性見ろよ。すげぇ美人」


 歩いていても視線が感じる事が多い。

すれ違う人は必ずこちらを見る。


「気分はいいものではないな」

後ろから声が聞こえる

「あの・・」

振り返ると男性2人が声をかけてきた

「おお・・すげぇ美人じゃん」

「よかったら、お茶でもしませんか?」


 ニコニコしながらこちらを見ておる。

ワシは微笑んでみた。

そんな姿に男性2人の顔が赤くなる。


「ワシに声をかけてきたのか?」


その瞬間、此奴こやつらは固まる


「ワシは駅前の中村屋というおはぎが

大好きでのう。今からそこにおはぎを

買いに行く予定なんじゃ。」


 ワシが話し出すと周りの顔が引きる。

目の前にいる此奴こやつらもそうだ。必死に笑って誤魔化しておる。ワシはこれでもかというくらい奴らに話をし出す。


「あ、予定があるので!おい、行くぞ」

「イメージが違うじゃん」


 お決まりの言葉をいつもワシにぶつける

そそくさと男達が去っていく。


「・・・。」


先程買った本を眺める


みながこの意味を知れば、ワシは笑う事が出来るかのう」


✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎


「へい!いらっしゃい!」

「おはぎ、2個頂こう」


駅前中村屋という和菓子屋にやって来たが・・


「ごめんね、抄湖ちゃん。今日はおはぎ売り切れてしまったんだよ」

「何と!!」


中村屋の店主から聞かされた言葉


「さっき、若い兄ちゃんが3個買っていって

すまねえな」


 この中村屋は創業100年の老舗店

おはぎがとても有名で人気はあるのだ。

時間帯にもよるがここのところ名物おはぎが

買えるようになったんだが・・


「とても残念じゃのう。」

「また、来てな。あと・・」


そう言うと店主は口をつぐ


「あ、いやまだ時間はあるからな」

時間がある?よくわからぬ・・。


 ここの店主 中村五平なかむらごへいさんは一昨年奥さんを亡くされておる。

確か、1人息子がいたはずだが・・

五平さんが少し寂しそうにしているのが

気にはなるが・・


✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎


——カランコロン


「いらっしゃい。抄湖しょうこちゃん」

「ウィンナーコーヒー」

「はい、ちょっと待ってね」


 大志郎たいしろうが微笑む。

窓側の席ではなくワシは蓄音機の前に立つ。


「大志郎、曲を変えるぞ」

「どうぞ」


Home town——colo peers trio


ゆっくり流れる音楽。

ここがワシのHome town


カウンターに座りゆっくり落ちてゆくコーヒーを眺める。

この時間がワシにとってはリラックス出来る。


「お待たせ」

「すまぬのう」


コーヒーの香りを堪能する。


「最近はこっちの席だね」

「ダメなのか?」

「いや、そうじゃないよ。窓側の席からかたくな動かなかったのに」


大志郎が笑う


「意地悪を言うやつだな」

「ごめん、ごめん」


——カランコロン


「こんにちは、あれ?」

「いらっしゃい、勇人はやとくん」


 此奴が不思議そうな顔でこちらを見ているが

自然にワシの隣りに座り


「マスターいつものね」

「はいはい、待っててね」

「っす!」


 暑いと言う言葉を連呼してこちらの方を見る

いつものようにお前はこう言うのだ。


「抄湖さん、今日どんな本を読むの?」


 そっと、その本を見せる。此奴はその本をペラペラとめくる。

凄い難しそうだなそう言いながらも

真剣に見ておる


「ありがとう」

「別に大した本ではない」

「いやいや、本をあまり読まないからいつも読んでる抄湖さんに感心するよ」


 不思議なやつだ。何事にも興味がないと思っていたが、意外に熱い男らしい。

飄々ひょうひょうとしている。三白眼の目をして身なりはおしゃれまでいかないが、モテないって訳ではない。


「抄湖さんは甘めがいいの?」

「まだ、コーヒーは苦いと感じる。お前はよくブラックで飲めるものだな」

「はは・・好きなもので」


 実家が喫茶店を営んでると言っておったな。

コーヒーの知識はそれなりにあって

大志郎との話が弾む。

この空間はゆっくりで自分を見つめる事が

出来るのだと改めて感じるのだ。


「あ、そういえばさっきここに寄る前に

美味しいおはぎを見つけたのでよかったら

これをどうぞ!」


——ピクッ


「おっ!中村屋のおはぎだよね。ここのおはぎ美味しいんだよ。折角だし食べようか?」


——ピクッピクッ


「いいんですか?へへっ、実は食べたかったん

ですけどね。抄湖さんも一緒に・・って」

眉をひそめていると

「凄い顔してるぞ」


おのれのせいだろうが!!

ワシのおはぎをふんだくったのだぞ!

思わず・・。


「誰のせいだと思ってるのだ!!」

「怖っ!!え?何だよ!!」

食べ物の恨みは怖いんだぞ!

「楽しみにしておったんだぞーー!」

吠えるワシに此奴は

「凄っげぇ、伝わってくるから」

「抄湖ちゃんの分も買ってくれてるよ」

「・・ふむ」

「ふと、その店を通ったら、君の顔が浮かんだんだよ。甘い物好きって言ってたしな」

「・・それはご苦労」


 大志郎がお皿におはぎを移しカウンターに

持ってくる。


「コーヒーはもしかして、フレンチローストですか?」

「そうだよ。おはぎには深煎り焙煎が合うからね。ちょうど焙煎したばかりだから」

「フレンチロースト?」


 コーヒーの事はよくわからぬ。

大志郎の淹れるコーヒーは美味しいとは感じれるが、自分は知識がほぼ無い。


「焙煎の方法だよ。フレンチロースト、極深煎り深煎りの中でも強めの焙煎だよ。苦味とコクがあるんだ」


 大志郎もよく知ってるねと嬉しそうにしている。おはぎに合うとはいえ、コーヒーの苦味がある。


「抄湖ちゃんにはカフェオレを作るよ」


 中村屋のおはぎは甘みがあって子供にも

人気がある和菓子だ。


「はい、お待たせ」


店内を漂う香り

相変わらず、大志郎が作るコーヒーは美味しい。

おはぎを一口その後にカフェオレを味わう


「・・美味い」

「あんこはコーヒーに合うからね」


 今、流行りのあんこ入りコーヒーもある。

中村屋のおはぎ何という美味だ!

ワシはとても感動していた。


 じゃが、あの店主が最後に言った言葉

どうも気になる。


———カランコロン


「いらっしゃいませ」


 1人の男性が入ってくる。大きな荷物スーツケースを片手にスマホで誰かと話をしている。清潔感がありグレーのスーツにボルドーストライプのネクタイのサラリーマンだな。

男はまだ、話をしている。大志郎がメニューとおしぼりお水をそっと置く

男は気づき、スマホを手で押さえ


「アイスコーヒーを1つ」

「かしこまりました」


何じゃろうか?ふと、気になった

「・・・。」

「どうしたの?抄湖さん」

「どこかで見たような感じなんじゃが」


 テーブル席に座る男

一見ただのお客と思われるが

このお店で紡いでいく出来事に

ワシら達は遭遇する事になる。









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