第23話

桜堤団地には有名になる前の芸能人一家も住んでいたということは知られているが自分の身近にはいない。ライトノベル作家というのは著名人になるのだろうか。


「検索してみよう」


母のタブレットは母のアカウントではログインできなかったが王子用のアカウントが設定されていた。王子がなにを閲覧したかは母に確認されている。


「ひがしかた……ジョジョの奇妙な冒険、ジョジョリオン、あと東方市は有名な被災地……名字じゃない方聞いてなかった」


学生本人の名前で検索をしてもSNSぐらいしかヒットしないだろう。


「そうだ、ペンネーム。東上武で検索しなきゃわからないよね。あ、たくさん出てきた。思ったより有名な人だったのかな」


『東上武は日本の小説家。東京都在住、大学生(書籍プロフィール欄より)。2022

年『召喚勇者さまのお供をしています』(角丸出版)でデビュー。『召喚勇者さまのお供をしています』は『アガスティア戦記』のタイトルで小説投稿サイト『カケヨメ

』に投稿されていた作品が書籍化されたものである。同シリーズは現在3巻まで刊行。累計発行部数はおよそ30万部』


3巻までで30万部ということは平均して10万部が売れていることになり、新人としては有望株と呼ばれているようだ。


「『カケヨメ』発の人気作品は読者が自己投影できるような平凡な少年が異世界で大活躍する設定となっていることが多いが、本作品は珍しく現地人の主人公が異世界から来た勇者の補佐役となる点がユニークな部分であり、その他にもこの作者独特の乾いた文体と皮肉を排したレポート調の語り口が印象的な作品であることから、単純な売り上げでなく、この時期に同じようにネット小説の書き手からデビューした他の五人の作者と合わせて『ネット小説6人衆』あるいは『天下六ペン』とも呼ばれるグループの一人である」


「天下六ペン」が「天下五剣」をもじったものだということには王子は気づかなかったが、思ってたより有名な人に宿題の手伝いをさせてしまったことに恐縮した。


「暇を持て余した大学生かと思ったけど、意外とすごい人だったんだな」


王子は母が帰宅するまでの間、勇から貸してもらった彼の著書を読むことにした。王子のイメージでは作家や小説家は年配の人物が多いのだが、東上武は知る限り最も若い作家だった。


作者と出会ってから著書を読むと言うのは読まれる方には気恥ずかしいものかもしれない。読む側にも少し先入観が入ってしまいそうだ。純粋な読書のためには作者の顔も知らない方がきっといいのだろう。

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