第16話 人に必要な物

「お前達、馬鹿なのか?」


フォルテが言った言葉を聞いて、国王達はポカンとした顔をした。


「それはどう言った意味でしょうか?」


国王はフォルテの言葉に質問を返した。

国王達は、尊敬するエルフと同じ食生活をして自分を高めているつもりだったからだ。


「エルフと人は体の作りが全然違う。消化器官も必要な栄養素も違うんだ。エルフは自分達に必要な栄養を魔力から補うから自分達に必要な野菜だけでもいいが、人は魔力から補うことができない分食物しょくもつから取るんだ。草食と肉食が同じ食生活では体が壊れていくんだ」


「そんな事……」


国王は信じたくない様子であった。


「事実だ。お前の骨が折れたのもそのせいだろう。肉を食べない生活を続けた結果、栄養が足りずに骨が脆くなったんだろう」


フォルテの言葉に、信じられないと言った様子の国王達にため息を吐いて気合いを入れた。


「人は肉を食べないと闘争心が無くなると言われている。国をおさめる国王として、それは致命的だ!弱い統率者に人はついて来ない。それに、人は食で幸せを感じるのだ。それが分からなければ、国民を幸せになどできないぞ!」



そうして、フォルテは腕まくりをした。


「よし、俺が美味いものを作ってやる!エルフのように野菜をたくさん食べれて、肉も美味しく食べれるものだ。夜を楽しみにしておけ!」


フォルテはそう言い残して食堂を去っていく。


「そうだ、今からパン粥を食べて胃を動かしておけ!」


一度出て行ったフォルテは、言い残した事を言いに戻ってくると、一方的に言葉を残してまた出かけようとする。


「待ってください、私も一緒に行きます!土地勘とかも分からないでしょう!」


ケミーニアは、飛び出していくフォルテを慌てて追いかけて行く。


2人が飛び出して行くのを、国王達は驚いた様子で見送った。


ケミーニアのあの様な慌てた姿を見たことがなかった為、何も言えなかったのだ。


しかしこの後、国王達はフォルテに言われた通り、キチンとパン粥を食べるのだった。



街に出かけたフォルテは、ケミーニアの案内で市場に向かっている。


「私がいなかったら市場までどうするつもりだったんですか?」


「ははは、そんなの人に聞けば良いだけの話じゃないか!」


ケミーニアの小言を、フォルテは完全にスルーである。


「平和なこの街であろうと、善人だけではないんです。攫われでもしたらどうするんですか!」


「そんなの後で考えれば良い。人程度に俺が攫える訳がないだろう」


「それはそうですが……」


この街まで来る道中で、フォルテがとてつもなく強いのは分かっている。

狩りをする姿は、人間の冒険者でも相手にならないほどだ。

フォルテの使う錬金術は、寿命の長いエルフに許された秘術であり、その中でも寿命の長いハイエルフの、人体錬成まで突き詰めたフォルテの錬金術は、他の追随を許さないものである。


しかし、それはそれで、トラブルの元であり、その事が心配なケミーリアによって、フォルテは市場を案内され、必要な食材を買い求めていくのであった。




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