第9話 買い出し
屋台の主人の名前はケルクと言った。
「それで、ケルクは家族はいるのか?」
「は、はい。妻と子供が1人……」
ケルクはフォルテに言われて店じまいして共に行動していた。
今日の売り上げが無くなるので不満ではあったが、兵士が付いている貴族の様な人物に逆らうことはできなかった。
「そうか、なら作業は家だな。それで、いつも買っている肉屋は何処にある?」
「あ、はい。こちらです」
ケルクは、自分が行く様な肉屋に案内してもいいものか分からないまま、肉屋へと案内した。
「へいらっしゃい!」
肉屋に入ると、元気な声で挨拶があった。
「ん?ケルクさんじゃないか、今日は屋台はいいのかい?」
「いやあ、このお貴族様に教えを乞う事になりまして……」
ケルクが苦笑いで話すが、フォルテには見えていない。
フォルテは並ぶ肉に夢中であった。
「なるほどなあ」
フォルテの様子を見て、店主も苦笑いだ。
変な貴族に捕まって文句も言えないのだろうと察する事ができた。
「それで、ケルクがいつも買っている肉はどれだ?」
「こちらですね」
店主は貴族に気を遣ってケルクがいつも買うものよりも、少しいい肉を指差した。
「店主よ、本当にこれからケルクにこの肉を今までと同じ値段で売り続けるのだな?」
店主はフォルテの言葉に冷や汗をかいた。
見破られるとはかんがえていなかった。
安い肉で文句を言われてはたまらないとの考えが裏目に出た。
「すみません、こちらです……」
本当にいつも買っている肉を伝えられて、フォルテは怒ることもなく満足そうに頷いた。
「主人よ、この店は捨てる油はどうしておる?」
「油ですか?血と一緒にまとめて捨ててますが?」
店主はフォルテの質問の意図が分からずに首を傾げた。
フォルテはニコリと笑って付き添いの兵士にガストンがいつも食べているのはどの肉かを尋ねた。
「え、っと私は買い出しをした事がありませんのでわからないのですが……」
困り顔の兵士に店主が助け舟を出した。
「領主様ならうちの様な店の物は買わずに上級商店の物を買うと思うが、種類としてはこれがこれだろうと思います」
「ほう、なんと言う肉だ?」
「ブルとピギーです」
それを聞いてフォルテは顎を手で撫でながら考える。
名前的には牛と豚っぽい。
「店主よ、これを一欠片ずつ試食してもよいか?」
「分かりました」
店主は肉を一欠片ずつ切ると、裏で少し焼いてからフォルテに提供した。
まずはブルの方から。
フォルテが口に入れると、一欠片からでも分かる肉の旨み、脂の甘さが先程の串焼きとは比較にならない程だ。
日本の牛肉とは違い、少し臭みがあるものの、そこまで気にする必要は無い程度だ。
お次はピギー
先程のブルよりも油分が多い。それに濃厚だ。
だが、これはイノシシの様なジビエ特有の癖があった。
獣臭さと言ってもいい。食べる者をえらぶ。苦手な人もいるだろうと言った印象である。
味見をした後、フォルテは店主に交渉を持ちかけた。
「店主よ、このブルの捨てる脂を格安でケルクに売る気はないか?」
「捨てる脂をですかい?」
フォルテの話を、店主は訝しげに見た。
捨てる物を買うとはどう言う事なのかと疑いの目だ。
「なに、将来この脂が売れる様になるかもしれん。その時、ケルクにだけは同じ値段で売り続けると言う約束だよ」
フォルテの話を、店主は馬鹿にしたように鼻から息を吐いた。
「そんな事にはなりませんよ。もしそうなっても、もともと捨てる物だ。ケルクさんにはタダで提供しますよ」
店主の言葉にフォルテは嬉しそうに頷いた。
「だそうだ。やったな、ケルク。お前も、聞いたな?」
フォルテの言葉に兵士はしっかりとした返事を返したものの、ケルクは捨てる脂を貰うだけの話に呆れ顔である。
「後は、柔らかい鳥の骨はあるか?」
「柔らかい鳥の骨ですか? ……なんに使うか分かりませんがね、ケルクに変な魔術でもさせる気ですか?」
「いや、ケルクをこの街一番の屋台の店主にして、その後は自分の店を持たせるのだ」
真面目に話すフォルテに、揶揄われているのかと店主は口元をひくつかせるが、上流階級の人間に文句はいえない。
ケルクを可哀想に思うばかりである。
フォルテはそんな事を店主が考えているなど気にもとめず、出された骨の中から目的の柔らかい骨を選んでこれもタダで貰えるように交渉した。
店主はもうどうにでもしてくれと言った様子だ。
とりあえず、今日の分の脂と柔らかい骨を袋に入れてもらい、肉屋を出た。
勿論試食分の肉の代金は払ってある。
ニコニコ顔のフォルテと、脂を貰っただけで店を出る事に困惑気味のケルクと兵士が後に続く。
その後も、パン屋で廃棄のカチカチのパンを安くで買ったり、八百屋では話を聞くだけで何も買わずに野草を数種類根っこごと手に入れるなど訳のわからない行動をくりかえした。
最後に、卵と酒を正規の値段で買った後、フォルテはケルクに自分の家まで案内させるのであった。
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