それは吹き抜ける風のような

 私は震えながら九国さんの背中にまるで子供のように隠れていた。

本能的に自分ではどうすることも出来ない状況で有り、相手である事を感じているための恐怖だった。

全員フルフェイスのヘルメットで顔を隠しており、表情が分からないことも恐怖感を強めている。

九国さんの説明通りであれば、それでこの人数に囲まれているのは絶望的と言っても良い状況。

どうすれば・・・いや、九国さんを信じよう。

彼女なら大丈夫だ。

だが、九国さんは表情を無くしたまま動こうとしない。

何かをひたすら考えているようだ。

どうしたの?いつもみたいにババッと・・・

そうか。わたしがいるから。 

私を守りながら戦うのは、かなりの負担なんだ。

「ご免なさい。私が足引っ張ってるね・・・」

ポツリと言うと、九国さんは驚いたように私の顔を見ると、頬を優しく撫でた。


「どうされました?そんな事おっしゃらないで下さい。えっとですね・・・何やら誤解されてるようですが・・・」

そこまで言いかけて、九国さんは私を抱きしめると横に飛び退いた。

さっきの人がバイクで突っ込んできたのだ。

「お嬢様、私が『今』と言ったらどんな状態であろうと私に向かって出来るだけ手を伸ばして下さい」

「え?手を・・・」

「はい。ではよろしくお願いします」

そう言うと九国さんは立ち上がって、両手を挙げて歩き出した。

え?え?

「どうしたんだ。やられる覚悟が出来たのか?身の程を弁えた美人は好きだぜ。逆らわないなら俺たちの所にお前だけは連れて行ってやるよ」

ライダー達はおかしそうに笑った。

「お子ちゃまらしい低俗な冗談ですね。私を連れてどこに行くのですか。遠足ですか?オヤツを持って行かないと。500円分くらい」

「・・・お前こそ笑えない冗談はほどほどにしろよ。お前のナイフや銃では俺たちを殺せない」

「そうですね。確かにその通りです。私ではあなたたちの動きを止めることはままならないでしょう。サーティンのような残虐な暗殺術でもあれば別ですが。あなたたちと親和性の高い彼女がいないこのタイミングを狙っていたのですね」

「答える理由は無い」

「かしこまりました」

九国さんはそう言うと、素早い動きでジャケットの中に手を入れた。

そして取り出したのは・・・パチンコだった。

二股に分かれた先にゴムがついてて、石を引っ張って飛ばすあれだ。

そして、次の瞬間。

九国さんが放った球は目の前のライダーの肩にめり込んだ。

「グ・・・ガア!!」

ライダーはうなり声を上げてバイクから落ちていったが、その瞬間九国さんがそのバイクに飛び乗った。

そして、ハンドルを握ると私の方に走らせた。

「今!」

あ、そうだ!

私は慌てて手を伸ばすと、その手を九国さんが握り凄い力で引っ張り上げ、そのまま抱き留めた。

「私にしっかり掴まってて下さい。振り落とされないように」

「うん!」

私は九国さんの胸に身体を埋めるように、くっついた。

そしてバイクはそのままライダーたちを置いていった。


「お嬢様、荒っぽい真似をして誠に申し訳ありません。確実性に欠け、なおかつ早さが求められる物だったので」

「ううん。大丈夫」

私はニッコリと笑いながらそう言うと、九国さんに再びしがみ付いた。

「九国さん・・・凄いかっこよかった」

「え?」

「何て言うか、惚れ直しちゃった」

「あ、あの・・・お嬢様。それは・・・少し、いや結構照れます」

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