パルシュの決断

 その瞬間、何がおこったか。その数分前、パルシュはトマスがこちらをじっと見ていることに気づいていた。その目は、何かをいいたげでこちらも見つめ返すと、彼の心理の中に直接言葉が響いてくるのを感じた。まるで自分ではない何かが、自分の頭を使ってものを考えているかのようだった。

“村長は、このままだと殺されるだろう、それは君にとってもまずいはずだ”

 そういわれると、パルシュはふと考えた。

“どうしておまえはそれを知っている?”

“この場でお前はゴルドに指名されて“罪”を償うためにあげられた、だが、真実はお前の知っている事ばかりじゃない”

“どういうことだ”

“もう時間がない、次の一刺しで奴は死ぬぞ……”

“!!”

 魔王が剣をふりかぶったとき、パルシュの体はうごいた。なけなしの魔力をふりしぼり、魔術を唱えた。

「シルド!」

 すると、ある理由で普段はつかえない魔法が展開して、左腕に魔法陣の盾が錬成された。その勢いで魔王の一撃を待ち構える。

《ギャキィイイイン》

 パルシュは、衝撃で閉じた目を開く、すると彼の目の前で、切っ先は方向をかえて、魔王は態勢を崩した。かと思いきや、すぐに姿勢はピシッともどった。パルシュはそれに違和感を感じたが、魔王はすぐさま、距離をとっていった。

「ほう……罪人が罪人をかばうか……まあいいだろう……しかしもったいない事をした、それならば“殺せば”無罪放免だったというのに」

「!?」

 パルシュはトマスのほうをむいて念じる。

“トマス!!どういう事だ”

“その言葉の通りさ”

“お前、騙したな”

“いいや、話していないだけだ、それに“罪”をつぐなわなければ、魔王の手を逃れても、人の咎める事からは逃げられない”

“くっ”

 魔王は剣をのばし、その切っ先をずらした。

「ふむ、いいだろう、ならば、お前の罪からだ……パルシュよ」

「えっ……」

「お前の罪を語れ、パルシュよ」

「罪……俺は罪なんて……」

「ないというか」

「そうではなく、いったいどれのことか、多すぎて」

 困惑するパルシュに、魔王は肩を落として、ため息まじりにいった。

「“ある捨て子”についての事だ」

「!!それは罪では……!!」

「出生は罪ではない、出生を罪とするのは、この村のしきたりだろう……その子の罪を、かばった罪のことだ、それが……お前の隠す罪、お前たち三人の罪だ!!」

 そういわれたとき、パルシュは目の前が真っ暗になる気がした。


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