村長

村長は大衆におしだされ、台地の上に放りだされた。衣服は丸裸にされ、醜い姿をさらしている。人々にされたのだろう。顔がはれ上がり、体中に傷あとや、負傷の後がある。

「う……う……」


 その姿をみて、醜いと感じ、ノースの姿を連想したパルシュは思いがけず言い放つ。

「ふん、自業自得だ」

 それを聞いて、アレポが尋ねる。

「えっ?」

 魔王の影は、彼に近づき、自分の腹部に手を伸ばすと、影から光る剣を生成した。それは反射の光などとも思えぬ自発的な光をはなっていて、それ自体が魔力の塊のように思えた。

「罪、罪、またもや罪を重ねるとは……愚鈍で愚かな村長だ」

「ひ、ひい、やめてくれえ」

《ドスッ》

 ふりおろされた剣は地面に突き刺さる。

《ゴロゴロッ》

 なんとかしてその切っ先をよけた村長はコロコロと転がっていく。

「ひぃいい」

 魔王の影は怒鳴る。

「おつきのものをあんなふうにコマにしておいて、自分だけいきようとはいい度胸だな!!」

 しかし、そうどなるうちも、村長はたちあがり次の攻撃をよけようとした。

「そこへなおれ!!!」

 その叫び声は、パルシュや、アレポ、そこにいる誰もを硬直させた。ただの怒声ではない。それは魔力をおび、何らかの―行動を止めるような―力を持っているように思えた。


 何よりその効果を一番うけているのは、彼、村長のゴルドであるように思われた。体が硬直し、ききだというのに、ピンっと体の軸もつまさきも、手の指もはりつったったまま動かずにいる。


「あ……あ」

 振り向こうとするも、そのしぐささえも許されていないようだった。逆に魔王がとけて影になり、まわりこみそれはまた、魔王の姿になった。

「ウ、ウオオオ」

「ひ、ヒィイ」

 躊躇なく、剣はふりおろされた。それは村長の右腕を肩ごときりおとした。

「アアアアアアア!!!」

 絶望の叫びが響き、しかし、魔王はやめなかった。

「心配するな!!ゴルドよ、お前は一番初めに殺すが、しかし、すぐに殺しはしない……」

《プシャアア!!》

 次は右足の指、右足、左足の肘からした。どんどんと切り落とす。しかし、影がまとわりつき止血する。

「痛みを味わえ!!これが"魔王"を騙したものの“罪科”だ!!」

 やがてからだのあちこちをきりおとしたあと、最後に魔王は、ことさらおおきく剣を、肩近くでふりかぶり、突き刺す予備動作をした。その目標は、どう考えても胴体、心臓部だった。

「死ね!!!」

 その瞬間、アレポは目を閉じた。



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