腹黒男め……。4
私たちが目を白黒させているうちに、バタバタバタっと駆ける音が近づいてくる。
開けっ放しの扉の向こうからは、何やら突進してくるような人影が見えた。
「ベラが怒ってたのってあいつらかよ!」
「遅刻したくせに堂々としてんな」
背後の男の子達が口々にそう言う。
……遅刻?!
猛突進してきたのは、恰幅の良いおばさんで、どこにそんな俊敏さを持ち合わせているのかと疑問になるほどだった。
「やぁっと来たと思えばっ!!勝手に入ろうとするとはいい度胸だね!!新入生!!」
耳が割れるような大声に思わずヴィンスと身を寄せ合う。恰幅がいいだけではなく彼女は大柄だった。
「クレア・カトラスとヴィンス・カトラスだね!!」
「そうですっ」
「はい」
それぞれ呼ばれて返事をする。ヴィンスの苗字ってカトラスって言うんだ、へぇー私と同じじゃね。と今関係ない事を考えて、それからまたその女性に視線を向ける。
「入寮式をすっぽかし、部屋決めの時にも現れず、しまいには魔法玉登録もせずに、寮に入ろうとはいい度胸だよ!!」
ずいっと顔を近づけられて、ヴィンスがビクッと反応する。何気ないしぐさに可愛いなぁと私は場違いな事を思う。
「聞いてるのかい!クレア・カトラス!」
「はうっ」
耳を引っ張られ、いててと顔を歪めると、怒りに顔をしわくちゃにした彼女が私の顔をじっと覗き込んでふんっと鼻を鳴らす。
「これは素行報告に記載するから覚悟するように!!」
こくこくと必死に頷くと私の耳をパッと離して、腰に手を当てて胸を張る。
「あたしは、ブロンズ寮の寮母!ベラ・スミス!好きにお呼びなさい!!」
そんな自己紹介にまで大声を出さずとも聞こえているのに、耳がキンキンいたいのを我慢してベラの話を聞く。
「さぁて、本当なら罰則ものだけど??」
外国のアニメのようにベラは悪役然とした笑顔を浮かべて私たちに問いかける。
意図が読めずにヴィンスと顔を見合わせて首を傾げると、ベラがさらにふんぞり返って言う。
「反省の色がある子には、温情ってものをくれてやらなきゃねえ??」
おお、なるほど、さすが教育機関の寮母さんだ、ここは景気よく謝ろう。そして、寮に入れてもらうのだ。
私は再度ヴィンスに視線を向けた。二人で謝るよ、いいね?と確認するように。すると彼は、ハッと何かを察して神妙にこくりと頷く。
「大変、申しわ──────
「この方は悪くありませんっ!私の不手際でございますどんな罰則も私がお受けします!!」
勝手に一歩踏み出して、ヴィンスは声を上げる。
……私、貴方がそんなに大きな声出せること初めて知ったよ……。そうかぁ、ヴィンスはローレンス相手だから前に出なかっただけで、寮母さんの前にならでるのだなぁ……。
ベラの瞳はギラッと鋭くなって、あ、やらかした。と思う。
彼女の目には、ほらお前が犠牲になれと私が指図したように写ったのだろう。……あぁー。
それからしばらく、立ったまま寮の前で、説教をされたのは言うまでもない。そして、出ていく人、帰ってくる人、これから共に学園生活を送る新入生一同のさらし者であった事も言うまでもない。
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