第17話 深更




 誰もが眠りに就いているだろう深更の時分。

 弥栞の就寝を確認した狐と狼、もとい禾と汐黎は動き出した。

 またもや同時に。

 目指すは『菫県』の姫の自室だ。

 こっそりと入って、こっそりと恋文、もとい侵略を企む証拠品、かもしれない文の中身を確かめる。


 城に入ってしまえば。

 いや、弥栞の手から文が離れてしまえば。

 いやいや、夜という実力が発揮できる時間帯になってしまえば、こちらのものだ。

 闇に紛れて素早く任務を遂行し、動物の姿とおさらばである。

 楽勝も楽勝だ。


 競い合いながら姫の自室へと同時に辿り着いた禾と汐黎。さて、どうやって部屋に入ろうか、床下か、天井裏からか、外の窓からか、堂々と扉から入るか。思案したのち、またまた同時に動き出した。

 禾は自身の身体を結晶化させて、扉の隙間から部屋の中へと侵入しようとした。

 汐黎は自身の身体を霧状化させて、扉の隙間から部屋の中へと侵入しようとした。

 けれど。


((………入れない、だと?))


 禾と汐黎は動物の姿に戻ると無言で視線を合わせては、同時に動き出した。

 正面の扉がだめならば、外の窓の隙間から、もしくは、床下の隙間から、はたまた天井裏の隙間から部屋の中へ侵入しようと考えたのだ。が。

 どこからも侵入できなかったのだ。


「「………」」


 禾と汐黎は考えた。

 こいつが一緒に侵入しようとするから入れないのだ。

 だったら。


 やる事は一つである。












(2023.10.8)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る