第21話 ホーネルカーの工場

 数日後、私とミシェウはホーネルカーの経営している町工場へ行くこととなった。


「シャマシュ、行くよ!」


「は、はい」


 宮殿を出て、繁華街を抜けて裏通りへ。

 冒険者たちが戦っていく中で、壊れてしまった武器の修理を請け負っているんだっけ。それで、業務拡大のために政府の兵士たちの武器の修理なども請け負おうとしているとか。


 こいつのこの後の悪行は私は全て知っている。無茶苦茶な作戦を連発させ、冒険者も兵士も大量に無駄死にさせた。おまけにどれだけ追及しても「軟弱者の奴らが悪い」とか「根性なし、国王が悪い」など最後まで謝罪の一つもせず責任転換しかしなかった。


 道を歩いていると。古びた建物と、貧しい人が住んでいるエリア。

 隣には周囲をきょろきょろとみているミシェウ。スラム街の姿を見て、何か考えているのだろうか。


 ボロボロの服を着た子供や大人の人と時折すれ違って、エリアの外れへ。


「ここっぽいわね」


「そうね」


 ミシェウの視線の先にある2階建ての古びた建物。建物からは、ハンマーをたたくような「カンカン」とした音が聞こえている。武器の修理でも、しているのかしらね。


 私達は玄関へと向かっていく。コンコンとノックをすると、ホーネルカーが出てきた。


「おう2人とも、ようこそおいでました」


「こんにちは~~」


 手をふて挨拶をするミシェウ、私も軽く会釈してあいさつ。


「よろしくお願いいたします」


「はあ、立ち話もなんだし中に入りなされ。紅茶を用意しております」


 そして、中へ入っていく。どこか掃除されていない、埃被った廊下を行き、窓の外を見る。

 庭で、剣の修理係なのだろうか──若い男の人。


 ボロボロになった剣を途中で研ぎ終わると、剣をほっぽり上げた。そして、あくびをした後近くにある長い椅子に寝っ転がっていびきをかいて眠ってしまった。


 なんというか、放牧的なのね。廊下で働いてる人とすれ違う。


「こんにちは」


「こんにちは~~」


 ちょっと心配になる。大丈夫なのかしらこの職場。


 そして、ホーネルカーの部屋へ到着。大きな机に本棚。書斎のような場所でここで職務をになっているのだろう。周囲には金銀でできた効果そうな飾り物、さらに自分の権威を見せつけたいのか数々の勲章が飾られている。さっきまでの掃除が届いてない、古い建物とは違って、ここだけはひときわ豪華に作られている。やはり心配だ、自分の場所以外は興味が薄いことの表れなのだから。


 ふかふかのソファーに腰かけると、ホーネルカーがおほんと咳をして、話を始めた。


「では、私がここまで成り上がった武勇伝を離そう。15年前、領地を守らなくてはいけなかったシュタットの戦い。誰もが自分の命惜しさに突撃をためらう中、私だけが手を挙げた。命などいらぬと。そして、突撃は成功し名を挙げたのだ」


「ホーネルカーさんは、命がけの突撃を繰り返すことで名を挙げたんですよね」


「ああ、出世して部下が付くようになってもやることは変わらなかった。部下とともに何度も死線を戦い勇猛果敢な命知らずの突撃を成功させ気が付けばこんな地位まで出世をした」


「それは何度も聞いてるわ」


 ミシェウも知ってたのね。

 こいつの厄介なところは、現場指揮官としてはとても優秀で、部下からの人望も厚いということだ。だから支持する人も多いし、こいつが発案した無茶な提案も通りやすくなってしまう。


「何度も命を張った突撃──それこそが私が評価された理由、そして私が立場を作った理由でもあるのだ」


 それで成功したってのが良くないのよ。

 その方法で成功したということは、何かあったらその方法ばかりに問わられてしがみついてしまうということだ。


 実際はどんなに無謀な案であっても。

 現にこいつの作戦はそういった人的資源をすり減らす作戦ばかり。でも、自分たちの領地や権益が脅かされると考えた貴族たちはそんな作戦を指示し、人々の犠牲を顧みずに人命を消耗させていったのだ。



 本当なら、絶対指揮官役なんてさせたくはない。けど私とミシェウだけで彼らの声を跳ね返せる自信はない。

 腕を組んで考えていると、ミシェウが肩をたたいてにこっと笑って話しかけてくる。


「ねえ、ちょっと二人で話さない?」


「え……」


 戸惑う私をよそに。ミシェウは私の肩を押して部屋の外へ。


「すみませ~~ん、ちょっと二人で話させてください」


「かまわんよ。良い返事を待っているぞ」



 ギィィとドアが閉まる。

 そして、部屋の外へ押されてドアが閉まるとミシェウが人差し指を唇に当て、小さい声で話しかけた。


「えーと、あの人を指揮官にするの反対なんだよね?」


「はい、ただ私ひとりの力で何とかなるかどうか」


「提案があるんだけどさ。とりあえず、ここはコクリと言って許可して、不安があるなら私たちもついていって何かあったら指導したり彼にやるべき行動をとったりすればいいんじゃないかな。しっかり監視するって意味で」


「それはいいかもね」


「だから、ここは彼の言葉に従いましょう。あまり逆らって心証を悪くすると今後の作戦に同行させてもらえない可能性だってあるわ」


 それしかなさそう。彼に行動させておき、私達は隣にいる。そしておかしいことがあったら修正させ追及する。


「それしかないわね。行きましょう」



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