第18話 突然の出来事

「お姉ちゃんは怒ってるんだからねっ! ぷんぷん。勝手なことして、」


 わざと顔を膨らませて、カイセドの正面に立つ。カイセドは重そうな、けげんな表情のままこっちをじっと見ている。


「俺はメンデスを愛するって決めてある。じゃあ、俺が王位継承権を放棄するからミシェウが国王になってくれ」


「だ、だ、だって……私王位継承権ないし」


 私には、やらなければならないことがある。占星術の研究。前にもカイ君に言ったけど、王家、シュレイダー家では皆が魔法を使えて、それが王家神授説につながっている。だから、魔法が使えない私は周囲から疎まれる結果となった。


 そんな私が国王になんてなったら、絶対国は立ち行かない。


「サポートだって応援だってするよ、でもこの国の国王として、象徴としてあなたが必要あんだって。わかってよ」


 メンデスも、罪悪感を感じているのかこっちから目をそらし複雑そうな表情をしていた。


「メンデスのことは、批判は承知だ。でも選択した、彼女のコンラート家も混乱したこの国を求め上げてくれた功績がある。それに、私が国王の地位の重圧に苦しんでいた時、隣で声をかけてくれ、励ましてくれたのが彼女だ。苦しいときに救ってくれたメンデスの気持ちにこたえることこそ、私がなすべきことだと考えている」


 きっぱりと、自信をもって言い放つカイセド。そこまで思いが強いんだ……まあ、あんなところで啖呵切っちゃうくらいだし当然だよね。どっから言おっかな~~と考えていると~~と考えているとシャマシュが一歩踏み出した。


「でも、コンラート家は王国の派閥の一種でしかない。そんなところに露骨に肩入れするような真似をしたらほかの貴族からの反発を招く、最悪王国内でのパワーバランスが壊れかねないわ」



 そう、私が心配だったことだ。ほかの貴族から、嫉妬を買い目の敵にされる。最悪、カイセドとコンラート家と反カイセド=コンラート家派に真っ二つに国が分断される可能性だってある。婚約者を決めるときは、代々そういったバランスを考慮して決めていた。

 婚約に選ばれなかった家には、肥沃な土壌の土地を融通させたり、して埋め合わせをしたり。



「それでも、私はメンデスを選ぶ。私が一番つらいときに寄り添ってくれたからな。一人の人間として、私はメンデスを愛すると誓ったのだ」


「それなら、ここから出家して一般人として一国民として働きながら支えればいいじゃないですか、かまわないと思いますよ。一人の国民として生きていくというのも。自由に恋愛がしたいというなら、そうしてくださいよ」


 そ、そこまで言う……?? さすがに言いすぎなんじゃないかな? ちょっと引いた……。でも本気で言ってるのがわかる。意志の強さを感じさせる強い瞳。


 シャマシュと一緒の青白い瞳は、無表情さと相まって周囲に冷たい印象を与えている。

 その強くも冷たい目で、2人を見つめている。



 カイセドも、シャマシュの強い意志に思わず一歩引いてしまっている。メンデスに至っては、肩が震えているほどだ。


「ちなみに、私は覚悟していますよ。ミシェウを一生愛すると、この地位とミシェウへの愛。どっちかを問われれば迷うことなくミシェウの方を取ります」


「私もだ。一度は婚約をしたもの同士共通点があるな──それくらいミシェウへの愛の気持ちは変わらない。私の意志を変えようとするなど、無駄なことだ」



「確かに、あなたは昔から頑固な一面もありましたからね」


 カイ君──一度心に決めると絶対に意思を曲げないからなぁ──どうしたものか。もう、婚約は決まったものとみて、それで王国内のバランスが壊れないように奔走するしかないのかなあ~~。


 食い下がらないシャマシュを見ながら、ワインの残りを飲み干して考える。シャマシュも、ちょっと意固地になりすぎじゃないかな? 確かに婚約破棄されて以降、どこか焦っているような──余裕がないような感じはあるけど。そこまで、怒りを感じているのかな? それともほかに理由があるとか──。


 シャマシュも、見てあげたほうがいいのかな?そんなことを考えこんでた、その時だった。



 ドォォォォォォォォォォォォォン!!


 突然、大きな爆発音がこの場を包み込んだ。騒然となり、貴族の人たちが何事かと周囲に視線を向ける。しかし、この前みたいな化け物はいない──が代わりに奇妙としか見えない光景を目の当たり知りした。


 食べ物が置かれた机が突然ひっくり返ったり、どこかに投げ飛ばされたりしている。足元を見ると、大きな足跡が次々に生まれてきている。ナニコレ???


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「逃げろぉぉぉ!!」


「気持ち悪い、早く何とかしてくれぇぇぇ!!」



 貴族たちがパニックになり逃げまどう人たち。とりあえず、カイ君を守らないと。カイ君の前に立つと、隣にいたミシェウがささやく。


「えーと、体を隠すステルス機能を持った魔獣です。名前は確か──『バァル』。1つ目、蜘蛛に近い身体をしています。2つ目、戦闘能力自体は波。3つ目体を透明にして暴れるのが厄介です」


「ありがと」


 確か古代の本で見たことがあるかも。でも生で見たのは初めて、詳しいのね。あとシャマシュ、最近いつも何か考え込んでるような──何かあったのかな? そんなことは今どうでもいい。

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