第3話 出会い

図書館を出る時、僕は一人の少女とすれ違う


そこで、僕は不思議な感覚にとらわれる


その図書館の風除室の動線は直角で抜けた先はピロティになっている。


ピロティは中庭に面していて、中庭の反対側には公民館の建物がある。


その日は暑いけれど、穏やかで風のない日で

直接、風が抜けるような作りではない風除室に


その少女とすれ違う一瞬だけ、抜けるような清々しい風が吹き抜けて


僕の脳裏には、古い建物に隠れた角の道を曲がるビジョンと


曲がった先に、光の燦燦と降り注ぐ穏やかな大海原が見えたのだ。


実際には、直角に曲がる風除室で外にはピロティが見えているだけなのに


暫く立ち尽くしていた僕に声を掛けたのは、拓也だった


「ゆき、何そんなところでボケーとしてる飲み物はどうした?」


「拓也、今女の子とすれ違わなかった?華奢で清楚な感じの子」


「いや、見なかったけど可愛いの?」


「顔までよく見れてないけど、スゲー可愛かったと思う」


「でも、俺とすれ違わないっておかしくね?

ゆきがここまで歩いてくるの後ろから見てたけど

誰ともすれ違わなかったし、俺が追ってくるときもすれ違ってないって

それによく見てないのに、スゲー可愛いって何で言えるんだよ」


「いや、理由はわからないけど、とにかく可愛いのは確信できる。」


「なんだそれ、ゆき 全然答えになってないぞ」


「とにかく建物の中に入ったのは間違いないんだ

俺、中、探してくる」


「って、飲み物どうするんだよ?」


「それは、後


拓也 そこのソファーで出ていく人見ていてよ


俺が中探してる間に出ていかれちゃったら困るからさ」


「もし、来たらどうするんだよ」


「俺を呼んでくれ」


「呼ぶって、ここで大きな声なんて出せないぞ図書館なんだから

どんな子かも分からないし」


「いや、見れば絶対拓也にも絶対分かる!とにかく頼んだ、俺中探す。」


「おいおい!」


僕は、中を一通り探したが少女は見つからなかった


「いなかった、女の子通ったろ!拓也なんで呼んでくれないの?」


「女の子なんて通らなかったって」


「じゃまだ中か、もう一回探してくる。」


僕は、中をもう一度出口から奥に向かって探したが少女は見つからなかった。


「いなかった、なんでだろ?」


「ゆき 幻でも見てたのか?」


「確かにおかしなビジョンは見えたけど…」


「ビジョンっていえばさ、


4月からNTTが携帯電話サービス始めたってニュースあったじゃん」


「あ~あのでかい箱も持って歩くやつね」


「さっきみたいな時便利だろうな」


「そりゃ便利だけど、そんなことのためにあのバカ高い契約料払えないだろ」


「そうだけど、で、どうすんの女の子は?」


「見つける、入っていって出ていかないのも不思議だし


今日はこのソファーで一日出ていく人を見張ってる


何よりあの子は僕の天使だ」


「まともに顔見えてもいないのによく言うな


俺は、学習コーナーの机に戻るぜ」


「OK」


しかし、


その日は、図書館が閉まるまで出口を見ていたが少女が通ることはなかった。

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