第11話 拝神対ロビン

「拝神允敏!? これが本物の.....!」

 ロビンは目の前の男を睨み言った。

 伊口にはつい数時間に見た顔。まさしく自分を殺そうとした男だ。

 そして、この男こそがこの街を人形まみれにした張本人。

 改めてみても恐ろしい男だと伊口は思った。

 ガタイが良いわけでも、いかつい風貌をしているわけでもない。その辺の一般的な男性と体格や風貌は同じだ。

 だが、なぜなのか。伊口はこの男が恐ろしくてたまらなかった。

 この薄汚い意外、普通の人とこれといって変わらない見た目の男が恐ろしかった。

 無機質な表情はもちろん恐ろしい。しかし、伊口に湧き上がるこの本能的な恐怖はそれだけによるものではない。

 そして、本当に恐ろしいのはその原因が分からないことだった。

 なぜなのか分からないが直視できないほど恐ろしい。それがこの拝神允敏という男だった。

「『C』、拝神です。拝神允敏と遭遇しました」

『拝神だって!? こっちのモニターではなんの反応もないよ!? でも、君のカメラに写っている男は確かに拝神に該当する! これはどういうことだ!?』

「反応がない?」

『こっちのモニターにはそこには誰も居ないことになってるんだよ!? モニター上はそこに拝神なんて居ない!』

「どういうことです」

 さすがのロビンも取り乱しているようだった。どうやら、『C』が使っているセンサーのようなものには目の前のこの恐ろしい男がまったく感知されていないらしかった。

 それがどれほど異常なことなのか伊口には分からなかったが『C』とロビンの動揺から相当なことなのは見て取れた。明らかにこの拝神という男は常識から逸脱しているのだろう。それは伊口の常識だけではなく、ロビン達裏の世界の常識からさえもなのだ。

「やかましいやつらだ。俺が用があるのはその後の男だけなんだがな。貴様らに興味は無い」

 拝神が言う。ひどく陰気な声だった。しかし、不思議と不快感がない。

 ロビンは状況が読み取れない中でも拝神に応じる。

「興味がない、とは殺したことさえ認識しないというだけでしょう。どの道お前は自分を見た人間は皆殺しにするはずです」

「ふむ、間違いではない」

 拝神はその表情は一切変えず軽く首をひねった。

「だがやはりお前らはどうでも良い。言葉を交わす暇さえ無駄だ。俺はその男を殺さねばならん。どんな手を使ってでもな」

「なぜだ。たかがオルゴールを見ただけでしょうに。そのオルゴールはそれほどお前にとって重要なものなのですか?」

 答える期待は薄いと分かりながらもロビンは聞いた。

 しかし、拝神は答える。

「オルゴール? なんの話だ。とにかく俺はそいつを殺さなくてはならん」

「? どういうことです。お前は自分の持つオルゴールを見られたから伊口さんを殺そうとしているのではないのですか」

「なにを言っているのかまるで分からない。無意味な問答だ。時間が惜しい。始めるぞ」

 そう言うと拝神は懐からいくつも箱を地面に放った。拝神の箱、まさしく人形を出現させるための箱。

「『C』!」

『ほい来た!』

 『C』が言うが早いか伊口たちと拝神、それらを囲うように周囲から幾何学模様が浮かんだ壁がそそり立った。透明な壁、まるで淡い光の塊のようだ。それらが四方を囲んでいる。

「ふむ」

 そして、今まさに拝神が放った箱、それらは口を開けたまま静まりかえっていた。中から人形が出てくる気配はまるでなかった。

 拝神はその状況を見てもこれといった感情を顔に浮かべることはない。

 だが、状況は明らかに拝神の劣勢を示している。

「なるほど、魔力の流れが乱されている。ジャミングのようなものか。術式が発動しない」

「その通りです。この障壁の中では魔力は正しく循環しない。お前の複雑な術式の人形の箱など発動はしないし、人形だって動きはしません」

 そう言ってロビンはハンマーを構える。そして、そのまま拝神に突っ込んでいった。

 対する拝神の箱からはやはりなにも出てこない。

 この壁は恐らく『C』が張った拝神用の切り札といったところなのだろう。拝神の箱の魔術を封じる結界。

 拝神の術を封じ、有利な状況を作った上でロビンは拝神を捕縛しようとしている。

「ふむ、肉体強化は使えるか」

 そう言って、拝神は背後の光の壁を殴りつけた。しかし、光の壁に変化はない。

「壊せんか」

 そう拝神が言った時にはすでにロビンが拝神の目前に迫っていた。そして、そのハンマーが拝神の土手っ腹を捉えた。

「ぐぬっ.....!」

 そして、そのまま拝神は吹っ飛ばされて地面を転がった。拝神は立ち上がるがかなりよろけている。右腕はだらりと下がって動かない。かなりのダメージを負っている。

 それはロビンの攻撃が間違いなく有効であることを示していた。

「抵抗できない相手を痛めつけるのは本意ではありませんが仕方ない。このままお前を拘束します。拝神」

 状況は圧倒的にロビンが優勢。このまま上手くいけば拝神が捕まるのは時間の問題だった。

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雷槌のロビンと人形遣い @kamome008

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