第7話 行動開始
廃工場から出た二人は港湾地区の通りに戻った。
オオムカデに襲われた場所からざっと500mほどの場所だろうか。
あれから1時間と経っていない現場は警察や消防など様々な車が回転灯を回しながら取り囲んでいた。
ロビンの話ではその『管理下統括制御機構』とやらがうまいこと話をつけてロビンと伊口はなにも関わる必要はないという話だった。
「まだいろいろやってるな」
「ええ、ですが我々が出向く必要はありません。我々は拝神を探さなくては」
『その前に彼の安全確保について話しといた方が良いんじゃない?』
と、唐突に割って入る声があった。
声だ。音ではない。なにせ、伊口の頭の中に直接響いてくるのだから。
さっき聞いた声だった。
「今のは」
「紹介が遅れましたね」
『話しかけるタイミングを見計らってたからね。出来る男として』
「そうですか」
声の若干寒い言い回しをロビンは華麗にスルーする。
「改めまして、彼は『C』。私の任務を補佐するオペレーターです」
『よろしく伊口さん』
「は、はぁ。よろしく」
まったく得体の知れない声、男であろうそれに伊口は小さく会釈した。見えているのかは伊口には分からなかった。
「『C』は遠く離れた機構の拠点から私達をサポートしてくれます。実のところ私も一度も会ったことはなく顔は知りません」
『機構の任務の特性上不要な接点はなるべく減らした方が良いからね、仕方ない。でも、それでサポートがおろそかになるということはないから安心して欲しい』
「は、はぁ」
なんにも分からない伊口は適当に相づちを打つしかなかった。
「正直、私でも人格がどうかと思うことがありますが仕事ぶりに関しては信頼出来るのでご心配なく」
『たはー! 手厳しいな!』
「こんな風な若干対応しづらいテンションですが、数々の修羅場をともにくぐった仲です」
『言い方言い方』
なんか変なノリの人物だなと伊口は思ったが口にはしなかった。あまりそういう人格の部分に言及することは控えるべきだと思ったからだ。
とにかくこの声はロビンの仲間であり、そして警戒する必要はなさそうだという事実だけが今の伊口には重要なことだった。
この頭に響く声も魔術だということか。こんな電話より性能の良い魔術など伊口は聞いたことがないからこれも今は失われた魔術なのだろうと思った。
『それじゃさっきの続きだけど。やっぱり、この近辺のセーフハウスに彼を預けるべきかと思うけど』
「そうですね。護衛しながら戦うことも考えましたがやはり限界があるでしょう」
『そうだろうね。相手が並ならまだしも『拝神允敏』だからね。万全を期すべきだと思う』
二人は何やら相談している。つまるところ伊口をかくまう話をしているようだ。
「セーフハウスってことは隠れ家みたいなものですか?」
「はい。各地に存在する私達の協力者達の拠点です。表向き一般企業や住宅を装っていますが、魔術による堅牢な結界が張られ、簡単には突破できません」
『少なくとも君一人守るには十分なはずだよ』
「今までから推測される拝神の戦力から推定すればですがね」
『不穏なこと言うなよ.....』
Cは不安そうに声を漏らした。
しかし、そういうことならば安心出来そうだった。
そのセーフハウスとやらに伊口が入りさえすれば、あとはロビンたちに任せて良いのだ。伊口はセーフハウスの中で状況が改善されるのを待てば良いのだろう。
『ここから一番近いセーフハウスは、と。南に1.3km地点。『俵駄菓子店』だね』
「マジかよ。子供の頃ちょくちょく行ってた駄菓子屋じゃないか。あそこのばあちゃんそんな秘密結社の一員だったのか」
「誰が機構の協力者かなんて一般人には分からないものですよ。ではとにかく向かいましょうか」
とにかくそのセーフハウスとやらに向かうことになるようだった。そこに入れさえずれば良いのだ。
1.3km。歩いて20分ほどか。こんなただの街中を1.3km歩く程度まるで大したことではない。
自転車さえあればもっと早かったと伊口は思った。そういえばあのオオムカデに破壊されてしまったのだった。新しいのを買うしかないか、などと伊口が思っていると。
「どうやら、そう生やさしい話ではなさそうですね」
ロビンが言った。
その視線の先にはマネキンのようなものが10体ほど、通りに立っていた。もちろんそののっぺらぼうの顔は2人に向けられていた。
「あ、あれって」
「拝神の人形ですね。伊口さん、決して私から離れないでください。突破します」
「わ、分かった」
そう言うと、ロビンは駆けだした。伊口でも付いてこられるほどの速度で。
伊口もその少し後を必死についていく。
「はぁっ!!!」
人形達がロビンに襲いかかる。ロビンはそれにハンマーで応戦する。戦闘が始まる。伊口はそれを少し後から見守ることしか出来ない。
この人形達は伊口を殺しに来たのだ。そして、なぜだか2人の場所を分かっているかのように現れた。
どうやら、伊口が思っているより遙かに恐ろしい事態になっているようだった。
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