第25話 レイカ伝・クルミ伝

25 レイカ伝・クルミ伝



アーネスト様へ


ノートの最初のページには、そう記されていた。


   ***


私が転生してきたばっかりに、アーネスト様とレオンハルト様には迷惑をかけてしまいました。

乙女ゲームの世界だから、何をしても良いと言う理由にはなりません。

アーネスト様の人生である一部の時間を奪ってしまって、ごめんなさい。


私は幸せでした。相棒のレイカと、作戦を立てて試練を乗り越え・・・喧嘩もしました。

レイカはアーネスト様が大好きで、何時も小言を言われてきました。

蹴り飛ばされた事もあります。


レオンハルト様も一生懸命に協力をしてくれて、いつの間にかチームの様に行動していました。

レオンハルト様は、アーネスト様の幸せを考えての事だったと思います。


レイカはとても良い子です。真面目で面倒見がよくて、礼儀正しくて、ちょっと怖いけど優しい。

全ては私が悪いのです。

私が調子に乗って、アーネスト様である事を楽しんだから・・・2人は悪くありません。


レイカと一緒に過ごす内にレオンハルト様の事は勿論、アーネスト様の事が大好きになりました。

(ヤキモチは妬かないで下さいね。)



アーネスト様・・・お幸せになって下さい。


クルミより



   ***



レオンハルトは、クルミ嬢なりにレイカ嬢を庇っているのだと想像がついた。


2ページ目からは、毎日綴られた日記だった。


レオンハルトは、アーネストの心臓に悪いのではないかと心配をしていた様だが

アーネストはクスクスと笑いながら、その日記を読んでいた。


「卒業パーティで、何故あんなにも薔薇を貰えたのか不思議に思っていたんです。

クルミ様のお陰でしたのね。」

アーネストが言った。


いや・・・それは違うぞ。アーネストの可愛さはアーネストのものだ。そう思ったが

レオンハルトは口を挟むのを止めた。

思いの外アーネストが嬉しそうにしていたからだ。




そして2冊目


   ***


レオンハルト様・アーネスト様へ


私達が転生をしてしまったせいで、ご迷惑をかけてしまった事をお詫び致します。

憧れのアーネスト様へ転生された事は、私には喜ばしい事でしたがアーネスト様にとっては心外である事でしょう。


レオンハルト様には、非常事態とはいえ異世界の私達を理解し、受け入れて下さった事に感謝しております。



伝えたい事は沢山ありますが、何を言っても言い訳にしかならないでしょう。


お二人の幸せをお祈り申し上げます。


レイカより


   ***


短い文章であったが、レイカ嬢らしい・・・

潔いというか、言い訳を良しとしない姿勢がみてとれた。


「レイカ嬢は、とても良い人でした。」

レオンハルトは、レイカ嬢の代わりに言い訳をしてみた。



「まぁ、ミシェル・レイモンド様を・・・」

アーネストは目を丸くして、レオンハルトにそのページを見せた。


要注意!!として記されたページには

レイモンド子爵令息が、アーネストを襲おうとした事。それを撃退した事が書かれてあった。


レオンハルトは烈火の如く、怒りを覚えたが


アーネストは、

「こうするのかしら?」と言いながら、腕を振ってみせた。

自分の身体が思いの外柔らかいので、吃驚する。


レイカは毎朝、空手の自主練として柔軟や筋トレを行っていたのだ。



その他にも色々な事が記されていた。


クルミは料理の事がメインで、お菓子のレシピやこの世界では見かけなかった和食の作り方。

その中でも、やたらと大豆が押されていた。


ミソスープやソイソース。豆腐に豆乳、きな粉に納豆。

大豆は様々な味の変化をとげ、色々な食材に化けるのだとか。

飢饉に備えるために、研究すると良いと教えてくれた。


後、ガールスカウトで習ったという変な踊りとゲーム。役には立たなさそうだが・・・



レイカは朝練のメニュー。

アーネストの身体を考えてストレッチに重点を置いたそうだ。

健康にも良く、痴漢の撃退にも良いので是非続けて欲しいと。


他にも、怪我や病に対しての応急処置や


異世界式の算術方法など。領地を運営するにあたって役立てて欲しいと書いてあった。



レオンハルトとアーネストは、夢中で二人の日記を読んだ。時が過ぎるのを忘れてしまうほど。


一息ついてレオンハルトが

「今日はもう遅い。タウンハウスに泊まって行きなさい。部屋を用意しよう。」

アーネストを促すと



「レオンハルト様、私は何て幸せなのでしょう。」

と言うアーネストに耳を傾けた。



「私が襲われそうになったあの日・・・レオンハルト様が助けて下さり、心が挫けそうになった時にレイカ様とクルミ様が支えて下さいました。今こうして笑顔でいられるのも、レオンハルト様とお二人のお陰です。それに・・・完璧な紳士のレオンハルト様しか知らなかった私に、お二人は色々なレオンハルト様を教えて下さいました。とても嬉しく思います。」


レオンハルトは自分の焦った姿や、驚いた姿などアーネストには見られたく無かったが

結果、こんな笑顔のアーネストが見られるのだから悪くはないな・・・と思った。













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