第21話 返事

 父上との面会を終えたわたしたちは部屋に戻って作戦会議をしだした。


「虎姫様、どうしますか? 内容」


「う~ん……」


 どうしよ。マジこの感じ。わたしに手紙がサクッとかける能力があればここまで迷う必要は無い。けど。


「にしても、なんで御屋形様、急にあんなこと言ったの? 娘に返事を書かせるなんて」


「しっ。千代丸、滅多なこと言うんじゃないよ」


「けどさ……」


 千代丸、与六を見ながらため息をついた。


「ほんと、父上、無茶ぶりすぎる」


「ほんとうですね。あの相模の獅子に返事を書かせるなんて」


「しかも、文なんて書いたことないよ〜。わたし。まず、文の書き方を教えて欲しかった……」


「あ、そっちなんですね」


「だってさ〜」


 もちろん千代丸の指摘通りそこも心配だが、どうしたらいいのだろうか……。


「う〜ん……」


 もし、この場に与六が居たら何か出来るかもしれない。そうふと頭によぎるが、「直江状」を思い出してやめた。同盟国とはいえ相手の大名を煽ってどうすんねん。


「とにかく、文の書き方は私が教えますから虎姫様は内容を考えてください」


「内容って、「面会の件お受けします」的なことを書けばまいいでしょ?」


「そうですね。でも、こういう手紙は社交辞令も必要ですよ」


「天気がいいですねとか?」


「はい。その通りですね。この場合は「氏康殿の体調が芳しくないそうですが、どうですか?」のような内容を書けばいいと思いますよ」


「……わかった。書いてみるよ」


 父上が何を意図して書かせてるのか意味わからないが、書き終えなければならない。父上の期待する奇抜なアイデアなんて思いつかないが、無難でいいだろう。


◇◇


『北条氏康殿へ

 月は4月になり季節の変わり目のなりますが、体調の程はいかがでしょうか?氏康殿は病に伏せがちだと聞きました。体調の変化には十分お気をつけください。

 この度、父の上杉謙信様の命により、娘である虎が書かせて頂いております。不備の程ありましたらお許しください。

 さて、早速本題ですが、面会の件ですが、ぜひお受けさせてください。わたしも相模の獅子と呼ばれた北条氏康殿に興味があります。どのような方なのか、是非ともこの目に焼き付けたいのです。どこでお会いしましょうか?

 最後になりましたが、お誘い頂きありがとうございます。義兄上もその家族も皆息災でわたしも元気に暮らしております。今後ともこの同盟が永続的でありますように。

上杉虎』


◇◇


「ようやく、できた〜」


 わたしは四苦八苦しながら日が暮れるまで手紙を書いていた。途中与六や景勝らが手伝ってくれて字が歪でも雰囲気は良くなったような気がする。


「なかなか上出来ですよ。虎姫様」


「ありがとう。……うう、普段しないことしたからすごい疲れた……」


 もう動きたくない……。途中手紙書くのに飽きて千代丸と与六を誘って手合わせをして、その後また頑張って、と繰り返したから余計疲れた。


「にしても、虎姫様、武芸の腕、どんどん良くなっていますよ」


「ほんと……? 信綱には負けちゃったけど」


「それでも私や与六に勝てるようになってきています」


「えへへ。だとしたら嬉しいな」


 最近武芸の鍛錬の量を増やした。理由は単純に負けて悔しかったから信綱に厳しめに稽古をつけてもらっていた。


「そろそろ誰か剣豪に学んでみてもよろしいのでは?」


「誰か剣豪って誰?」


 今は1571年で、塚原卜伝はぎりぎり難しいだろうし。


「上泉信綱という方とはどうですか? あの方ならよろしいかと」


「うーん……引き受けてくれるかな?」


「やってみないと分かりませんよ」


 わたしの剣の腕前はまだまだで上泉信綱のような剣豪に教えてもらうほどの実力は無い。筋肉量でも増やしてみるか?わたしはまだ5歳だし、今から鍛えても問題なさそうだし。この能力を実際に戦場に使うのかよく分からないが、極めてみてもいいのかもしれない。


「そうね。とりあえず、父上にこの手紙を届けてこよっか」


「はい。付き添いますよ」


「私も同行致しますよ。虎姫様」


「……うん。ありがとう。信綱。千代丸」


 信綱も千代丸もいい子でわたしがなにか困っていたりなにかしようとしたら必ず手伝ってくれる。もちろん与六も忘れていない。信綱の彼の顔を見たらやはり御館の乱を起こしてはならないと思う。彼は御館の乱後、報酬が少ないと怒った家臣に切り殺されている。御館の乱さえなければ起こらなかったことだ。絶対にあれは起こしてはならない。信綱のためにも、お船のためにも。

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