ep.04 待ち合わせ
さて、地下鉄から降りて、いよいよ意気揚々といった感じで笹良テレビ塔にやってきたんだが……、
「遅い」
俺を出迎えたのは不機嫌な顔をした浅草だった。
「いや、遅いって……今、待ち合わせ時間の10分前だぞ?」
「それでも、遅い」
「なんでだよ」
大抵の漫画のヒロインは10分前で許してくれるぞ。
不満を隠さない俺に、浅草は蔑みを浮かべた目線で言う。
「普通、彼女を待つんだったら30分前からって決まってますよね」
「いや、決まってないが?」
一昔前の理不尽系メインヒロインかよ。今日日見ねえぞ。そういうところだ、そういうところ。
そんな超ド級ワガママモンスター浅草は俺に指を突きつけると講釈を垂れ始めた。
「良いですか、先輩。女の子の準備には時間がかかるんです。だけど、それと同時にデートを楽しみな気持ちあって、準備をめちゃくちゃ早く始めたりもするんです。そうなると、何がどうなると思いますか?」
「時間の調整が上手く行かずに変に早い時間に待ち合わせ場所に着く」
「そう言うことです」
「いるわけねーだろ、そんな奴」
30分前は流石に考えなしが過ぎるだろ。それだけでもう疲れて、デートに支障をきたしそうだ。
だが、そう言うことを言いだすということは、つまりはそういうことなのか? ふと浮かんだ単純な疑問を聞いてみる。
「もしかしてお前が大徳の野郎とデートする時、30分前に来るのか……?」
「そんなわけないじゃないですか。女の子は準備に時間が掛かるんですよ」
しれっと、きょとんとした顔で言いやがった。「何を聞いてたの?」と言いたげな顔だ。じゃあさっきのはなんだったんだよ。
はぁ、仕方がない。浅草の戯言を大海のように広い心で受け流してやる。気にしたところでどうしようもないしな。
しっかし、なんというかコイツが選ばれなかった理由が分かる気がする。そりゃ、こんなじゃじゃ馬、軟弱な大徳の手に余るだろうよ。アイツは優しさが売れているタイプだからな。コイツには振り回されすぎて疲れてしまうだろう。長続きはしないに違いない。
「可哀そうに」
「なんですか、突然」
「なんでもね。で、今日はどうするんだ?」
煮え切らない俺の返事に、浅草が怪訝な顔をする。だが無視していると、諦めたのか浅草は俺の質問に答える。
「今日は先輩の彼氏力検定をしようと思っていたんですけど……」
「けど? なんだよ?」
「とりあえず今は服屋ね」
「服屋ぁ? お前の?」
「いや、先輩の」
「え、俺の?」
一応、初デートだからそれなりの一張羅を選んだつもりだ。いつか来る恋人とのイチャイチャに備えて、頭を何日を悩ませて用意したとっておきだ。だから、そんなに酷いものではない、と思っているが……あ、ダメだな。浅草が渋い顔をしている。
「先輩さ、女の子とのデートに虎柄のスカジャンはどうなの?」
「かっこいいだろ?」
「せめて革ジャンにしてよ……いや、高校生で革ジャンも……」
「えぇ~? そんなに良くないか?」
「良くない、ぜんっぜんっ、良くない! ダサい、古い、昭和のトリプルパンチでダメダメ」
散々な評価だった。っていうか、昭和ってなんだ、昭和って。スカジャンは最近も流行っただろうが。
「けっ、やっぱり今どきの軟派な女子高生には男の渋みってのが分からんか」
「もうそういう価値観が昭和。それに高校生の癖に男の渋みとか、100年早いし」
「100年経ったら骨すら残ってねーよ」
「あと、先輩の顔的にそういう方向性じゃない」
「えぇ?! いやいや、どう考えてもこういう方向性だろ」
「……先輩、鏡見たことある? 手鏡あるから見せよっか?」
あるわ! 鏡くらい!!
ったく、つくづく失礼な奴だ。散々こき下ろしてきやがって。しかし、これほどこき下ろすってことはよっぽど自分のセンスに自信があるんだろう。口角を上げて、ニヤリと笑うと言ってやる。
「いいぜ、そこまで言うなら付き合ってやるよ」
「いちいち上から目線なのがムカつく。先輩、ほんとそういうところですよ」
「先輩だからな」
「誇らしげにしないで」
ということで、俺と浅草は服屋に向かう。
自信に満ちた浅草のセンス……見せてもらおうじゃないか。
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