216話、マナガルム


そこに居たのは、大きな大きな犬、いや、狼でした。


「あのう、お話からにしません?」


「我が子らを誑かして住処までノコノコやってきた襲撃者と、話をしろと?」


あ、こりゃだめだ。ぶちギレだ。


「に、逃げていいっすかね?」


「私はもう逃げてるのです」


「久しぶりに命の危険を感じるのう。ゾクゾクするわい」


すぐに襲ってこないのが不気味なほどに殺気が強い。私もちょっと、足が震えている。


「あー、あなたはエリスの配下ですか?」


そう聞いた途端…… 殺気が、膨れ上がった。


「ひぃ」


「帰るのです! 帰るのです!」


「う、うごけん」


いやいや、おかしい。強すぎる。戦ってすらないのに、勝てる気がしない。なにこれ。


「我が…… あのクズの配下だと? 我の可愛い子らをこの世界に無理やり連れてきて、地下に追いやり、挙句にはこのような場所に封印した、あのクズの?」


「あ、いや、私はエリスの敵で、あなたがエリスの配下じゃなかったら、戦わずに済んで嬉しいなって、はなしでして」


ふと、すこーしだけ殺気が緩んだ。

後ろで深呼吸がきこえる。


「あいつの敵、とな」


「ええ、この迷宮の最深部に、エリスの一部があるらしいのでぶっ壊しにきたんです」


「ほお、ほお。あいつの敵ならば、我の味方と言っても過言ではないだろう。わが子らに手を出さないのであれば、ここを通り抜ける事を許そう。ただし、わが子らを傷付けでもすれば……」


「こんな可愛い子たち、傷つけるわけないじゃないですか! ねえ皆!」


「う、うす」


「なのです」


「そうじゃそうじゃ」


よし、いける。


「ならばよい。……名乗っておらなんだな。我は獣神、マナガルム。ここではない世界で、王を、いや、神をしていた」


「あ、私はタキナ。この世界で王をしていて、エリスを食って神になります」


「なんと、お主も…… なら、願いがある」


「あ、はい」


だいたい何言われるかわかってるけどね。


「わが子らを、お主の国に連れて行ってやってはくれんか? 無理にとはいわん。差別迫害されるようであれば、連れていかないほうがいい」


「あ、全然大丈夫です。私の国では種族は関係ないですから。魔物も魔族も獣人も、みんな大事な国民です」


「なんと懐の広い国だ…… それなら、それならば…… 我も、共に連れていってくれんか」


「あ、たすかります」


このコボルトたちの親として連れていこう。あとめちゃくちゃ強いから防衛力も高まる。

あ、でももしもの時のために…… 試すか。


「ちょっといいですか?」


「うむ」


「テイム。あ、できた」


「……まあ、良いがな。良いが……事前に、教えてくれんか、こういうことは」


あ、うん、まあ…… そうね。

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