36話、はじめての雨



29日目、朝。

ケルちゃん枕から目覚め、着替える。

紅茶を淹れ、ゆっくりと頭を覚ましていく。

魔物たちに今日の仕事を振り分け、街の散策。

みんなと挨拶を交わし、相談や雑談を聞く。

いつもの朝のルーティンだ。


「今日もいい天気ねぇ」





今日はどこで何をしようかな。

最近は迷宮ばっかりだったし、近隣の散策でもしようかな?砂漠の奥にでも行ってみてもいいかも。扉の向こうの海は本当にあの砂漠の向こうなのかな?

馬ちゃんなら爆速で砂漠横断もできるだろうし。


馬ちゃんといえば、山にも行きたいと思ってたんだった。どうしようかな……山かな。魔の森の奥の山を見に行こう。


「馬ちゃん、レオ、メタスラちゃん、行こっか」


いつものメンバーで行くことにする。

馬ちゃんにまたがり、あのやまにいくよ、と伝えた。


「じゃ、走っていいよ……うおあああ早いあははは!ええええ木の上走るの!!?すごーーー!あはははは!」





半時間ほど走り、山の麓の、木々が比較的少ない所で止まった。

山には、横幅がメートルを超えるような木々が生えている。デカすぎて木々の間隔が広い。めちゃくちゃでかい柱が建つ建築物みたいな感じだ。前世の都市の地下にこんな雰囲気の建造物あった気がする。


そして、多分これが魔力が濃いってやつなのだろうな、やっぱり。

城の地下で感じたような、異様な空気を感じる。

ジメジメしているような、まとわりつくような、伸し掛るような空気だ。

魔物たちは少し嬉しそうにしている。魔力が濃い方がこの子達には良いのだろうな。


「さて、入るかな?……大丈夫だよね?」


少し奥の方へ向かってみる。

魔物は……居る。視線を感じる。ただ、すぐに襲ってくるような事はないようだ。様子見、警戒?


やはりというか、大きな魔物をよく見る。

随分と大きなトロル、太さが私の身長以上の蛇、見上げて首が疲れるほどの高さの象のような魔物。

魔力が濃いと大きく育つのかな?めちゃくちゃ強そうってわけではないが、単純に質量が規格外だな。

だが、今のところこれといってテイムしたい子は居ない。もう少し奥にいくか……山頂はまあ、今日は無理だろう。高すぎる。


もうしばらく登ると、また木々が大きくなり、間隔が広くなった。上を見れば葉で隠れきっているので、遠くから見た時にはわからなかったものだが。

この調子だと山頂付近はもっとデカいんだろうか。それはそれで見てみたい。


「しかし魔物が……でかい……」


魔物も大きくなった。蜘蛛のような……蜘蛛か?足がもう長すぎてよくわからない。

木々の間を弾丸のような速度で跳ねまわってるリスのような魔物も、遠くから見ると小さく見えるだけで、木のサイズを考えたらサイクロプスくらいの大きさがあるが。


この辺の魔物が大きいのは、やっぱり魔力が濃いからだろう。登るほど濃くなっていってるし。

テイムして、街に置くとして、そしたら酸欠みたいな、魔力欠乏とかになるかもしれない。……ここではテイムは辞めておこう。


さて、山頂は次回に置いておいて、帰るとしよう。





街へ帰還。

結局テイムも魔物作成も使っていないので、日が沈む前に城の地下にでも行こうかな、と思っていたのだが。


ポツリ、ポツリ。


頬を、水滴が濡らす。


「え……?うそ!?」


ポツリ……ザァ、と、水が降ってくる。

雨だ。29日目にして、はじめての、雨。


「え、降るんだ!?まあ降るか。いいや、どうしよ、どうもしなくていいか?……ただの雨だよな」


ただの雨に動揺するほど、いままで雨のことが頭から抜け落ちていた。

別に洗濯物を干しているわけでもないし、特になにもするべき事はないはず。なのだが。


「おーい!タキナ!見てみろ!上!空!」


慌ててかけてくるゼストに言われ、空を見上げる。

あれ、晴れ間が多い……いや違う、雨雲が、無い。

あれは雨雲じゃなくて……


「くじら……?」


空を覆うほどの、巨大なくじらが、空を、泳いでいた。

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