第34話 依頼の準備

 鍛冶屋を後にした俺は、胸の高鳴りを感じながら再びギルドへと足を向けた。新しい剣への期待と、これから始まる長期依頼への緊張が入り混じる中、ギルドの扉に手をかけた。


 中に足を踏み入れると、すぐにリリル、ルカ、テックの姿が目に飛び込んできた。その表情には、これから始まる冒険への期待と、仲間を思う温かさが滲んでいた。


「シーク!」リリルが俺に気づき、明るい声で呼びかけた。彼女の声には、いつもの元気さに加えて、少しの興奮が混ざっているように感じられた。「どうだった?剣の修理は上手くいった?みんな、気になって仕方がなかったのよ」


 俺は彼らのテーブルに近づきながら、少し誇らしげに答えた。「ああ、予想以上にいい話になったよ。ガッツさんが新しい剣を作ってくれることになったんだ。今回の依頼で手に入れた素材を使って、俺専用の剣を作ってくれるらしい。明日の朝には出来上がるって」


「おお!それは素晴らしいニュースだな」ルカが感心したように言った。彼の目は輝いていた。「新しい剣と共にパーティーの初依頼に出発か。なんだか運命的な感じがするね。きっと、その剣と共に俺たちも新しい段階に入るんだろう」


 テックは興味深そうに目を輝かせた。その表情には、武器に対する並々ならぬ関心が表れていた。「新しい剣の性能が気になるな。どんな特性があるのか、早く見てみたいな。ガッツさんの腕前なら、きっと素晴らしい剣になるはずだ。シーク、使ってみた感想を詳しく聞かせてくれよ」


「みんな、ありがとう」俺は感謝の気持ちを込めて言った。仲間たちの期待に応えたい気持ちが、胸の中でますます大きくなっていく。「それで、長期依頼の準備はどうだ?何か足りないものはないか?俺たちの冒険を成功させるためには、万全の準備が必要だからな」


 リリルが自信に満ちた表情で答えた。「大丈夫よ。必要な物資は全て揃えたわ。私たちの知恵を絞って、考えられる限りの状況に対応できるよう準備したのよ。あとは明日の出発を待つだけね。でも、最後の確認をしておくに越したことはないわ」


「よし、じゃあみんなで最後の確認をしよう」俺が提案した。俺の声には、リーダーとしての責任感が滲んでいた。「この長期依頼、きっと大変なことも多いだろうけど、一緒に乗り越えていこう。俺たちの絆を試す良い機会になるはずだ」


 俺たちは頷き合い、テーブルを囲んで座った。これから始まる冒険への期待と決意が、この瞬間、俺たちの間で静かに、しかし確実に共有されていった。空気が引き締まり、パーティの結束がさらに強まるのを感じた。


「みんな、準備しているものを最終確認しましょう」リリルが提案した。「アイテムボックスに入れた物を確認したいの。長期依頼では、小さな見落としが大きな問題になりかねないからね」


 リリルは説明を始めた。その口調には、入念な準備をしてきた自信が垣間見えた。「まず、テントが2つあります。男女で分けるためよ。これらは魔力を込めて投げると展開するタイプのもの。設営の手間が省けるから、移動の多い今回の依頼には最適だわ」


「食料は12日分用意したわ」リリルは続けた。「12日間は安心して進めるわ。それに、緊急時の備えも忘れずに」


 ルカが頷いた。彼の表情には、リリルの準備に対する信頼が表れていた。「そうだね。12日分あれば、問題なく依頼を完了すれば十分だと思うよ。それに必要に応じて補充していけばいいし。リリル、本当によく考えてくれたな」


 テックが話に加わった。「俺は予備の武器を何本か買ってきたよ。安価な剣や槍だけど、念のためにな。いざという時の保険さ。それに、武器の修理や交換が必要になる可能性も考えてな」


「へえ、そうなんだ」ルカは驚いた様子で言った。その目には、テックの先見の明への感心が浮かんでいた。「何本も買ったの?さすがテックだな、細かいところまで気が付くなんて」


 テックは頷いた。彼の表情には、仲間のために尽くした満足感が混ざっていた。「ああ、結構な数になってしまってな。安いとは言え、財布の中身はかなり軽くなってしまったがな。でも、みんなの安全のためだ。それに、いざという時に役立てば本望さ」


「でも、そういう準備は大切だわ」リリルが同意した。彼女の声には、テックの行動への感謝と賞賛が込められていた。「長期依頼では何が起こるかわからないもの。テックの判断は正しいと思うわ。みんなで助け合えば、どんな困難も乗り越えられるはず」


 俺も頷いた。胸の中に、仲間たちへの感謝と信頼が溢れていた。「そうだな。予備の武器があれば安心だ。テック、ありがとう。お前の気遣いのおかげで、俺たちの冒険がより安全になりそうだ」


 テックは照れくさそうに笑った。その笑顔には、仲間に認められた喜びが滲んでいた。「いや、みんなのためだからな。これで少しは安心して冒険できるだろう。俺たちの力が、どんな困難も乗り越えられる力になるはずさ」


 話し合いは続き、みんなで持参する道具や装備の確認を進めていった。薬草、包帯、ロープ、地図、そして各自の得意分野に応じた特殊な道具まで、細かく点検していった。それぞれのアイテムについて、その用途や必要性を確認し、時には使用方法の確認も行った。この過程で、パーティの団結力がさらに高まっていくのを感じた。


 俺たちは互いに顔を見合わせ、それぞれの意見を出し合いながら、準備リストの最終確認を始めた。長期依頼の成功を左右する重要な作業に、全員が真剣に取り組んだ。この時間を通じて、俺たちの絆がさらに深まっていくのを感じた。それぞれの専門知識や経験が、パーティ全体の力となっていく。この瞬間、俺たちは単なる仲間以上の存在になったような気がした。


 確認作業が終わる頃には、外は完全に日が落ちて夜になっていた。窓の外を見ると、街灯の明かりが暗闇に浮かび上がっていた。その光景は、これから始まる冒険への期待を象徴しているかのようだった。


 俺は立ち上がり、みんなに向かって言った。声には、充実感と明日への期待が混ざっていた。「よし、これで確認は終わりだな。みんな、本当にお疲れさま。こんなに入念に準備できたのは、みんなのおかげだ。明日も早いし、そろそろ解散しよう。でも、今日の準備で、俺たちなら何があっても乗り越えられる気がしてきたよ」


 リリルが頷いた。彼女の目には、明日への期待と少しの緊張が浮かんでいた。「そうね。みんな、しっかり休んで、明日に備えましょう。この準備をしたんだから、きっと素晴らしい冒険になるわ。私、今からわくわくしてきちゃった」


 テックも同意した。彼の声には、いつもの落ち着きに加えて、少しの高揚感が混じっていた。「ああ、明日は長旅の始まりだ。万全の状態で臨もう。俺たちの絆と、この入念な準備があれば、どんな困難も乗り越えられるはずさ」


 ルカは軽く手を振った。「じゃあ、また明日ね。朝は遅刻ないでね。みんなで力を合わせれば、きっと素晴らしい冒険になるはず。楽しみにしてるよ」


 みんなで最後の挨拶を交わし、それぞれの宿路についた。その瞬間、俺たちの間に流れる空気が、これまでとは少し違って感じられた。より強く、より深い絆で結ばれた仲間たちとの別れ。それは明日からの冒険への序章のようだった。


 俺は静かな夜の街を歩きながら、自分の宿へと向かった。明日からの冒険への期待と少しの不安が胸の中でぐるぐると回っていた。しかし、今日の準備と仲間たちとの時間を思い返すと、その不安は徐々に薄れていった。代わりに、これから始まる冒険への強い決意と、仲間たちとの絆への信頼が心を満たしていった。

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