第33話 新剣への期待

 そんな話をテックとリリルとしていると、ルカが依頼を受けて戻ってきた。彼の表情には少し緊張感が漂っていた。


「ただいま。依頼を受けてきたよ」ルカは息を整えながら言った。


「お、ルカ。お疲れ様」と俺が返事をする。リリルは目を輝かせながら、


「ルカキュン、すごい!」と言いながら、うっかり頭をなでようとして感電してしまった。「あばばばば」と言いながら、彼女は可愛らしく倒れこんだ。


「おいおい、大丈夫か?」と俺が心配そうに尋ねる。「それで、ルカ。護衛対象の詳細は?」とテックは、意に介さず聞く。


「明日の朝8時に、ここに集合だ。目的地は狼牙族ろうがぞくの集落らしい」とルカは丁寧に説明した。


「なるほど、明日の朝か」と俺は頷いた。「準備する時間は十分にありそうだな。みんな、今日は早めに休んで、万全の状態で明日に備えよう」と俺が言うと。


 テックは同意して付け加えた。「そうだな。長旅になりそうだし、装備の点検も欠かせないな。今のうちにしっかり確認しておこう」


 リリルは好奇心旺盛な様子で尋ねた。「ねぇ、何日くらいの旅になるの?」


 ルカは少し考え込んでから答えた。「えーっと、7日から10日くらいになるって聞いたよ。結構な長丁場になりそうだ」


「そうか」と俺は思案顔で言った。「なら、食料や必需品もしっかり買い込んでおかないとな。長期戦に備えて万全の準備が必要だ」


 テックが俺の方を向いて提案した。「そういえば、シーク。お前の剣の状態はどうだ?前回のエレクトロビックスパイダーとの戦いで、かなり酷使したんじゃないか?電気を大量に流したりして、相当なダメージを受けているはずだぞ」


 俺は自分の剣を見つめ直し、確かにボロボロになっていることに気づいた。「そうだな...確かにかなり傷んでいるな。よし、リークさんに教えてもらった鍛冶屋に行ってくるよ。新しい剣を手に入れて、この重要な任務に備えないとな」


 そう言って、俺はギルドを後にした。心の中では、これから始まる長い旅路への期待と、新しい剣への興味が膨らんでいった。


 ギルドを出た俺は、リークに教えてもらったガッツの鍛冶屋へと足を向けた。店に一歩踏み入れると、ガッツはカウンター越しに俺を見つめ、眉を顰めた。


「おや、リークときてた小僧だな。」ガッツの声は低く、落ち着いていたが、その中に興味が滲んでいた。「何か用かい?」


「はい」俺は丁寧に答えた。「剣の修理をお願いしたいんです」そう言いながら、俺はボロボロになった剣を恥ずかしそうに差し出した。


 ガッツは剣を受け取ると、驚きと興味が入り混じった表情で詳しく調べ始めた。彼の目は剣の一つ一つの傷跡を丹念に追っていく。「これは酷いな。まるで雷に打たれたようだ。一体何と戦ったんだ?」


「エレクトロビックスパイダーです」俺は少し照れくさそうに答えた。「避雷針のような使い方をしてしまって……」


「避雷針だと?」ガッツは呆れ果てた様子で首を振ったが、その目には職人としての興味が光っていた。「まったく、無茶な使い方をする奴もいたもんだ。だが……」


 彼の表情がわずかに和らぎ、口元に小さな笑みが浮かんだ。「そんな戦いに勝ったってことか。やるじゃないか、若いの」


「ありがとうございます」俺は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに答えた。


 ガッツは剣を再度見つめ、決意に満ちた表情で言った。「よし、わかった。この剣、作り直してやろう。お前さんの戦い方に合わせた、最高の一品にしてみせるさ。明日の朝には出来上がるはずだ」


「本当ですか?助かります」俺は感謝の気持ちを込めて答えた。「実は、明日から長期の依頼に出かけるんです」


 ガッツは興味深そうに眉を上げた。「ほう、長期の依頼か。それは大事だな」彼は少し考え込んだ後、続けた。「それなら、もっといい素材はないのか?お前さんの剣をさらに強化できるかもしれない」


 俺は少し考えてから答えた。「実は、レッドウルフやエレクトロビックスパイダーの死体をアイテムボックスに入れたままなんです。使えますかね?」


 ガッツの目が輝いた。その表情には、職人としての興奮が溢れていた。「おお!それは素晴らしい素材だ。特にエレクトロビックスパイダーの固い足なんかは最高の素材になる。ちょっと来てくれないか」


 彼は俺を鍛冶屋の奥にある解体室へと案内した。そこは様々な道具が並び、魔物の素材を扱うための特別な設備が整っていた。「ここに魔物の死体を出してくれ。じっくり見させてもらおう」


 俺はガッツの指示に従い、アイテムボックスからエレクトロビックスパイダーとレッドウルフの死体を取り出した。ガッツはそれらを見て、驚きと興奮が入り混じった表情を浮かべた。


 特にエレクトロビックスパイダーの死体を見た時、ガッツは目を見開いた。「おや、この穴は一体何が原因だ?こんな大きな穴が開くなんて...普通ではありえないぞ」


「ああ、それは」俺は少し恥ずかしそうに説明した。「仲間が放った矢をさらに強く押し込んだんです。チームワークで倒したんですよ」


 ガッツは感心したように頷いた。その目には、若い冒険者たちの成長を喜ぶような温かさが浮かんでいた。「ほう、なるほど。かなり筋力が伸びたようだな。お前さんの成長ぶりには驚かされるよ」


 彼は思案顔で剣を見つめながら、アイデアが浮かんだような表情を浮かべた。「よし、決めた。剣を作り直す時、これらの素材を使って、前よりもさらに強力なものにしてやろう。攻撃力が上がり、君の戦い方にも合った、使いやすい剣になるはずだ。お前さんなら、きっと使いこなせるだろう」


 俺は期待と少しの不安を感じながら、でも確かな喜びを胸に頷いた。「ありがとうございます。本当に楽しみです」


 ガッツは満足そうに、そして職人としての誇りに満ちた表情で頷いた。「では、明日の朝に受け取りに来てくれ。君のために、最高の剣を作り上げてみせるさ。この剣と共に、お前さんの冒険がさらに輝かしいものになることを願っているよ」


「はい、必ず来ます。本当にありがとうございます」と俺は心からの感謝を込めて答えた。ガッツの腕前を信じ、新しい剣への期待が胸の中で大きく膨らんでいった。


 鍛冶屋を後にした俺は、明日の長期依頼に向けて他の準備を整えることにした。新しい剣と共に、どんな冒険が待っているのか。そんな期待と少しの緊張が入り混じった思いを胸に、俺は夕暮れの街を歩き始めた。空には夕焼けが広がり、明日への希望を象徴するかのように輝いていた。

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