狼牙族護衛依頼編

第27話 モテ期

 リークが「なんだ、いまの?」と首を傾げ、眉をひそめた。彼の表情には困惑と好奇心が混ざっていた。しばらく考え込んだ後、彼は深呼吸をして言葉を続けた。


「シーク、聞いてくれ。俺がこっちに来る途中で治療員を呼んでおいた。お前の回復が済んだら、ぜひギルドに来てほしい。依頼の報告は既に済ませてあるが、報酬の分配がまだ終わっていないんだ。それに...」リークは一瞬言葉を詰まらせ、真剣な眼差しで俺を見つめた。「お前と話したいこともあるんだ」


「わかった」俺は短く答えた。その一言には、感謝と期待が込められていた。


「よし、じゃあ頼むぞ。俺たちのパーティは今日一日中ギルドにいる予定だ。ゆっくり休んでから来てくれ」リークは優しく微笑んだ。


 そう言い残すと、リークたちは静かに医務室を後にした。扉が閉まる音が、静寂を破った。


 しばらくして、医務室に治療員がやってきた。彼女は優しく微笑みながら、俺の体に手を当てた。魔法の温かい光が体を包み込み、疲労と痛みが徐々に消えていくのを感じた。


「ありがとうございます」俺は心からの感謝を込めて言った。治療員は頷き、静かに部屋を出て行った。


 医務室を出た後、俺はゆっくりとギルドへの道を歩み始めた。頭の中では様々な思いが渦巻いていた。ルカとリリルからのパーティ誘いが頭から離れない。一方で、リークたちとの絆も深まったばかりだ。どちらを選ぶべきか、それとも全く新しい道を歩むべきか。答えはまだ見つからない。


 夕暮れの街並みを歩きながら、俺は自分の未来について思いを巡らせた。どの選択が正しいのか、自分にとって最適な道はどれなのか。それぞれの選択肢には魅力があり、簡単には決められそうにない。


 ギルドに到着すると、リークたちが待っていた。彼らの顔には安堵の表情が浮かんでいた。


「よお、シーク。怪我も回復して元気そうだな」とゴルドが明るい声で呼びかけてきた。その声には、心からの喜びが込められていた。


 俺は微笑みながら頷き、ギルドの中に入っていった。中では他のメンバーたちも集まっており、みんなの顔には安堵と期待が入り混じっているように見えた。リークが前に出て、静かに咳払いをした。部屋の空気が引き締まる。


「みんな、注目してくれ」リークの声が響く。「今回の依頼報酬の分配について説明する」


「まず、レッドウルフの討伐依頼の報酬だが、これは6人で山分けとする」リークは慎重に言葉を選びながら説明を始めた。


「次に、エレクトロビックスパイダーの討伐報酬だ。これはシークと俺たち5人、それにルカを加えた3つ分ける」リークは一瞬俺を見つめ、微笑んだ。「ただし、シークには特別功労金として、追加で50シルバーを渡すことにした。お前の活躍がなければ、この任務は成功しなかっただろうからな」


「でも、俺はエレクトロビックスパイダー戦の最初の方は何も...」と俺が言いかけると、リークは優しく手を上げて遮った。


「いや、シーク。お前の存在自体が重要だったんだ」リークの声には確信が満ちていた。「お前がいなければ、あの戦いの結果は変わっていたかもしれない。それに、最後の一撃は決定的だった。お前の勇気と決断力が、我々全員の命を救ったんだ」


 リークの言葉に、他のメンバーたちも深く頷いている。その表情には感謝と尊敬の念が浮かんでいた。


「そうだぜ、シーク」ゴルドが大きな声で言った。「なにより、魔物を最終的に倒したのはお前なんだ。そのおかげで俺たちは命拾いしたんだぜ。感謝してもしきれねえよ」


 そう言って彼らは、特別功労金の50シルバーとエレクトロビックスパイダーの討伐金10シルバー、レッドウルフの討伐依頼の達成金5シルバーを俺に手渡してくれた。その重みは、単なる金銭的な価値以上のものを感じさせた。仲間たちの信頼と期待、そして感謝の気持ちが込められているようだった。


 ちなみに元の世界の通貨に換算すると、1シルバーは約1000円相当だ。そして1円がこの世界では1ブロンズに当たる計算になる


 報酬を受け取った後、リークが俺に向かって一歩前に出た。彼の目には決意の色が宿っていた。


「シーク、正直に言おう。お前の実力は十分に認められたと思う」リークの声には真摯さが溢れていた。「これからも俺たちのパーティーに入らないか?お前のような実力者がいれば、もっと難しい依頼にも挑戦できるし、みんなの成長にもつながるはずだ」


 リークの提案に、他のメンバーたちも期待の眼差しを向けてきた。ゴルドは大きく頷き、拳を握りしめている。クロムは腕を組みながら、興味深そうに俺を見つめていた。テックは少し緊張した様子で、俺の反応を待っているようだった。


 俺は一瞬躊躇した。ルカの誘いもあったし、自分の道を模索している最中だった。しかし、この仲間たちとの絆も無視できない。彼らと共に戦い、苦難を乗り越えてきた経験は、俺の中で大きな意味を持っていた。


 答えを出そうとしていた矢先、突然後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこにはルカが立っていた。彼の表情には、複雑な感情が浮かんでいた。


「僕もこいつのことを誘ってるんだけどな」ルカの声には、嫉妬と焦りが混ざっていた。


 場の空気が一瞬凍りついた。リークたちは驚いた表情でルカを見つめている。誰も予想していなかった展開に、全員が言葉を失っていた。


「ルカ、お前も...」リークが言いかけた。彼の声には驚きと戸惑いが滲んでいた。


 俺は困惑した表情で両者を見比べた。選択の難しさがさらに増したように感じた。リークたちとの絆、ルカとの新しい可能性。どちらも魅力的で、簡単には決められそうにない。


 俺たちが言葉を交わしている最中、突然テックが割り込んできた。彼の目は真剣そのものだった。


「いや、俺とのパーティは!?」テックの声には焦りと期待が入り混じっていた。


 テックの予想外の発言に、場の空気がさらに複雑になった。リーク、ルカ、そしてテック。三者三様の誘いに、俺の頭の中はますます混乱していく。それぞれの誘いには、それぞれの魅力がある。しかし、一つを選べば他を失う。その重みが、俺の心を押しつぶしそうだった。


「テック、お前まで...」リークは呆れたような表情を浮かべた。しかし、その目には理解の色も浮かんでいた。


 俺は三人の顔を順に見つめ、どう対応すべきか考えあぐねていた。それぞれの表情には、期待と不安が入り混じっている。この状況を上手く収められるだろうか。どの選択が正しいのか。答えは簡単には見つからない。


 静寂が部屋を支配する中、俺は深呼吸をした。この選択が、これからの人生を大きく左右することになるだろう。慎重に、しかし勇気を持って決断しなければならない。そう思いながら、俺は口を開いた。

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