第10話 試験

 試験開始の合図と共に、相手は「ファイアボール!」と叫び、火球を連続で2、3球放つ。


 俺がバックステップで避けると、火球は地面に着弾し軽い爆発を起こす。土煙が巻き上がり、相手から俺の姿が見えなくなる。その一瞬の隙を突いて、俺は剣を構えながら相手に近づこうとする。


 しかし、試験開始前に相手と10mほどの距離をとっていたため、近づいても依然として距離があり、土煙の外に出てしまう。姿を見られた途端、また火球が飛んでくる。先ほどと同様にバックステップで、ギリギリのところを避ける。


「しかも、武器は槍か。距離があれば魔法で牽制。いかにも近接戦闘は避けたいタイプだな」と、土煙の中でぼんやりと考える。


 土煙が晴れてくると、相手の姿がはっきりと見えてくる。案の定、槍を構えて警戒している。「よし、ここは一気に距離を詰めるしかない」と決意し、俺は剣を低く構えて突進する。相手は再び火球を放つが、今度は予測して一歩引いて避ける。


「何度も土煙を利用されたら火球をやめるべきだと気づくと思うんだけどな」と思いながら、土煙の中で軽く集中し、体内で魔力の流れを作り、身体能力を上昇させる。

 そういえば、火球を放つときに「ファイアボール」と言っていたな。なら、それに倣うなら

身体強化ブースト」かな。


 身体強化ブーストの効果が発動すると、全身に力がみなぎるのを感じる。右手で持っている、普段なら重いこの剣もそれなりに振り回せそうな筋力を得る。この状態なら、相手との距離を一気に詰められるはずだ。


 俺は地面を蹴り、猛烈な勢いで相手に向かって突進する。相手は驚いた表情を浮かべ、慌てた様子で右手から槍を俺の胴体に向けて突き出そうとする。

 槍を完全に突き出す前に右手の剣を突き出し、俺の剣と相手の槍の先が互いの攻撃を相殺する。


 次の瞬間、「ファイアボール!」と相手が叫ぶと、槍の先から強い光が放たれる。剣がファイアボールに押し返され、俺の胴体の右側を切りつけながら手から抜け、スタジアムの壁までずれていく。


 剣を掠めた胴体から血が流れ、痛みで身体強化ブーストが解除されてしまう。


 相手を見ると、槍を持っていた側が少し火傷している。先ほどの自身の魔法によって負傷したのだろう。


 痛みで顔をしかめながら、俺は相手を見据える。剣を失い不利な状況だが、試験はまだ続いている。相手の槍に注意しながら、肩越しに剣を見る。


 剣はかなり遠くにあり、今すぐには取り返せそうにない。横目で相手を見ると、槍を構え直して攻撃の姿勢に移っている。剣は俺の真後ろにある。槍を避けながら後退すれば、何とか剣は拾い上げられるかもしれない。


 そんな俺の考えを読んでいたのか、相手は俺の頭上を飛び越え、真後ろに着地し、胴体目掛けて槍を突き出す。


「あぶねぇ」と思わず口から漏れる。突き出された槍を大袈裟に右側によける。

 恐らく突きが当たらないよう後ろに下がるように避けていれば、火球で攻撃されていただろう。

 しかし、これでは剣を取りに行くことはできない。仮に相手を避けて剣を取りに行っても、背を向けているのでいつ火球が飛んでくるかわからない。しかも、距離を取ってしまうことになるので、また火球を避けながら近づかなければならない。

 先ほどと違って傷を負った状態では、それは少し無理がある。


 俺は次の一手を考える。剣なしで戦うのは不利だが、まだ諦めない。


 わずかに後ろに引き、手を叩いて魔力の流れを再度加速させる。


身体強化ブースト」と小さく呟く。

「隙だらけだな!ファイアボール!」と相手が叫び、火球を放つ。それを軽々と避け、相手の左側に急接近する。


 すると、相手は胴体目掛けて、右腕がクロスするように槍を突き出してくる。


 それを当たる寸前で、相手を見ながら右側に避け、右腕で槍を掴む。余った左腕で、鋭く振り抜かれた左肘があごに直撃する。槍を掴んでいる手が緩んだのを見て、槍を奪い取って後ろに投げ捨てる。


 左腕と腰を引いて、腕を振り抜くスペースを作り、左腕を振り抜いて頭に直撃させる。右手で握りこぶしを作り、腹に一撃入れる。

「吹っ飛べ!」と叫び、勢いよく放たれた鋭い直線的な蹴りが相手の胴にうまく入る。相手は壁の方向に吹き飛び、壁に叩きつけられる。


 しかし、相手はよろめきながらもすぐに立ち上がり、「まだまだ!ファイアボール!」と叫びながら手のひらをこちら側に向け、火球を放つ。


 俺は地面に落ちている槍を拾い上げ、火球に向かって勢いよく投げる。それを見た相手は、近くに落ちていた俺の剣を拾い上げ、槍を弾くために構えを取ろうとする。


 勢いよく投げられた槍は火球を貫き、貫かれた火球は小爆発を起こす。さらに槍は加速して相手に向かって飛んでいく。


 相手は槍を避けようと身を翻すが、間に合わない。槍は相手の左肩に深く突き刺さり、衝撃で相手は壁に叩きつけられる。悲鳴とともに、相手の体が地面に崩れ落ちる。


 そこで、試験官が「そこまで」と言いながら、空に花火を打ち上げながら、試験終了の合図を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る