第8話 酔っ払いの顔の上
冒険者ギルドと書かれた看板の受付カウンターに向かおうとするが、夕方から飲み始めている酔っ払いたちが壁となって俺の行く手を阻む。右に避けても左に避けても、酔っ払いが邪魔をして、俺はあたふたしていた。
そんな俺の姿を見てなのか、あるいはこれが日常茶飯事なのか、若いウエイターの女性が酔っ払いたちの頭上を軽々と飛び越えて、俺の前に現れた。
「いらっしゃいませ。依頼ですか? それとも飲食ですか?」と彼女は尋ねてきた。
「冒険者として仕事をしたいのですが……」と俺は戸惑いながら答えた。ウエイターの女性は明るく微笑み、「わかりました。では、こちらへどうぞ」と言うや否や、俺を荷物のように軽々と担ぎ上げ、再び酔っ払いたちの頭上を飛び越えていった。
俺は「おおおああぁ」と、文字に起こすとこんな感じになるような情けない声を上げた。
ストンと簡単に着地すると、彼女は説明してくれた。「ご安心ください。私には屋根のある空間内なら簡単に飛ぶことができる
「さて、冒険者登録の手続きをしましょうか」と言って、彼女は俺を受付カウンターへと案内した。運んでくれた、女性に感謝を述べると、「これも仕事ですので」といいその場を去っていった。
受付カウンターの女性に声をかけると、「冒険者志望の方ですね。では、身分を証明できるものなどはありますか?」と彼女は尋ねた。
身分証明書!? そんなものを持っているわけがない。この世界に来てまだ1週間ほどで、今まで大きな街のはずれにある村でカルバーさんの家に泊めてもらっていただけだ。俺は困惑した表情で受付の女性を見つめ、「申し訳ありません。身分証明書は持っていないんです。実は……」と言い訳の言葉を頭の中でまとめ始めた。
すると、彼女は優しく笑顔を見せた。「大丈夫ですよ。そういう方が大半でいらっしゃいます。その場合は、簡単な適性試験を受けていただくことになります。よろしいでしょうか?」
「適性試験ですか?」と俺は尋ね返した。
「はい、ちょうど昨日の昼頃にも同じように、身分証明書を持っていらっしゃらない冒険者志望の方がいらっしゃいました。その方と戦っていただきます。明日の昼12時頃にこの冒険者ギルド受付に来ていただけますか?」
「はい、大丈夫です」と俺は答えた。明日の昼12時に冒険者ギルドに来て、適性試験を受けることになった。初めての戦闘に不安を感じつつも、これが冒険者になる第一歩だと思うと、少し興奮も覚えた。
「では、その前に冒険者についての説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」と彼女は続けた。
「はい、お願いします」と俺は頷いた。冒険者の仕事について詳しく知ることは、これからの活動にとって重要だと思った。受付の女性は丁寧に説明を始めた。
「まず、冒険者には怪我手当と死亡保険金がございます。えっと……」と受付の女性は言葉を詰まらせた。「すみません、お名前を聞き忘れていましたね。お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「シーク・グロウです」
「シーク・グロウさんですね。ありがとうございます」と受付の女性は笑顔で答えた。「では、冒険者の保険制度についてご説明いたします。怪我手当は任務中の負傷に対して支給され、その程度によって金額が変わります。死亡保険金は、万が一の場合に指定された受取人に支払われます。これらの制度は冒険者の皆様の安全と生活を守るために重要なものです」
「シークさんは、ご家族や身元保証人などがいらっしゃいますか?」
「いいえ、家族も身元保証人もいません」と私は答えた。受付の女性は少し驚いた様子を見せたが、すぐに優しい表情に戻り、「わかりました。その場合は、ギルドが一時的に身元保証人の役割を果たします。」そして受付の女性は続けて
「冒険者についての説明を軽くさせて頂きます。冒険者の実力を簡単に管理するために、ランク制度を導入しております。G~Sまでのランクがあり、ランクによって受けられる依頼が変わります。Gランクでは依頼を受けるためにお金が必要になることもあります」優しく説明してくれた。
「なるほど」と俺は頷きながら聞いていた。「Gランクから始めて、徐々に上のランクを目指していくんですね」と俺は確認するように言った。
「そうですね。ランクと言っても数値で管理されています。0から10がGランクという具合になっていますが、それはまたランクが上がるときに説明させていただきますね」
「なるほど、詳しい説明ありがとうございます」と俺は感謝の意を示した。「では、明日の適性試験に向けてこちらで、準備をしておきます。他に知っておくべきことはありますか?」
俺は、少し考えてから、適正試験について詳しく聞けないかを受付の女性に聞いた。そうすると。
「明日の試験では、基本的な戦闘能力と判断力を見させていただきます。武器や防具は各自で準備していただくことになりますが、もし何もない場合は、ギルドで貸し出しも行っています。それと、試験の前に軽く体を動かしておくことをお勧めします。緊張せずリラックスして臨んでくださいね。もし仮に死んでしまうようなことがあってもすぐに蘇生いたしますので、ご安心ください」と笑顔で答えてくれた。
説明を聞き終え、感謝を述べると、「もうお帰りになりますか?」と尋ねられた。「はい」と答えた途端、どこからともなくウェイターの女性が現れ、俺をひょいと簡単に持ち上げた。
「行きますよ」と一声かけると、彼女は再び大ジャンプし、酔っ払いたちの頭上を悠々と超えていった。降ろされた後、「何度もすみません」と謝ると、彼女は「いえいえ、これも仕事ですので」と言い、酔っ払いの接客に戻っていった。
建物を出て外の空気を吸うと、緊張が少し和らいだ。明日の適性試験に向けて、今夜はしっかり休んで準備しようと心に決め、宿の方向へ歩み始めた。
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