第7話 最初の町
翌朝、準備を整えてカルバーさんのもとへ向かった。彼から贈られた青と黒の意匠が入った白地のローブを身につける。元々この世界に来たときに着ていた制服は、訓練や戦闘でボロボロになったため処分してしまっていた。
カルバーさんは俺の到着を待っていた。彼の表情は普段と変わらず、冷静そのものだった。「準備はできたか?」と尋ねる。俺は頷き、「はい」と答えた。
「訓練では木製の剣を使っていたが、これからは命のやり取りだ。上等なものじゃないがな」と言い、鞘に収まった剣を俺に渡してくれる。
「材質は鉄だ。木製の剣より多少重いが、魔力で身体機能を上げれば問題ないはずだ」
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」と感謝を述べ、剣を受け取る。カルバーさんは頷き、「それじゃあ、気をつけて行けよ」と背中を押すように言った。俺は深々と一礼し、新たな冒険への一歩を踏み出した。
鳥たちの鳴き声が森から響き、まるで俺の冒険を祝福しているかのようだ。
森の中を進みながら、周囲の自然に目を向ける。木々の間から差し込む陽光が緑の葉を照らし、息をのむほど美しい光景を作り出している。
しばらく歩いた後、カルバーさんからもらった地図で現在地を確認する。
「村はここにあるから、あっち方面がゼロベースかな」
地図と目の前の森を照らし合わせながら進む。森を抜ければ、最初の町にたどり着くはずだ。「よし、行くぞ」と自分を鼓舞し、歩を進めた。新たな冒険への期待に胸が高鳴る。
森の中は静寂に包まれ、鳥のさえずりと風に揺れる木々の音だけが耳に届く。道中、小さなモンスターが何体か姿を見せたが、カルバーさんとの訓練の成果か、難なく対処できた。
「こんなものか」とつぶやきながら、再び地図を確認する。このまま進めば、昼過ぎには町に到着するはずだ。初めての町での生活がどんなものになるか、未知の世界への不安も感じつつ、着実に歩を進める。
しばらくすると、森が開け始め、遠くに町の輪郭が見えてきた。建物が立ち並び、煙が空に昇っている。「あれがゼロベースか……」と感慨深く思いながら、足を速めた。
町の門に着くと、門番が立っていた。彼は俺を一瞥し、「旅人か?」と尋ねてきた。「はい、これから町に入ろうと思っています」と答えると、門番は頷き、「歓迎するよ。ただし、町の中では問題を起こすなよ」と注意を促した。
門をくぐると、活気あふれる町の様子が目に飛び込んできた。商人たちが声高に商品を売り込み、子供たちが楽しそうに遊んでいる。その光景に少し圧倒されつつも、この町での新生活に胸を躍らせた。
「まずは宿を探そう」と心に決め、人々の間を縫うように町を歩き始める。道行く人に尋ねながら宿を探す。
カルバーさんから5日分の食料と宿代をもらって旅立った。どうやらこの世界にも、他の異世界と同じく、はみ出し者の受け皿となる冒険者という職業が存在するようだ。
俺は冒険者となって生活費を稼ぎながら、元の世界に戻る方法を探すつもりだ。
そんなことを考えていると、「INN」と書かれた看板が目に入る。
「にしても、異世界でも日本語や英語といった地球の言葉が通じるのはありがたいな。異世界に来て最初にすべきことが現地の言葉を覚えることだったら、最初の数か月は苦労したところだ」
宿に入ると、フロントには中年の男性が立っていた。「お客さん、一人旅かい?」と声をかけられ、俺は頷く。「はい、5泊させていただきたいのですが」と答えると、男性は親切そうな笑顔を浮かべた。「わかった。2階の203号室を用意しよう。朝食付きで1泊1シルバーだ」と言って、鍵を差し出してくれた。
カルバーさんにある程度物価の相場を教えてもらっていたので、これが適正価格だと判断し、「わかりました。お願いします」と答える。フロントの男性は満足そうに頷き、鍵を手渡してくれた。部屋に向かう前に、「すみません、冒険者ギルドはこの町のどの辺りにありますか?」と尋ねてみた。
「なんだ、この街は初めてなのか。一番騒がしい酒場がそうだ」
「そうですか。ありがとうございます」と礼を言い、部屋に向かう。部屋に入ると、シンプルながら清潔な空間が広がっていた。荷物を置き、少し休憩した後、冒険者ギルドのある酒場を探しに町へ出ることにした。
街に出ると、夕方になっており、商店が賑わいを増していた。八百屋では野菜が安いと言い合う声や、値下げ交渉をする主婦のような人々など、各店で様々な人が行き交っている。その中を歩きながら、騒がしい酒場を探す。しばらく歩くと、賑やかな声と笑い声が聞こえてくる建物が目に入った。「ここかな」と思いながら、その建物に向かって歩を進める。
建物に入ると、騒がしい声と熱気が一気に押し寄せてきた。酒場の中は冒険者らしき人々で溢れかえっていた。壁際には受付カウンターがあり、その上には「冒険者ギルド」と書かれた看板が掛かっている。「やっぱりここが冒険者ギルドか」とつぶやいた。
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