第18話

「へ、へぇぁ?」


 突然の乱入者であるローズ嬢に対してリリスは困惑の声と共にそちらの方へと視線を送り、僕はただ眉を少しばかり顰めるという反応を見せる。


「お金が必要なんだって?それなら私の家を頼らないかしら?」


「えっ……?ノワール侯爵家が、ですか?」


「えぇ。そうよ。うちの家も君の領地を襲った魔物と交戦したからね。被害を食い止められなかったことに対する詫びだと思って良いわ」


「そ、それは……」


「如何用だ?そもそもお主の家は余より近いとはいえそこまで親密な中でもなかろうて。金貨五百枚の重みをしかと理解しているのか?」

 

 自分を無視して話を進めていくローズ嬢に対して僕も口を開いてその話に割り込んでいく。


「……」


「「……ッ!?」」


 そんな僕の言葉に対して返ってきたのはローズ嬢の言葉ではなくローズ嬢の手が自身の手に握られていたペンを破壊する音であった。


「それでリリスちゃん。どうするのかな?」


「あっ、はい。大丈夫です」

 

 リリスは壊れたブリキ人形のように首を縦に振り続ける。


「……ふんっ。道化め」

 

 それに対して僕は素直に引く姿勢を見せる。

 決してこれは無言で行われたペンの破壊行為に対してわけではなく、ノワール侯爵家の影響力を拡大するのための試みをラインハルト侯爵家は今のところ邪魔するつもりはないという意思表示である。

 うん、そうである。


「そ、それじゃあありがとうございました」


「えぇ。詳しい話はまたあとで両家の父を加えて」


「はい」


 僕がそんなことを考えている間にも話はまとまったようでリリスが生徒会室から退出していく。


「……ねぇ」

 

 リリスの去った生徒会室でローズ嬢は僕の方へと視線を送り、ようやく僕の方に向かって口を開く。 


「愛人どうのという話は何かしら?いくら慣習があるとはいえあれを容易に使うのはダメよ?……ここ最近でいつも囲んでいるメイドたちがいなくなったからようやく私の心が伝わったと思ったのに……」


「あれらは身内に不幸があったゆえに一時的に返しているだけに過ぎん。今の余があ奴らの代わりに別のメイドに手を出すわけにいかんからな。それが約束であるしな」

 

 ローズ嬢の言葉に対して僕は素っ気なく返す。

 いつも僕が囲んでいるロロアを始めとする多くのメイドたちが僕の周りにいないのは彼女たちの一身上からの理由であり、ローズ嬢たちの影響ではない。


「て、手を出すって……その言い方はそんなに良くないと思うわよ?まるで性交渉をしたみたいに思われちゃうわよ?もう少し上品な言葉遣いを、ね?」


「む?そのように言ったのだが?あ奴らがいなくなったせいでベッドの上で余の相手をする者がいなくなったのでな。リリスがちょうどよいと思ったに過ぎん」

 

 別に僕は童貞じゃない。

 ちゃんと自分の息子が大きくなれるまでに己の体が成長した段階でやることはやっている。


「……へっ?」

 

 そんな僕の言葉に対してローズ嬢は呆気にとられて固まるのであった。

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