第190話 戦いの余談
コボルトの村防衛の為に起きた『コボルトの村側における緩衝地帯の戦い』が、コウ達側の勝利で終えてから半月が経った。
ヘレネス連邦王国中央王都は意外に静かなままである。
ただし、中央王都の労働力として利用されていたコボルト達が中央王都へは入れなくなったことだけが、変化として挙げられた。
これは、やはり、派遣した『氷の精霊騎士団』の動向がコウ達に読まれていたことで、間者を警戒してのことだろう。
とはいえ、大敗北は事実であり、それを隠す為に、中央王都ではアイダーノ山脈付近で軍事訓練を行った結果、雪崩れで千名近い騎士が命を失う大事故が発生したという発表を行った。
これは、世間でも大きな騒ぎとなったから中央王都におらずとも入手できた情報である。
当然ながら、『氷の精霊騎士団』はヘレネス連邦王国の精鋭である六騎士団の一つであったし、何より千名というのは、騎士団の半数だから相当な被害を意味した。
だから、国内だけでなく国外にもこの事故は大きく取り上げられることになる。
そして、コウが討ち取った若い指揮官アイスマンについての詳細な情報がコウのもとにも知らせが入った。
それは、騎士団の将来を担う団長候補だったこと、六騎士団の若手筆頭であり、ヘレネス連邦王国中央王家も将来を期待していた有力な騎士だったらしい。
それだけにこの事故死は大きな衝撃と共に、中央王都では悲しみに包まれたのだとか。
そして、この事故の責任を取って全軍をまとめる大元帥が辞任したらしい。
これも、近隣諸国から大きな注目を集めることになっている。
ヘレネス連邦王国は、こういったことから、コボルトの村を利用しての緩衝地帯での小細工の為に、有望株や千名の騎士、そして、大元帥という要職の実力者を失うことになったのであった。
その為、コボルトの村に対する対応を、考え直している最中ではないかとコウは考えている。
もし、このまま、緩衝地帯での戦いを公表していれば、ヘレネス連邦王国は復讐戦の為に新たな軍を派遣する状態になっていただろう。
しかし、それが出来なかったのは、飼い主の手を噛まれた状態である自分達の恥を世間に公表する方が損失として大きいと判断したからだ。
ヘレネス連邦王国の六騎士団恐れずに足らず、と近隣諸国が判断すれば、国境侵犯する国も出てくるだろう。
そうなると紛争のもとになる。
外交や交易にも影響がでるし、メンツも保てなくなる可能性があるから、それなら事故として処理した方が良いことでだろう。
ここまでは、コウの狙いでもあった。
街長ヨーゼフや幹部集会での話し合いでもそうなる可能性について言及していたから、狙い通りになって安堵した形である。
「どうやら、しばらくはコボルトの村も安全が保てそうですワン。コウ殿達には感謝の言葉しかないですワン!」
村長である若いドッゴが、コウに感謝の言葉を口にした。
「いえ、これはみんなで、手にした勝利ですよ。兵数で劣っていた分、みんなの日頃の訓練の成果が結果に繋がりました」
コウは、正直な感想を漏らす。
コボルト精鋭機動歩兵部隊五十名が守った右翼に関しても、倍の敵を相手にしっかり守り切ったのは大きく、あそこで簡単に崩れていたら勝敗がどうなっていたかわからないところであったからだ。
剣歯虎部隊もそうなると早めに助っ人として戦場に早く投入されることになり、それでは大勝利を狙った戦術も半端なものになっていたかもしれないのである。
だからこそ、全員で勝ち取ったものであるというのが、コウの評価であった。
「負傷者は多かったですが、戦死者が少なかったのも助かりましたワン。これはコウ殿達が作ってくれた魔鉱鉄製の装備のお陰ですワン。それが無かったらと思うとぞっとしますワン」
村長ドッゴは、コウの言葉に感慨深げに応じると、神妙な顔つきになる。
「ヘレネス連邦王国からしばらくの間は、ちょっかいもないでしょうが、これで終わりではないと思います。僕達エルダーロックも軍の増強をさらに進めて、今後の対応に備えたいと思いますので、コボルトのみなさんもこれからに備えてください。僕達もこれまで以上に支援しますので」
「ありがとうございますワン! 俺達もこの故郷であるコボルトの村を守る為に頑張りますワン!」
「それでは、僕達も引き上げますね」
村長ドッゴがそう言うとコウも応じて握手を交わす。
そこに、相談役の老オルデンも歩み寄り、コウに握手を求める。
コウは、笑顔で応じて握手を交わすと、剣歯虎のベルに跨り、村に駐屯していたヤカー重装騎兵隊と共に、エルダーロックの街に帰るのであった。
こうして、大きな戦いとなった初めての緩衝地帯での戦いとその後の問題は丸く収まり、ひとまず幕を閉じることとなった。
だが、ヘレネス連邦王国がこの戦いをもみ消したとはいえ、コボルト如きに恥をかかされたという想いは強く、復讐戦を行う為、いつかまた、動きだす可能性は今後も十分あったから、エルダーロックの街はその時に備えて一層の強化をしていくことになる。
それに今回はコボルトの村側の緩衝地帯での問題であったが、このままエルダーロックが大きくなれば、バルバロス王国側もなにかしら反応する可能性は十分あるから、エルダーロックとしてもそこに穏便に対応できるよう経済面での影響力を強める必要性があるのであった。
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あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回から、第五章に入りますのでお楽しみに。
そして、現在、新作を投稿させてもらっております。
一本目はすでに、土曜日から投稿しておりますので、そちらの方もよろしくお願いします。
転生第十王子は死にたくない!(副題略)
https://kakuyomu.jp/works/16816927861242269709
※作品のフォロー、レビュー★、いいね♥、コメントなどもして頂けると作者がものすごく励みになりますのでよろしくお願いします。
それでは、また、作品でお会いしましょう(。・ω・)ノ゙♪
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