第145話 香辛料組合へ

 コウ一行は、王都の香辛料組合で取引する為に、王都に向かっていた。


 途中の街や村では、ヨース達が跨っている二足歩行の蜥蜴であるヤカー・スーが注目の的になり、興味から商人などに声を掛けられることになることが多かったが、ヨースの対応で無難に納めることができていた。


 一部、ヤカー・スーがお金になるかもしれないと、泥棒を働く者もいたが、それは剣歯虎サーベルタイガーのベルやコウ達によって痛い目を見ることになったことはすでに立証済みだ。


 こうして、片道馬車で二週間はかかる旅程がその移動速度の速さのお陰で半分に短縮して王都に到着することになった。


 時間の短縮は宿屋代など経費も浮くことになるから、良いこと尽くめであったから、ヨースもヤカー・スーが気に入ったようである。


「しばらくは、好奇の視線にさらされることになるとは思うが、それも今だけだろう。いろんな魔獣に騎乗している魔物使いも王都なんかでは多いからな。そうなったら本格的に俺達大鼠族やドワーフ族の移動手段として専売特許になっていくだろうな」


 ヨースは商人として「時は金なり」を地で行く人物だったから、馬以上に早いヤカー・スーの移動速度はこれから重宝していくだろう。


 コウ達一行は、『軍事選定展覧会』の時にお世話になった宿屋『星の海亭』に宿を取る事にした。


 庶民用の宿屋としてはちょっと贅沢ではあるが、ここは馬車小屋の奥に魔物、魔獣の世話をする場所も用意してあり、管理も行き届いているのでヤカー・スーを預けるのに丁度良いだろうと一同で話し合って決めたのだ。


「いらっしゃいませ! ──おお!? みなさん、お久し振りですね!」


 宿屋の主人は、コウ達一行をしっかり覚えていて、大歓迎してくれた。


「こんにちは。また、お世話になろうかなと思いまして。部屋は空いていますか?」


 コウが挨拶すると確認を取る。


「空いていますよ。それに馬車小屋の奥の魔物、魔獣小屋も前回以上に充実させていますよ」


 前回、剣歯虎のベルがお世話になったのだが、その時、主人がベルを気に入ってくれたことがあった。


 だから、コウの顔を見て、すぐにまた、ベルも泊まると思ってそう答える。


「それは良かったぜ。今回は剣歯虎の他に珍しい魔獣が三頭いるから世話してもらっていいかい?」


 コウと一緒に宿屋に入ってきた大鼠族のヨースが、主人に頼む。


「珍しい魔獣ですか? 剣歯虎のベルさんを見た後では私も大抵のことには驚かないですよ?」


 主人はそう言いながら、その魔獣を確認する為に宿屋の外に出ながら答える。


 そして、そこには、ダークエルフのララノアと街長の娘カイナが手綱を握って待っていたのだが、剣歯虎のベルが最初視界に入って笑顔になると、そこから見慣れない大きな二足歩行の蜥蜴が目に入ってきた。


「!? こ、これはなんですか!? 竜種ではないようですが……、見たところ蜥蜴種でしょうか……?」


 主人はヤカー・スーに興味津々といった感じで、いろんな角度から見て回る。


「主人、ヤカーの後ろに回るなよ。蹴り飛ばされるぜ?」


 ヨースが冗談めかして主人を注意した。


「おっと、それは失礼しました! ──よく見ると、目がクリっとして可愛いですね。それに、通行人からも目立っています。──早く奥に入れましょうか」


 主人はこの珍しいヤカー種を表にいつまでも置いておくのは目立つと考えてララノアとカイナにそう告げる。


 ララノアとカイナはその言葉でようやく馬車小屋の奥へとヤカー・スーを連れて入っていくのであった。


「剣歯虎のベルさんをまた見れただけでも眼福でしたが、まさか、こんな見たこともない魔獣にこの年で出会えるとは思いませんでしたよ!」


 主人は三頭のヤカー・スーを眺めながら、興奮気味に感想を漏らす。


「それでは宿泊の間、お世話をお願いしますね」


 コウがそう言うと、


「ええ、もちろんです。ちなみに世話については、何か特別なことはありますか?」


 主人はすぐに仕事の顔に戻ると、確認する。


「実はここに来るまでの旅程で二回ほど、泥棒に合いそうになったので気を付けてもらいますと助かります。あと、世話は馬と変わらないので大丈夫です。エサ代は馬よりはかからないと思います」


「泥棒ですか? ──それなら大丈夫ですよ。うちは馬泥棒対策に防犯魔導具の設置をしていますし、用心棒の先生も奥に控えているのでご安心ください。──お世話は馬と変わらないのですか? なるほど……、ブラッシングの必要がなさそうな分、馬よりもお世話が楽そうですね。はははっ!」


 主人は笑って応じると、従業員にすぐ、指示を出す。


 従業員も初めて見るヤカーには驚いていたが、すぐにエサの飼い葉を用意するのであった。


 コウ達一行は、ヤカー・スーを預けるとこの日は王都を少し散策し、それから宿屋で休むことにした。


 この日はヤカー泥棒に遭うこともなく、ぐっすりと眠れる一行であった。



 翌日の朝。


 コウはヨースが先頭になって、王都の大通りにある大きな建物前にやってきていた。


「……ここが、香辛料組合の建物かぁ……。想像より大きくて新しいね」


 コウが初見の感想を漏らす。


「香辛料組合自体の歴史は浅いからな。ここ数十年、取引が活発になって出来た組合だぜ」


「「「へー!(にゃう)」」」


 コウとララノア、カイナにベルはヨースのうんちくに感心する。


「以前は、薬草組合が香辛料も扱っていたんだけどな。香辛料の需要が増して高額取引が行われるようになってから独自の組合が出来たらしい。──ほら、みんな行くぜ? ──あ、ベルは表で待っていろよ? 室内に入ると香辛料の臭いで鼻をやられる可能性があるからな」


 ヨースは続けてそう説明すると、自らは手にした布を鼻に巻いて建物に入っていく。


 コウ達もその後に続き、ベルは建物の脇の馬車小屋の一角で大人しく待つことにするのであった。

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