第135話 住人達の反応
食用には全く向かないが、移動手段としては馬以上の能力を見せるヤカー・スーという二足歩行の蜥蜴種は、調教がされるとある日、村の広場にまとめて牧場から十頭送り込まれてきた。
村長ヨーゼフの命令でまずは、村の住人達へ公開して慣れてもらうことが目的である。
「話は聞いていると思うが、これが二足方向の蜥蜴、ヤカー種だ。ヤカーの中でもひと際大きいヤカー・スーという種だが、性格は馬より大人しく、頭が良いので酷い扱いでもしない限りは、飼い主の言うことをしっかり聞いてくれる。それに雑食なので飼育も簡単だ」
アズーは見物客達にそう告げると、まずは試しにということで、荷車を引かせてみることにした。
コウとアズーが荷車をヤカー・スーに固定する。
そして、御者台に乗ったコウが、軽く鞭を入れた。
すると、ヤカー・スーは軽々とその荷車を引いて進み始める。
「「「おお……!」」」
見物に来ていた村の住人達は、初めて見る者も多いヤカー・スーにほとんどは興味津々であったから、荷車を引くことよりもその存在自体に釘付けになっていた。
「さらに、このヤカー・スーはこのアイダーノ山脈地帯生息ということで、足場の悪い斜面にも強い。だから、難所でも進んでくれる。皮が厚くて寒さに強いのも特徴だ」
アズーが誇らしげに説明を続けた。
「このエルダーロックの発展にはこの緩衝地帯であるアイダーノ山脈での移動が大事だから、これは心強いかもしれないな」
「農耕馬のように畑を耕すことにも利用できるのか?」
「畑に使うよりヤカー騎兵隊の編制だろう? コボルトの村が襲われたように、すぐ現場に向かえる機動力に優れた隊を作るのが急務だ」
「それなら、
「剣歯虎隊は特殊だから数が増やしにくい。通常部隊としてはこっちの方が、いいんじゃないか?」
住人達は大鼠族や一部のドワーフを中心にヤカー・スーの使い道にああでもない、こうでもないと話し合い始めた。
「まだ、頭数は少ないが、馬より飼育や管理が楽だから、まずはこの村で生活に適した扱いをしてもらいたい! まあ、今日は慣れてもらうのが目的だ! それに一月後くらいには、もっと数が増えると思うからみんなの提案も近いうちに実現できると思う!」
アズーがざわざわしている住人達へ聞こえるように大きな声で説明する。
ドワーフは特に、鈍足だから移動手段がとても大事だ。
だから、数が増やしやすいというのは、とても魅力的な話である。
「村長、うちは行商なんだが、一頭譲ってもらえると助かる。今は徒歩なんだ」
大鼠族の商人が手を挙げて村長にお願いした。
「俺も頼む。専用路の整備のお陰で移動時間はかなり短縮できるようになったが、馬より速くて馬力があるのなら、王国中の移動がかなり楽になりそうだ」
他の大鼠族達も賛成とばかりにお願いする。
「おっと、それは少し待ってくれ。みんなわかっていると思うが、このヤカー・スーはこのエルダーロックの村の宝になるかもしれん。まだ、存在を公にするのはマズいと思っている。この意味が商人ならわかるよな?」
村長ヨーゼフは、大鼠族達に意味深に告げた。
「……なるほど。確かに村長の言いたいことはわかった。そういうことなら、緩衝地帯の移動に限定してもらうことで外部に知られるのを今は避けるという感じなら大丈夫か?」
すぐに事情を察した大鼠族の者が移動時間の短縮に貢献しそうなこのヤカー・スーの首を撫でながら、聞き返した。
「ああ。今、幹部達と緩衝地帯の一定区間に駅舎を設けて気軽に使用できるようにしてはどうかと話し合っている最中だ。急ぎの時や少しでも時間短縮したい住人用にするつもりだ」
村長ヨーゼフはコウと視線を交わすとそう答えた。
「おお、それは助かる! 緩衝地帯の整備された道の移動もここからボウビン子爵領まで徒歩だと丸一日はかかるからなぁ。商人としては時間が勿体ないと思っていたんだ」
大鼠族の一人がそう答えると、他の大鼠族の商人達はお互い同じことを思っていたのか頷き合い喜ぶ。
「それじゃあ、みんな。今からヤカー・スーに慣れてもらう時間にしようと思う。広場内をこのヤカー・スーに乗って軽く回ってくれ」
村長ヨーゼフがそう告げると、すぐに騎乗したいという大鼠族を中心に列にはドワーフや獣人族も並び始めるのであった。
「思ったより、みんな受け入れるのが早かったな」
牧場長であるアズーが、安堵したようにコウに漏らした。
「普通なら見たことがないものへの警戒心や抵抗感を強く持ちやすいドワーフの感情を、好奇心の強い大鼠族のみんなが全て払いのけてしまいましたからね。大鼠族とドワーフという関係性はこのエルダーロックの村にとってこれからも大事ですね」
コウはそう言うとドワーフの保守的な性格と大鼠族の積極的な性格が良い化学反応を起こしていることに笑顔になる。
コウは大鼠族のヨースとは親友だが、性格はだいぶ違う。
それでも仲がいいのは、性格の違いがお互いにないものもを埋めてくれているからだ。
「確かに。ドワーフだけなら、このヤカー・スーに慣れるどころか気味悪がって拒否されていたかもしれないな」
アズーは珍しい生き物好きの変人として有名だったので、他のドワーフから避けられることも多かったので妙に納得する。
「これでヤカー・スーは、この村の発展に貢献できるのは確かですよ。良かったですね、アズーさん」
アズーは牧場では生き生きとしていたが、村に戻ってくると、ヤカー・スーを受け入れていもらえるか心配していたのを知っていたから、コウは励ますように答えた。
安堵するコウとアズーはヤカー・スーに跨って子供のように浮かれるドワーフ達を見て笑顔を見せるのであった。
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