第105話 合作の完成
コウが刀の仕上げ作業の一部を行ったことで、『
「通りで護衛と言いながら、職人の作業について詳しいはずだ。コウは
ゴセイは残念そうにコウにそう告げる。
そして、一番驚いていたのは、『五つ星』の職人の若い助手達であった。
コウが急に職人の真似事を始めたので、その時は職人の師匠達に代わって注意しようと思ったのだが、師匠達に止められたのである。
そして、すぐにコウの腕前が只者ではない事を知ることになった。
数年この道で助手を務めている若者達から見ても、コウの鍛冶師としての腕前は、舌を巻くものであったからだ。
自分より若い(ドワーフだからそう見えるだけだが)少年が、師匠である職人以上の腕でもってその失敗をフォローしたことにいちゃもんのつけようもない。
何より、職人達がコウの流れるような作業を絶賛したから、自分達とは格が違うことを痛感させられるのであった。
「そう言って頂けると助かります。それに僕は『
コウはゴセイや職人達からの評価に対し謙虚な姿勢を見せた。
これには若い助手達も、自分達が恥ずかしくなってくる。
『五つ星』の職人の助手として数年務めたくらいで天狗になっていたからである。
うちの職人以上の腕を持ちながら、まだまだと言えるのは、まだ、もっと高みを目指しているという証拠だろう。
それに、気づくと、若い助手達はコウがとても輝いて見えるのであった。
『五つ星』の職人達はそれとはまた違った感想を持っていた。
それは、『コウテツ』ブランドの職人にはもっと凄い職人がいるというコウの発言にである。
確かに、ゴセイ会長から聞いた情報では、『コウテツ』ブランドは本来武器防具系ブランドではなく鉱夫系ブランドだという。
それに驚いて職人達もこちらに来る前にその鉱夫系ブランドとして手掛けた商品をいくつか王都で調べてみると、実際に超魔鉱鉄製の見事なピッケルや金槌が出てきた。
専門外だから詳しくは職人達もわからないが、同じ職人としてその仕事が素晴らしいのはわかっていたから、今回の同行も快く引き受けたところがあったのだ。
その職人達(イッテツとコウ、あとは最近加わったドワーフ達十名しかいないが)に会って教えを請いたいくらいである。
中でも今回、刀の仕上げを受け持って失敗した若く腕のいい職人は、コウの助けで失敗もなかったことにしてもらえたので安堵するとともに、『コウテツ』ブランドに対する敬意を強くした。
「コウ殿、『コウテツ』ブランドの職人になるには、何か基準があるのでしょうか?」
その職人は頭に巻いた手拭いを取って強く握りしめると、コウにそう質問する。
その頭には特徴的な耳が付いていた。
どうやら、獣人族出身の職人らしい。
「ちょっと待て、シバ! お前、うちを辞めて『コウテツ』ブランドに鞍替えする気じゃないだろうな?」
年配の職人の一人がシバと呼ばれた若い職人を止めに入る。
これには作業場にいた職人や助手達の間に緊張が走った。
職人の他ブランドへの移動は、色々な問題があるからだ。
「えっと……。みなさん、落ち着きましょうか?」
コウは質問された側であったがそれに答えるのはこの場の緊張度が増すだけだと判断して応じず、宥めることにした。
「シバ、あとで話がある。──みんなも、金工師や彫り師の作業が残っているんだから、そちらを優先させてくれ。まだ、完成したわけじゃないんだぞ!」
会長のゴセイもコウと同じくこの空気をどうにかしようと声をかけて間に入るのであった。
それから、数日が経過した。
仕上げ作業の為に工房は連日忙しくしていたが、ついにこの日、全部の作業過程を終えた。
それを会長であり鑑定眼のあるゴセイが一つ一つその目で確認していく。
「剣六本、全て超魔鉱鉄製三等級。槍二本、超魔鉱鉄製三等級。戦斧一丁、超魔鉱鉄製三等級。そして、刀一振り、超魔鉱鉄製二等級……。合計十作品全て完璧な出来だ……! ──みんな、良く仕上げてくれた……!」
会長のゴセイは改めて、合作とはいえ十作品もの三等級と二等級という他の大手ブランド商会でもこれほどのものを一度に完成させることはないだろうことに感無量な面持ちで、そう感謝の弁を述べる。
作品の柄部分と鞘には、『コウテツ』と『五つ星』を表す文字が彫られてあり、それが合作である証明だ。
職人達からは拍手が起こるのだが、その中心に誘導されたのはコウであった。
今回の『コウテツ』ブランド側を代表する職人として『五つ星』側が敬意を表した形である。
それに、こちらの職人が仕上げをミスった刀は、それこそ一度、四等級レベルに落ちたはずで、それを元に戻すどころか二等級まで引き上げた事実に、その驚異的な技術を評価し、それに対して尊敬の念以外ありえない。
『五つ星』の職人達はこの少年鍛冶師に対し、近い将来、伝説になるであろう人物だと内心確信する者がほとんどであった。
「それでは、コウ。契約通り、この十作品は、うちの店頭とオークションで大々的に『五つ星』と『コウテツ』の共同作品として販売する。この完成度ならかなり高額で売れるだろうから、収益は期待してくれて構わないぞ。それこそ、うちが『コウテツ』ブランドに優っている数少ない利点だからな」
ゴセイは自虐的なことを言いつつ、ニヤリと商人らしい笑みを浮かべる。
「はい、あとはお任せします!」
コウも笑顔で応じると、ゴセイとがっちり握手を交わすのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます