第103話 両者の顔合わせ

 大鼠族のヨースが借りる契約をしていた工房はこの街の中でも大きな方で、大きな窯が三つあり、その他の作業部屋もいくつかあるところである。


 中庭も広くとってあり、多様な作業ができるようになっているのだが、共同作業をする予定であった『五つ星ファイブスター』の会長自ら率いてきた職人達関係者の数がその想像を遥かに超えてきた。


 護衛の冒険者まで数に入れると、その数六十七人である。


「やあ、久しぶりだね、コウ。ヨース会長はどちらかな?」


 会長のゴセイは勧誘を断られた相手であるコウに気づくと気軽に声をかけて、今回の合作計画を結んだ相手、ヨースの姿を探した。


「すみません、ヨース会長は他の仕事が入ったので来られなくなりました。なので今回のこちらの責任者は僕になります」


 コウはゴセイに謝ると前に出た。


「なっ!? ──この一大計画を護衛に任せて自身が来ないとは! ──会長、これは計画の変更を考えた方がよろしいのでは?」


 ゴセイの部下であり、『五つ星』の幹部として同行していた若者が、コウの返答に怒って計画の変更を申し出た。


「まあ、待て。──コウ。今回の合作はうちがデザインをし、『コウテツ』側が仕上げ手前までを製作。仕上げはうちでやるという取り決めになっているんだが……、──魔鉱鉄製、超魔鉱鉄製の未完成品を全部で十。それは用意できたのかい?」


 ゴセイは幹部を制止すると、今回の要となる作品が『コウテツ』側が用意できたのかコウに確認を取った。


「それはもちろん」


 コウは当然とばかりに、魔法収納付き鞄から剣六本、槍二本、斧一丁、刀一振りの仕上げ前の未完成品を取り出して並べた。


 ゴセイはすぐに自分の鑑定眼でそれらを確認する。


「なっ!? 発注の十を全て超魔鉱鉄製で!? こちらでお願いしておいてなんだが、まさか超魔鉱鉄製で全て揃えてくるとは……。──『コウテツ』ブランドは一流職人を一体何十人抱えているんだ……? 製造過程で超魔鉱鉄製に及ばなかった魔鉱鉄製だけでもこの数十倍どころか数百倍以上生まれてもおかしくないはず……。それを想像したら、君らのところはすでにうちのような大手ブランドと並ぶだけの生産能力を持っているということになるじゃないか……!」


 ゴセイは超魔鉱鉄製のものを極力合計十本用意してほしいというのが、発注の際の『コウテツ』ブランドへのお願いだったので、それが、まさか全て超魔鉱鉄製で揃えてくるとは夢にも思っていなかった為、その驚きは当然であった。


 それは、今回同行していた一流職人達十五人も一緒で、それぞれ仕上げの担当する仕事は別々だが、これまで一流の業物を見てきており、その目には自信がある。


 そんな一流の職人達からでもはっきりとコウが目の前に出した未完成品は全て、本物の超魔鉱鉄製品であったから、驚かずにはいられない。


 助手達も師匠である職人達の驚きように困惑し、ざわつく。


 冒険者達は状況がわからないので、護衛に徹してるのが対照的であった。


 あれ? 普通はそんなものなの!? ……僕とイッテツさんの二人が半月で製作しただけなんだけどなぁ……。この反応を見ると、どうやら、とてもおかしなことみたいだから、絶対言えないぞ、これ……。


 コウは作り笑顔をしつつ、内心では冷や汗でぐっしょりであった。


「あはは……。職人さん達(二人しかいないけど!)が優秀なので、をすぐ作り上げてくれたみたいです」


 コウがそう応じると、会長のゴセイをはじめ、職人達は驚きにゴクリとつばを飲み込む。


 彼らにしたら一流ブランドとしての自信や誇りがあっただろう。


 今回も『五つ星』の職人にとっては肝心の鍛練部分が『コウテツ』ブランドに担当を奪われたので、会長のゴセイに詰め寄ったくらいであったが、これを見させられるとぐうの音も出ないところであった。


 それに輪をかけて、コウが「比較的によいもの」と言ってしまったことで、『コウテツ』ブランドの職人レベルが、自分達とは桁外れのようだと痛感させられた状況であった。


「そ、そうなのか……。──ごほん! 今日は、顔見せだから、一人一人紹介しておくぞ」


 ゴセイは職人達の重い空気を打ち払うように咳払いすると、コウ一行との間にお互い紹介をすることにしたのであった。



『五つ星』側が紹介した職人達は、来る前にイッテツから教えてもらった通り、分業制を敷いており、細かく担当する仕事が分かれていた。


 簡単に説明すると、仕上げ作業の中心である研ぎ師だけで十人、他にも鞘師(鞘を作る人)、彫り師(武器自体に、多種多様な意匠の文様を彫る人)、金工師(装飾する金属製の金具全般を制作する人)などがおり、その職人達全員で十五人。


 助手はその職人達の弟子である。


 今回、他所との合作は初めての試みということで、『五つ星』はかなり気合が入っており、『コウテツ』側を牽制する意味合いも兼ねて職人を多数引き連れてきたという理由もありそうであった。


 だが、それらは全て、『コウテツ』ブランドの作品を前にすると自信と共に霧散してしまったと言っていい。


 職人にとって、作品が全てであり、そこからそれを作った職人の技術がわかるというもので、『コウテツ』側が持ち込んだ未完成品は『五つ星』の一流職人をもってしても白旗を上げざるを得ないほどのものであったからだ。


 お互い紹介を終えると、早速、『コウテツ』の持ち込んだ未完成品を職人達は称賛し、技術者としての興味や意見をコウにぶつけてくる。


 コウはあくまで作業現場を見ていた人間として、という前置きをしたうえで、こちらの情報を隠しつつ、うまくそれらに答えていくのであった。


 こうして、顔合わせは無事終えることになり、翌日からの作業を前に良い雰囲気になり、この日の夜は親睦会をすることになるのであった。

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