第51話 仲間の宿屋

 エルダーロックの村の宿屋建築は、ある程度木材を加工した後、数日後には着工する事になった。


 コウは自分の新居でもやった方法で作ってもらおうと、土魔法が使えるドワーフを呼んでもらい、宿屋の基礎部分をしっかり作ってもらう。


 普段とは違う作り方に、ダンカン達髭無しドワーフ九名も不思議そうに見ていた。


 ちなみに宿屋の主人は髭なしドワーフの中の一人、ポサダである。


 だから、ダンカン達が協力してトレントを狩って木材を集めたのだ。


「コウは本当に何でも知っているな」


 ポサダは自分のお店になる宿屋の基礎部分を見て感心する。


「過去(前世)にちょっと(働いてて)作った事があるから」


 コウはそう答えると気恥ずかしそうに答える。


 前世では何をやっても『半人前』だったコウは、大工に弟子入りしていた事もあったのだ。


 そこでも半人前と呼ばれて、ものにはならなかったのだが、こちらの世界ではドワーフとして生まれ、能力も開花していたから、今回はその知識も役に立ちそうである。


 基礎が出来上がると、コウの指導の下、骨組みを次々に組んでいく。


 それも釘無しである。


 コウは数日の間に用意したノコギリ・墨つぼ・カンナ・さしがね(L字型の定規)・ちょうな(形状は柄が「し」の字に曲がった形の手斧)・金槌・ノミの大工七つ道具で木材の細かい部分を加工していく。


 それをダンカン達に渡して組み上げていってもらうのである。


 足場も組み、髭無しドワーフグループはチームワークも手伝ってコウが加工した木材で宿屋の形が見る見るうちに出来上がっていく。


 それもトレント木材を使用している宿屋だ。


 近所のドワーフ達も凄い勢いで出来ていく宿屋の骨組みに、感心して見学し始めた。


 やはり、そこはドワーフだろうか? 初めて見る手法での作り方に職人魂が刺激されるようだ。


「俺は最初の方からずっと見ていたが、釘を一切使ってないぞ」


「何? という事はこれ、仮組み(点検のために行なう仮の組み立て作業)なのか?」


「違う、違う。木材を加工して釘を必要としない組み方をしているのさ」


「そんなやり方があるのか!?」


「そこが凄いから俺はずっと朝から見ているのさ」


「そんな工法を『半人前』のコウがやっているのか? ……すげぇな!」


 見ている方はとても気持ちいいだろう。


 コウが加工した木材は、部位がきっちりとハマって、テンポよく組み立てられていくのだ。


 朝から始まったこの作業は、髭無しドワーフグループとララノアの十一人で夕方になると骨組みと屋根までしっかりと完成した。


 ちなみに屋根はしっかり木の釘で固定する。


「ふぅー。一日でここまでやれたら上出来かな? ──みんなお疲れ様! もう、暗くなるし、残りは明日以降やろうか」


 ララノアがみんなを労うように、お茶を用意してみんなに配る。


「ありがとう、ララ」


 コウは気の利くこの友人に感謝する。


「手伝っていて楽しかったわ。家ってこんな風に出来上がるものなのね。私が以前住んでいた小さい小屋とは全く違ったわ。うふふっ」


 ララノアは周囲で見物していたドワーフ達がこの宿屋の出来を褒めていたのが嬉しかった。


 それに自分も携わっているのが、誇らしかったのだ。


「明日は床と壁を張って、階段を作れば、形になってくるね」


 コウも前世の『半人前』時代を想像すると、ここまでの達成感に感慨深いものがある。


 それもこれも、一緒に作ってくれる仲間達がいるからだ。


 コウは仲間であるポサダが経営する事になるこの宿屋を立派なものにしようと翌日も張り切るのであった。


 それから一週間後。


 ポサダの宿屋『鉱山の精霊ノッカー亭』は開業する事になった。


 最初のお客は、タイミングが良かったというか当然というか、大鼠族でお赤いスカーフが目印のヨースであった。


「なんだい、第一号はヨースかよ」


 手伝いに来ていたダンカンが緊張感なくぼやいた。


「なんだよ、失礼だな! 俺が他の大鼠族に働きかけたから、ここの客は確保できそうだっていうのに!」


 ヨースはそのモフモフのかわいい姿で抗議する。


 コウにとって、ヨースは癒しキャラだからダンカンと揉めていても気にならない。


 それに仲間同士での揉め事だから、他の髭無しドワーフの仲間達は止めに入る様子もない。


 ララノアもコウと一緒に笑ってそれを見ているのであった。



 宿屋の主人になったポサダは三十歳。


 奥さんと十四歳の息子と十二歳の娘、それにポサダの両親の六人家族で経営する事になっている。


 ポサダの両親がお客の料理を主に担当して、ポサダと奥さんが接客とその他全般という役割分担だ。


 初日という事でみんな緊張していたが、第一号のお客がヨースだったので、その緊張も解け、慣れない接客をポサダもヨース相手にして練習とする。


 そこに、ヨースが言った通り、他の大鼠族の宿泊客がやってきた。


「ついにこの村にもようやく宿屋が出来てくれたか!」


「助かるよ」


「毎回ここに来る度、民家に泊めてもらうのも申し訳ないと思っていたからなぁ」


 大鼠族の宿泊客達はそう不便だった事を漏らすと、ポサダの案内で部屋に通される。


 宿屋の部屋は、一人用の個室から二人部屋を主体とし、家族などの団体様用の少し広い部屋も数部屋用意していたから万全だ。


 ポサダは少し、頬を上気させて接客に励むのであった。


 コウはそんな姿の仲間を見て自然と笑みがこぼれる。


 それは髭無しグループ、ララノアも一緒で、みんなで視線を交わすと、


「よし、今日はここの食堂で飯食って飲むか!」


 というダンカンの一言に全員が賛成するのであった。

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