第49話 友人の紹介

 人とダークエルフの混血であるララノアは、コウに改めて村内を案内してもらいながら散歩していた。


「あ、ララ。僕が紹介したい仲間がいるから、付き合ってくれる?」


「ええ? いいわよ」


 ララノアは快く応じてコウについていく。


 行く先は、このエルダーロックの村の広場に隣接する唯一の診療所であった。


「先生、こんにちは!」


「おお、コウ。この数日見かけなかったがどうしてた?」


 医者ドワーフのドクがコウに気づいて話しかけてきた。


「うん。先生とダンカンさんに友人を紹介したくてね」


 コウが笑顔でそう言うと後ろに立つララノアを手招きする。


「ダークエルフか? いや、それにしちゃあ、肌の色が薄いな? なんだ、あんたもコウと同じ混血か?」


 ドクはララノアを一目見て、気づいて指摘した。


「そうなんだ。それで僕と同様に差別されて苦労していたみたいだったから、この村に誘ったんだ」


「なるほどな。コウらしい話だ。──嬢ちゃんよろしくな。俺は医者のドクだ」


「初めまして。ララノアと言います。ララと呼んでください」


 ララノアはぺこりと素直に頭を下げて挨拶する。


「ララちゃん、コウと仲良くしてやってくれ。こいつは友達が少ないからな。わははっ!」


 ドクは冗談でそう言うと笑う。


「ちょっと先生、それは酷いよ! はははっ! あ、ダンカンさんはいる?」


 コウはまだ入院しているはずのダンカンに会いに来たのだ。


「ダンカン……か」


 ドクが急に渋い顔をして言葉を濁した。


「え? ま、まさか……!」


 コウはその表情からダンカンに何かあった事を察して、奥のダンカンが入院している部屋に慌てて走っていく。


 だが、ダンカンがいたはずのベッドにその姿はなく、それどころか最初からその存在はなかったかのように私物一つなくなっている。


「そ、そんな……」


 最悪の状況を察したコウはショックで言葉が出ない。


「すまない……。俺一人では駄目だったよ……。──うん? コウ、泣いているのか?」


 ドクはコウが目に涙をぼろぼろ流し始めたので、少し驚く。


「当然じゃないですか! 僕の一番の友人だったのに……。まさか、死ぬなんて……!」


 コウはダンカンの死に大粒の涙を流す。


「え? 違う違う。死んでないぞ? ダンカンの奴、俺は止めたんだが、勝手に昨日退院してしまってな? まだ、完治していないのに、お前をマネして生活していれば勝手に治る! ってな」


 ドクは苦笑すると理由を説明した。


「……じゃあ、無事なんですね?」


「無事だ、無事。だが、コウのような異常な回復速度ではないから、まだ、松葉杖生活だ。だから、仕事復帰はまだ許可できないんだがな」


「なんだ……、そうだったんですね……。良かった……」


 コウはホッとすると、その場に座り込む。


「コウ、大丈夫?」


 ララノアがコウを気遣って声をかける。


「あ、うん。ララに紹介しようとした友人は退院したみたいだから、また今度紹介するね」


 コウは涙を拭いて気恥ずかしそうに答えるのであった。



 コウとララノアはエルダーロックの村の郊外に新居に帰る事にした。


 ダンカンには改めて別の日に会う事にしたのだ。


 他にも髭無しグループの他八名にも紹介しようとしたのだが、朝から全員出かけてから家に戻ってきていないという事で、誰にもララノアと引き合わせる事が出来なかったのであった。


「いつもは誰かしら村内にいるんだけどなぁ。鉱山は今日休みだし、全く会えない事もあるんだなぁ」


 ララノアにそう説明すると、新居の扉のノブに手をかけた。


「コウ! 誰か部屋の中にいるわ!」


 ララノアが室内の気配を感じたのか、扉を開けようとするコウを制止した。


「!? ──本当だ……、それも複数気配を感じる……。ララは下がっていて、僕がなんとかするから……」


 コウはそう言うと、ララを庇うように扉の前に立ち、勢いよく扉を開けた。


「「「新居生活おめでとう!」」」


 そこにいたのは、ダンカンと髭無しグループの面々、そして、大鼠族のヨース、村長の娘で幼馴染のカイナ達であった。


「え? みんなどうしたの?」


 コウは驚いて気の抜けたセリフを口にする。


「新居祝いに集まったに決まっているだろう? わははっ! ……うん? うしろのダークエルフは誰だ?」


 ダンカンが松葉杖とエールを片手に、そう答える。


「本当だ。……誰だ?」


「俺は数日前、コウと一緒のところ見たぜ?」


「ああ! コウが村を案内していた相手か!」


 ワグ、グラ、ラルがそれぞれ情報を提供する。


 コウは一緒に新居で生活する事にした友人だとみんなに紹介した。


 ダンカン達はダークエルフと人族の混血と聞いて珍しそうにしていたが、以前のコウと同じような待遇だったと知って同情する。


「……そっか、あんたも苦労したんだな。コウは俺達の友人だ。その友人ならあんたも俺達の友人だ。なあ、みんな?」


「「「おう! 友人だ! 乾杯!!!」」」


 ダンカンと髭無しグループの面々はそう言うと、乾杯をしてエール飲む。


 どうやらコウの新居祝いに樽を持ち込んできているようだ。


「そういう事だから、ララ。このみんなが僕の友人達だよ。よろしくね」


 コウは苦笑してララノアに説明した。


「みんな豪快よね」


 ララノアはその楽しい雰囲気に笑うと、カイナが手渡すエールの入った木のコップを貰うと一緒に乾杯する。


「でしょ? みんなとてもいい仲間なんだ!」


 コウは満面の笑みで応じると、大鼠族のヨースに手渡されたエールを一気に喉に流し込むのであった。

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