第40話 友人?との再会

 ダーマス領都で一泊したコウと村長のヨーゼフは翌朝、朝一番で領都を後にしようと質素な食事を済ませて、帰り支度をしていた。


「よし、忘れ物はないな? それでは帰るとするか」


 ヨーゼフはそう言うと戦斧とリュックを背負う。


 コウも腰の魔法鞄とリュックを背負い、部屋を出る。


 宿屋の主人にカギを返却すると表に出た。


 そこへ、向かいの路地から大鼠が二足歩行でこちらに歩いて来る。


「おお? コウじゃないか! ヨーゼフの旦那も一緒かよ。どうしたんだ、こんな朝っぱらから二人、こんなところで?」


 そう大鼠とは大鼠族の者の事であった。


 首には赤いスカーフを巻いている。


「あ、ヨース?」


 コウは大鼠族の見分けは正直まだ全くわからないのだが、ヨースは首に赤いスカーフを巻いている分、わかりやすい。


「ああ、ヨースだよ。元気だったか?」


 ヨースはコウが追手との戦いで大怪我をして以来、会っていなかったから、かなり久し振りであった。


「なんだ、ヨース。そっちこそこんなところで何をしているんだ? 私達は今から村に帰るところだぞ」


 ヨーゼフもヨースの事はよく知っている。


 なにしろ他の大鼠族とのパイプ役でもあり、追手を差し向けたマルタ子爵を追い詰める為に仲間の大鼠族を動かして背後で走り回ってくれたのがこのヨースなのだ。


 ヨーゼフからお願いされたこともあってヨースは動いたのだが、それだけでなく獅子奮迅の活躍を見せたコウに心動かされた部分もかなり大きい。


 貴族を敵に回すのだ、報酬だけで動けるわけがない。


 その意味では、ヨースはコウに可能性を感じていたし、面白いと思っていたので半ば伊達と酔狂で自分の持つ大鼠族の人脈を駆使した感じである。


「そりゃよかった。俺もエルダーロックの村に向かう途中だったんだ」


 ヨースはそう言うと、コウとヨーゼフの間にそのモフモフの体を入れて二人の肩に両腕を回す。


 ヨースは二人をグイッと引き寄せると小声で、


「……二人の懐を狙ってチンピラが五人、様子を窺っているから気をつけろ……」


 と、忠告した。


「……ドワーフの懐は寂しいものと、相場が決まっているんだがな?」


 とヨーゼフも小声で返す。


 ドワーフを狙っても、得られるものは少ないという意味だ。


 実際、ドワーフはすぐに手持ちの金はお酒に使う者も多く、怪力で反撃を食らう分、狙うのは損というのが常識なのである。


「……二人とも、どこかの店で大金を出しただろう? どうやら、そこの店員がチンピラにそれを教えたらしい……」


 ヨースはそのなんでも聞こえる耳をぴくぴくさせて盗み聞きした情報を話すと、二人の首に回した両腕を解く。


「それじゃあ、村まで一緒だな!」


 ヨースはそう言うと、魔法収納から槍を取り出すのであった。



 ダーマスの街を出た三人は村に急いで帰る事にした。


 待ち伏せをさせない為だ。


 ヨーゼフとコウは動けるドワーフだし、大鼠族のヨースは四本足で駆ければ、速度は一気に増す。


 コウとヨーゼフを狙っていたチンピラ達は想像以上に早く駆けていくドワーフと大鼠族に慌てて尾行どころではなくなり、追いかけ始めた。


 それは駆けているコウ達からもはっきりわかる。


 五人組が自分達の後方を必死な顔で追いかけているのだ。


 とはいえ、いくら早いといってもヨーゼフはドワーフである。


 体力が沢山あり、他のドワーフより早いといっても、人族のチンピラ達の瞬間的な速度なら追いつかれるというものだ。


 チンピラ達は必死の形相で、コウ達に追いつくと、


「はぁはぁ……、待て、そこの三人!」


 と、声をかけてきた。


「「「……」」」


 コウ達は苦笑して目を見合わせる。


「はぁはぁ……。大人しく持ち金置いて去れ……! さもないと、痛い目に──」


 チンピラのリーダーらしき男が最後まで言う間もなく、ヨーゼフが殴り飛ばした。


「「「えー!?」」」


 他のチンピラ達は最後までセリフを言えないまま吹き飛んだリーダーを見て一斉に驚いた。


 そこに、コウが自慢の大きな戦斧を魔法収納から取り出し、右手一本でそれを思いっきりスイングした。


 大きな風鳴り音と共に、チンピラ達のもとに髪を靡かせるような大きな風が通り過ぎる。


 そこに、大鼠族のヨースが槍の先端をチンピラ達に向け、


「残り四人で俺達を倒せると思うなら、死を覚悟で試してみるか?」


 と、脅しをかけた。


 チンピラ達は、激しく首を横に振って断ると、リーダーを全員で抱き上げて退散するのであった。



「あの一撃なら心配する事もなかったな。はははっ!」


 ヨースがヨーゼフの腕っぷしを見てそう評した。


「いや、騙し討ちされていたら、さっきのようにはいかないからな。教えてくれて助かったよ」


 ヨーゼフがヨースに感謝の意を示した。


「もし、血が流れることになったら、後々面倒な事になっていたかもしれないし、ありがとう」


 コウも感謝の言葉をヨースに述べた。


「いいって事よ。俺もお得意様の二人に恩を売れたからな。──よし、それじゃあ、改めて村に帰ろうぜ」


 そう言うとヨースはそのモフモフな体で歩き出した。


「え? 本当にヨースも来るの?」


 コウは素直に驚いて聞き返した。


「当たり前だろ? お前の新しい村を訪れる行商なんてまだいないだろ? 俺が第一号になって、大鼠族の人脈網で村の売れない商品を金にしてやるよ! ほら、行こうぜ」


 ヨースはそう言って胸を張ると、二人を急かして、帰郷を促すのであった。

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