異世界への切符 弐枚目
「ふぁ――! やっと帰って来れた――!」
私は、屋敷につくなり、1階のロビーのソファーに倒れこんだ。
「まあまあ、ご苦労様でした。リリィ様」
使用人さん達が笑って労ってくれた。
「フェイス達が戻ってくるまではリリィも休みだろうから、ゆっくりすれば良いよ」
と
「夜も遅いですが、簡単な食事をご用意しますか?」
使用人さんが気を使ってくれた。
「うん。ありがとう」
と
お城で分けてもらった食材で軽く夜食を作ってくれ、お茶も用意してくれた。
屋敷の食材は出る時に全部捨てていた。
留守の間にこっそり毒でも入れられたら困るからだ。
何しろ、暗殺部隊で神出鬼没の相手と戦っていたので、どこで何をされているかわからないからだ。
一応何人か警備はしてもらっていたが、その
テーブルや食器類も全部綺麗にしてからでないと安心して使えない。
普通の戦争と違う厄介な点なのだ。
とりあえず、身の回りだけは綺麗にして残りは明日から行うことにした。
「では、旦那様、リリィ様。お休みなさいませ」
使用人さん達が次々と挨拶をして離れの屋敷に帰って行く。
「ちゃんと、口に入れるものは気をつけてな」
私は暗殺業という生業をしていたのもあり、そこは心配でならなかった。
「はい。明日のお昼ぐらいまでは、持ち帰った物で過ごす段取りです。その間に屋敷全部を綺麗にいたします」
「うん。相手が相手だけに世話をかけるな」
「いいえ、リリィ様。これが私どもの戦いですので。お構いなく」
「闘いか?」
「ええ。毎日平穏無事に暮らせるように、少しの事を積み重ねて生きていく。それが、一番地味で大変なことでございます」
「そうか、そうだな。私も、これを取り戻すために戦ったんだからな」
「はい。リリィ様は、主婦の鏡でございます」
そういうと使用人さんはニコリと笑う。
「食事はあまり得意ではないが」
「人には得意不得意がございます。リリィ様は家庭を壊す敵と戦うことが出来る奥様。それでよろしんではないでしょうか?」
そう言うと、「オホホ」と口に軽く手を当てて笑った。
「……。褒められてる気がしないのだ」
そして、紙を用意し、スラスラと何か書き始めた。
「
私は尋ねた。
「うん。ここ最近の出来事をまとめていてね」
「お? 本にするのか?」
「う――ん。考え中」
「なんだ、考え中か?」
「でも、いろいろアレンジして異世界物の物語としてなら書いてみたいかな?」
「へぇ――。異世界か?」
「そう」
「
すると、顎に手を当ててながら
「う――ん。僕のいた世界とはイメージ違うかなぁ――」
「どんな所がだ?」
「そうだね。先ず剣と矢は、もう戦争の主力の武器じゃなくなってるね」
「そうか?」
「あ! あんまり言うと駄目だよね」
「ん? 私は口が堅いぞ」
「あ、そうだね」
「なあ
「何だい?」
「何度もくどいかもしれないけど、
すると、
「そう。嬉しいな」
「きっと行けると思うぞ。もっと安全な方法で。もっとちゃんとしたルールが出来てから」
「そうだね。きっとそうなるね。そうだよ良いね」
「あ、そうだ。ナビという貴族のご婦人とあったぞ」
「ゴフッ、ゴフ!」
「え? え?」
少し焦った顔をする
「
「う。うん。まあ」
「ナビがいないと、私達出会えなかったかも知れなかったな」
「う、うん。そうかもね。来たばかりだったから文章へたくそだったし」
「美人さんだったな」
私はポツリとつぶやく。
「ゴフッ、ゴフ!」
「どうした? 何故むせる?」
「な、何でもないです」
と取り繕う
ちょっと、意地悪しすぎたかな?
「なあ、ナビの屋敷の近くには海があるんだって」
「え? 本当?」
「こんど行きたいな」
「そっかぁ。海かぁ。そうだね行きたいね。出会った頃もお城でも話してたね」
「明後日ぐらいには行ってみるか?」
「早いね」
「フェイスが帰ってくると、また忙しくなるしな」
「ああ、そうだね」
「
「そうだねぇ。どんな風に違うんだろう?」
「綺麗だったのか?」
「街や工場が近くにある海は汚いかな?」
「そうか。こちらも同じかな?」
「どうなんだろう。でも、僕のいた世界よりはずっと綺麗かもね」
「そうか。じゃ自慢できるな」
「フフ。そうだね」
「なあ、
「何だい?」
「
「うん。それは、リリィも同じでしょ?」
「そうだけど。私は親の顔を知らない」
「あ、そうだね。御免」
「謝ることはないのだ。ルナやオルトだってそうだ。親方様やシャトレーヌは知らないけど。聞いたことないし」
「そうだね」
と答える
「どうして急に親の事を聞くの?」
「ルナがオルトと結婚を前提にして付き合うことになってな。それで、オルトにルナを家に送り届けさせた上で、ルナのご両親に合わせてやろうとしたのだ」
「へぇ? リリィがそんなことしたの?」
「なんだ? 私だって優しいぞ」
「あ、御免。闘いばかりして来たから、良く気が付いたねと感心しまして」
「実は、シャトレーヌに言われたんだけどな」
「なんだ。シャトレーヌさんのアドバイスか?」
「それでな、……」
「どうしたの? リリィ」
「
「なるほど。それは良い考えだ」
手をポンと叩いて
「……。真面目に言っているのだ」
「あ、御免。
「そうか」
「じゃ、孫の顔でも見せに行きますか?」
「ゴフッ、ゴフ!」
今度は、私の方がむせた。
「な、な、な、何を?」
「へへへ。まあ、物語の定番?」
「何が物語の定番だ。急に変なこと言うな」
「はい。御免なさい」
「でも、私の子供として生まれたら、一生呪われた運命になってしまうぞ」
「え? どうして?」
「だって、ほら。
私は少し暗い気持ちになった。
自分の親が人殺しを仕事にしていた人だと知ったら、どんな気持ちになるのだろう?
「でも、リリィはたくさんの人を救ってきたでしょ? 親方様も元帝国暗殺部隊のみんなも。命がけで皇国の首都を二度も守った」
「でも事実は消えない」
「そうだね。それは受け止めるしかないかな。それは僕も覚悟の上だよ」
「うん」
「僕はリリィに託されたんだと思うよ」
「何をだ?」
「その、リリィの隠された『能力』?」
「『能力』?」
「ほら、戦争が始まる前に親方様が言っていたよね。あの事」
「ああ、それか?」
それは、帝国皇帝がクローンや不老不死を追及していたのではないかという疑惑ついてだった。
それを完成させるために、私が必要になったのではないかと推測されたのだ。
「でも、結局今も分からずじまいだけどね」
と
「そして、これは僕の考えなんだけど……」
「僕が、この世界に呼んだのは、リリィなんじゃないかと思ったんだ」
え?
私が
この世界に?
「わ、私は、
偶然に偶然が重なって出会ったというのは、私としては心細かったからだ。
だけど、そんな『能力』、私のどこに?
「
「うん。そのひとつかなって?」
「そういえば、アルキナも、そんなような事言ってたな」
「え? 本当?」
「だけど、それに必要な大聖堂は壊しちゃったぞ」
「それは壊した方が良かったんだけど。そうか、やっぱりリリィは凄い『能力』が眠っているんだろうね」
「私が持っているってことは、私の両親もってことか?」
「ああ、そうだね」
「親方様は『どこからか補給する事がないのなら』って言ってたな。補給できるものなのか? 全然わからないぞ」
「う――ん。そうだね」
「けど、リリィ。凄いね?」
少し驚いた顔をする
「何がだ?」
「リリィの『能力』は、次元も越えられるのかも」
「ええ? 次元? 戦闘でちょっと使うだけでも寿命縮めるんじゃないかって注意されてるレベルなのに?」
「う――ん」
その後も色々考えてみるも、どれも想像の域を超えておらず、とりあえずやめることにした。
「いつか、リリィの『能力』で、行き来できると良いなぁ」
「そんな当てにされてもな」
親方様が助けに来た時、私の事を『私の娘』と言っていた。
娘の様に思っていただけなのか、ちがうのか?
仮に親方様が父親だったとしたら、帝国皇帝が狙う程の『能力』とまでは言えない。
すると、母の方だろうか?
そんなことも
「いつか聞けると良いね。親方様に」
と
「うん。今は聞かない。話さないのは理由があるのだろうし。本当に私達の事を子供の事の様に思って出た言葉かもしれないし」
「そうだね」
「さて、今日は遅いし、もう寝ようか?」
と
「うん。そうだな」
明後日は、ナビの所にお礼に行かなくてはな。
もしかしたら、ナビならば、何かヒントになるような導きを教えてくれるかもしれないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます