異世界への切符 壱枚目
「旦那様、リリィ様。準備が整いました」
使用人さん達から、屋敷に帰る準備が整ったと報告された。
「ありがとう。皆さんは、馬車の所で待っていてください」
「かしこまりました」
と使用人さん達。
「じゃリリィ。ローズさんに御挨拶しに行こうか?」
「そうだな。皇帝陛下と皇后様への挨拶はおわったからな。ローズはかっこつけて喋らなかったな」
「そ、その言い方……」
と、
「いや、だから、このまま帰ると大変なことになるのだ。挨拶に行かないと。めんどくさい奴なのだ」
「もう、ローズさんには厳しいなぁ」
二人でローズの部屋に挨拶に向かった。
流石、皇太子妃だから夫婦の部屋とそれぞれの部屋と沢山ある。
来賓用として、皇太子と皇太子妃とそれぞれあった。
もちろん、その方々が泊まれるような部屋もある。
そう言った部屋あるエリアの前には衛兵がいる。
「ローズ皇太子殿下に出発の御挨拶に参りました。どうか、お取次ぎください」
「これは、
「ありがとうございます」
私も、こういう時はしおらしくクールな女性の様に振舞って、静かに挨拶をして通り過ぎようとした。
「クスッ!」
(ん?)
振り返ると、さっきの衛兵さんが、笑いをこらえていた。
「こ、これは失礼足しました。ぐふっ!」
失礼したと言い終わる前に、また笑った。
(んん?)
「本当に、申し訳ございません。あの、実は皇太子妃殿下よりリリィ様の事を伺っておりまして。その話を思い浮かべてしまい、つい。大変申し訳……、グスッ!」
ローズ、私の事を皆にどんな感じに話してるんだ?
「どうしたの、リリィ?」
「
「え? なんで?」
「む――」
私は、少し不機嫌な顔になった。
「まあ、またしばらく会えなくなるから、ちゃんと会っておこうよ。ね?」
「うん」
そう言われて、案内してくれる執事の後を付いていく。
「こちらでございます」
執事の人が扉を開けてくれた。
「ローズ皇太子妃殿下!
「はーい。こっち、こっち」
また、軽い返事をして。
もうちょっと、こう、皇太子妃としての威厳あった方が良くないか?
もうひとつの部屋を通るとローズがソファに座って待っていた。
執事の人も退室して、ローズと私達の三人だけになった。
「もう、帰りますの?」
私達が座るなり、ローズが文句を言ってきた。
「ええ、私も仕事が溜まっているので。それに、リリィも少し休ませたくて。フェイスが帰ってきたら、また指導員として働きだすでしょうから。その間だけでも」
「ええ。リリィちゃん。ずっと居ても宜しいんじゃないの。一緒に遊ぼうよ」
と、ローズ。
「子供じゃないんだから」
と私はローズを
「それに、そんな遊ぼうなんて嘘ついても騙されないぞ。毎日公務公務で、死にそうになってるって聞いてるぞ」
私だって、元暗殺部隊の人間。
ターゲットの裏情報はしっかり把握済みなのだ。
「くっ、騙されなかったか? リリィちゃんに外交の方任せて、私は内政にと思ったのに」
「私に外交なんて務まらないぞ。勉強してないし。それに、フェイスか、臣下の外交官の仕事じゃないのか、それは?」
「女同士の外交ってのがあるんですぅ」
そう言って、プクッーと顔したローズ。
「そんな、『あるんですぅ』って言い方されても」
困惑する私。
「大変そうですね」
「わーん。
「いやいやいやいや」
苦笑いする
「あ、そうだ、ローズ。衛兵さん達に、私の事なんて風に話してるのだ? 思い出し笑いしてたぞ。私を見て」
「ん? な――んの事かな――?」
「ぬぐぐ」
「あら、リリィちゃん、怒ってる――!」
そう言って、ローズが笑った。
私と初めて会った時の、あのローズの笑顔がそこにあった。
最初、あの屋敷では、
二人とも出自が皇太子と皇太子妃候補とは思えないぐらい、屈託のない感じだった。
あの頃に戻りたいと思うことではない。
ただ、過ごしてきた貴重な日々であったことが、ローズと話していて感じたのだった。
「ねえ。
とローズ。
「大聖堂、勿体ない事しちゃったね」
少し寂しそうにローズは言う。
「どうしてですか?」
「だって、リリィちゃんも言ってたんでしょう? 来ることが出来るのなら、帰ることも出来るかもしれないって。だから……」
しばらく
「それはリリィにも言いましたが、この世界の人達に災いをもたらすなら壊した方が良いんです。僕が帰れる帰れないの問題じゃない。それに、今の僕はとても幸せですよ。ね? リリィ」
突然、私に向かって笑顔で言う
ひ、卑怯なのだ。
そんな素敵な笑顔でこっち向いて話したら。
「う。うん」
と、やっとの事で返事をする私。
「あ、リリィちゃん、イチャイチャして。フェイスがいないから寂しいだろうって、見せつけに来たの?」
「ち、違うぞ」
「ま、良いか? リリィちゃんも、大変だったしね。また、怪我の数、増えっちゃったね」
そう言えば思い出した。
屋敷に来てお風呂に入った時、傷だらけの私の体を見て、ローズは泣きだしたんだっけ?
「まあ、大きいのがブスッーっと。それと、あちこち」
ローズに説明してやった。
以前のローズと同じだったら、シクシクと泣き出していた。
だから、また泣き出すのかなと少し心配した。
「うん。親方様もルナちゃんも、オルトちゃんも。凄いなぁ。私も剣士になれば良かった」
ローズは目を輝かせて言う。
「何を言っている。生き残れるまでになるには、簡単じゃないぞ。それに、ローズの様に、皇太子妃として振舞うのも直ぐに身に付くものじゃないだろ。子供のころからの躾とか。私がやっても猿真似だぞ」
「えへへ。リリィちゃんに褒められた。嬉しい」
とニコリと笑うローズ。
「でも、リリィちゃん。もしもの時は、助けてね。こっち方面でも」
とローズ。
「え? そんな時がありそうなのか?」
「例えばだけどね」
「なんだ、例えばなのか?」
「でも、考えておいてほしいな。そう言う訓練も受けてきたんでしょ?」
「ん。まあな」
「帝国みたいな国が、今後も現れないとは言い切れないから、刺客の危険を感じながら公務を行う時もあるかもしれない。だから、その時かな?」
「私は身代わりか? 盾替わりか?」
「ち、違うわよ! 女性ばっかりの所に、男性の衛兵置けないでしょ。そう言う時よ。あとルナちゃんやメルティちゃんにもお願いするかも」
「うーん。変な女子会みたいだな?」
「え? 『女子会』?」
(あ、しまった)
私は迂闊にも新しい言葉を話してしまった。
「ねぇねぇ
目を輝かせて
「えーと、『女子会』って言うのはね?」
ちょっと挨拶をして帰るつもりだったのに、話が長くなってしまった。
「も、もう帰ろう。
流石の私もばててしまった。
「はいはい。わかりました。じゃ、また今度来てね。来なかったら大軍率いて、お屋敷攻めるから」
というローズ。
それを聞いて
あの屋敷の時の様に喋るのは、
それが、ローズに取っては、とても素敵な思い出になっているのだろう。
「さーて、明日から頑張るぞ――」
ん――っ! と背伸びをしてローズは言った。
「親方様も来てくれて正式に第参部隊として動くから、フェイス警護の為にお城にも来ることになるだろう。その時は、ちゃんと顔を出すよ。私は指導員だから暇だしな」
私は寂しがるローズに伝えた。
「そうね。そうだったわね。根性の別れになるかと思ったからずっと引き延ばしてたのよ」
「おい!」
「ウフフ!」
やっと、ローズから解放された。
馬車の所に付いたら、何かあったのではないかと使用人さん達が少し心配していた。
馬車は
私達の複数台の馬車は、城を後にした。
こんど来る時は、メイのお店で何か作って貰って持っていこう。
きっと、ローズも喜ぶだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます