重大会議 その参
良し。次はメイだ!
待ってろよ、メイ!
直ぐに助けに行くぞ!
私が皇国に来て街に行った時、シャトレーヌのお店に似た軽食屋で働いていた。
店の中の作りはシャトレーヌの店と違っていたけど、そのお店のお陰でメイと知り合う事が出来た。
ハキハキとして接待してくれて、シャトレーヌがもっと若かったらこんな感じかなと思ったものだ。
暗殺者だったのに怖くないかと尋ねたら、『でも、あの時から、”恋する乙女”ですよね?』と言って、怖がるどころか応援してくれたのだ。
あの頃は、まだ
一緒に来てくれていた
『じゃあ、またね。リリィちゃん』と言ってもくれた。
そのメイが、恋をした。
いや一目ぼれの片思いかな?
それに気が付いたのはルナだ。
ローズやシャトレーヌもいないから、私だけだったら気が付くのは遅かったかもしれない。
相手は、オルト。
屋敷ですれ違っただけだったのに。
警備の配置が終わってから呼ばれるはずだったのに、少し早く来た。
オルトを気にしていたは、オルトを怖がっているのかなと私は思っていたのに。
その後は、なんやかんやで、恋愛相談どころか生きるか死ぬかの状態だったか、後回しになってしまったが。
戦争中は、メイのところまで十分に仲間を配置できなくて、本当はヤキモキしていた。
奴らの狙いは
奴らの気が変わって全土にゲリラ的に攻撃されたら大変だった。
ひとつの勝因は、あいつ。
あいつが私に執着したから引付ける事が出来て叩きのめすことが出来た。
ギリギリだったのだ。
もうそんな心配したくない。
メイが、私達の身内なら。
もちろん、かえってターゲットにされる可能性も増えるが、対抗することも出来る。
普通の人では、あんな奴ら対処は無理だからな。
オルトなら。
今は第参部隊副隊長で、元帝国暗殺部隊のメンバーズのオルトなら、メイを安心して任せられる。
本当に、心から、そう思うのだ。
メイが関わりたくないと言えば、どうしようもない。
だけど、オルトを意識してくれた。
最初ルナには、きつく怒ったけれど。
それは、私も戦いに備えて、それどころではないと頭が固かったからだけだ。
メイが、オルトの事を気に入ってくれているのなら、それはとても嬉しい事なのだ。
自分の弟が気にってもらえたみたいな感じで。
「リリィちゃん。リリィちゃん」
と呼ぶ声がする。
シャトレーヌだ。
「お、シャトレーヌ。メイはどこ?」
「こっちこっち」
と手招きする。
そこは、親方様がお城からお借りしている部屋だった。
「そこに二人いるの?」
と尋ねた。
「うん。今、お話し中」
(え? 早いな)
やはり、シャトレーヌは行動が早い。
部屋に案内されたがオルトとメイの姿が見えない。
外にテーブルを用意して、そこで話をしているそうだ。
「まだ、私がちゃんとメイと話せてないけど、大丈夫だったの?」
オルトの事については、まだメイと話をしたことが無かったのだ。
「ルナちゃんから、お話は全部聞きました。大丈夫よ。リリィちゃんの気持ちもちゃんと伝えました。私なりの解釈だけどね」
とニッコリ微笑むシャトレーヌ。
「そうか。で、今どんな様子なのだ?」
とても気になる。
「そうね。流石よねメイさんは。リリィちゃんだったらモジモジして聞けないことや話せない事も、ちゃんとやり取りしてる。流石お店で接客業してただけのことはあるわ」
シャトレーヌが褒める。
「そうか。メイは対人関係では百戦錬磨だからな。私なんか雑兵だ」
「ウフフ。でも、ここまで舞台を用意してあげたから、ああして居られるんですよ」
「ん? 何が言いたいのだ?」
「リリィちゃんに感謝していたわ」
「え? そ、そうか?」
私は、ちょっと嬉しくなった。
「ええ。私がリリィちゃんの気持ちを話したら、ニッコリとして目に涙を浮かべてね。『リリィと友達になれて良かった』って言ってくれたわよ」
「そうか」
「ええ。それにこうも言っていたわよ」
「何だ?」
「『シャトレーヌさんと違って、私は皇国の一般人だから、気になっても声をかけてはいけないと思っていた。リリィさんも気を使ってくれた。だけど、私の気持ちに気が付いてくれて、こうして機会を与えてくれて、とても感謝してる』ですって」
そうか、やはり関わらせないようにしていたのは気が付いていたか。
でも、メイの気持ちに早く気が付いたのはルナと屋敷の使用人さん達だけどな。
私だけは、ルナに言われるまで気が付かなかったのだ。
すまん。メイ。
「親方様はどこにいるのだ?」
すると、ニコニコした顔でシャトレーヌ婦人は言う。
「あのね――。あの人ね――」
(ん? 『あの人ね――』?)
「二人が話し始める前に、オルト君にビシッと言ってくれたのよ」
「お、おう」
その時のやり取りは、なんとなく想像がつく。
オルトは冷酷に対処しようとする傾向がある。
親方様の影響もあるんだろうけど。
しかし、もう暗殺部隊の私達ではない。
皇国の人間として、私達もしっかりと責任を持って生きていかなければならないのだ。
しかも、オルトは第参部隊の副隊長だ。
元暗殺者ではなく、騎士みたいな振る舞いを身に付けていかなくてはならないのだ。
となると、どこぞの貴族の御令嬢が良いのかもしれないけど、これは早い者勝ちだ。
そこはメルティが担当してくれたから大丈夫だ。
いや、メルティよ。
お前は生贄ではない。
決してそうではないぞ。
と、私は自分に言い聞かせる。
メイもオルトの素性は、私達などから簡単には聞いている。
その上で、オルトを好きになったのだろう。
下手をしたら、私の
それをわかったうえで来ているのだ。
実際に私が死にかけているし、
親方様が話に入ってくれたことで、オルトの外堀は完全に埋まった。
オルトは、メイの事も気にはなってくれているようだったから大丈夫だろう。
私は、窓のカーテンをこっそり開けて様子を見てみた。
そこには、ニコニコしながらオルトと話すメイがいた。
親方様は、広場の手すりの近くで景色を眺めておられる。
オルトは時々微笑んでいる。
いや、はにかんでいるのか? あれは?
少しカチコチになっている風でもある。
あそこでは、オルトも防戦一方なようだ。
対話術では
メイは、私に短剣を使う事も躊躇うなと言ってくれる強い女の子なのだ。
そう言えば、メイは親方様とも話していたな。
その時のやり取りで、メイは器が大きい事を親方様に認めさせたのか?
親方様を味方に付けるとは、メイは優れた戦略家だ。
などと、つまらない妄想にふける。
あんなに焦るオルトを見るのは、ちょっと初めてかもしれない。
後でルナに詳細を伝えよう。
いや、これは会議の結果報告なのだ。
仕方がないのだ。
「どんな事、話してるんだろうね?」
シャトレーヌが急に話しかけてきた。
「ビッ、ビックリした。うーんと、……。ニコニコしているから楽しい話なんだろうな」
「そうね」
「シャトレーヌ」
「なあに?」
「私の時も、こんな風に見守っていてくれていたんだな。今回、メイやメルティの事を世話をしていて良く分かったぞ」
「そう。リリィちゃんも成長しましたね?」
「うん」
これで、メイとオルト、メルティの三人に恩を返すことができた。
こんな事ぐらいでしか返せない私を、どうか許しておくれ。
三人とも。
不器用にも程があると自分でも反省しているのだ。
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