重大会議 その弐

 メルティはメンバーズの子ではない。

 そして、不憫なことに、性格が私に似ているとたまに言われるらしい。

 さすがに、私みたいに語尾に『なのだ』とは言っていないが。


 メルティも私と同様に、女の子らしく育てられてきてはいなかった。

 私に似ているという事は、要するに女子力ゼロに近いということだ。


 ルナの提案で、メイに関してはシャトレーヌに協力をしてもらおうとなった。

 ルナはローズに話を通して、男爵様を早速連れてくる段取りにした。


 何せ、早くしなければ、みんな揃っている時は今日と明日ぐらいしかないからな。


 少し静かな個室を借りた。


 二人とも初顔合わせだからな。

 出来る限りもてなさないといけない。


 コン、コン!


 ドアをノックする音がした。


「どうぞ。開いているぞ」

 すると、メルティが入って来た。


「あの、リリィ姉さま。ルナ姉さまから話があるからと言われて来たんですが」

 少し、警戒しているようだ。


「うん。ちょっとな。メイをお城に連れて来てくれた礼を言いたくてな。ありがとな」

「いいえ。メイ様が、リリィ姉さまの事を心配なさっていたので。戦闘も終わったと連絡があったので、姉さま達も戻ってきていると思ってメイ様に話したら是非会いたいと」

「そうか? うれしいな」

「よかったですね」

「うん。それで、メイの様子はどうだった?」

「え? そ――ですね――。リリィ姉さまが無事とわかって安心はされたのですが、他に何か聞きたそうなお顔をしてましたね」

 

(来たな)

 

 やっぱり、メイは城に来たかったのは私に会いたいだけではなかったようだ。

 そして、その気になっている程度で終わらせているメルティの性格も確かに私に似ている。

 そうだよね。

 だから、何なのだと思うよね。

 私もそう思うんだけど、それが鈍いと言われるのだよ、メルティ。


「それで、メルティ。ちょっと、お願いがあるのだが」

「はい。何でしょう」

「会って欲しい人がいるのだ」

「会って欲しい人? 私にですか?」

「そうだ」

「はあ」

「その前に、服を着替えないといけなくてな。お相手は上品な方なので」

「え? 私が? そういうのは、貴族のお嬢様にお願いした方が」

「いや、お前なら警護も出来るから、是非にとな」

 警護というのは、嘘なのだが。

「そうですか?」

「良いか?」

「んん。わかりました」

 素直で宜しい。


「じゃ、ひとりで着替えるのは大変だから人を呼ぶな」

 私は隣で待機してもらっていた使用人さん達を呼び、メルティの着替えをお願いした。


 着替えは、直ぐに終わり、メルティが隣の部屋から出てきた。


「あ、あの……。姉さま? この衣装は?」

 そこには、良家のお嬢様と見紛うぐらいの素敵な女性が立っていた。

「……」

「姉さま?」

「あ、ごめん。少し見とれてしまった」

「え? 何ですかそれ?」

「いやいや、すまん。すまん」

「あの、恥ずかしいんですけど」

「まあ、そうだろうな」

 

「それと、動きづらいんですけど」

 

「ぷふふっ」

 思わず吹いてしまった。

 

「な、何で笑うんですか?」

 

「いや、私もドレスを着た時同じようなセリフを言ったからな」

 私の感想を聞いてモジモジするメルティ。

 メルティ、可愛いぞ。


 コン、コン!

 再び、ドアをノックする音がした。


「姉さま。お連れしましたよ」

 ルナだ。


「どうぞ、お入りください」

 私は立ち上がってドアを開け、案内した。


「え? この方は? どなたですか?」

 メルティが驚く。

「会って欲しいというのは、この男爵様の事だ。元帝国暗殺部隊だった第参部隊の活躍を見て、どなたか紹介して欲しいと言われててな」

「はあ」

「オルトに聞いたら、メルティが良いのではと言っていたので、お前にお見合いをしてもらおうとなったのだ」

「なったのだ、って」

「まあ、まあ」

 なだめる私。


「皆様、座って下さい」

 ルナが案内した。


「お初にお目にかかります、メルティ様。お可愛い方で、お会いできて幸せです」

「……」

 メルティは、スカートをギュッと握って固まってしまった。

「メルティ? 返事をしてあげなさい」

 私は、メルティを励ました。


「あ、あの。初めまして。メルティと申します」

「はじめまして。こちらこそよろしく。可愛いお名前ですね?」

「……」

 また、メルティは固まった。


 ああ、何か見ていられない。

 自分も、言辞ゲンジと初めてデートとかしてた頃は、こんな感じだった。

 周りは、相当イライラしただろうな。


「メルティ様。この度の活躍、私は感動いたしまして。是非、どなたかご紹介して欲しいとローズ皇太子妃殿下にお願いしたのです。ならば早速とメルティ様をご紹介頂いて、こうして来ております」

「あ、はい。ありがとうございます。けど、わたしは……」


「メルティ? 緊張しているのか?」

 ちょっと心配になったので、私はメルティに尋ねた。

「はい。それもありますが、その」

「その?」

「いえ」

「?」

 メルティはどうしたんだろう?

 私は心配になった。


「メルティ。男爵様は素敵な人でしょう?」

 見かねたルナが助け舟をだした。

 私も不器用だから助かる。


「は、……い」

 そう言うと、顔を赤くして小さくなるメルティ。


「?」

 これは、どういうことなのだ?


「ん、んん」

 すると、ルナが私の脇をツンツンとつついてきた。

 流石に鈍い私も、ルナのお陰で気が付いた。


「じゃ、男爵様。メルティ。後は二人で少し話してみては。私とルナは、しばらく席を外します」

「そうですか。ありがとうございます」

 と、男爵様。

 メルティは、ジッとして動かない。


「男爵様、何もなければ30分ほどして様子を見に来ますね」

「はい。メルティさんも良いですか?」

 男爵様が、メルティに声をかける。

「は、い」


「メルティ」

 私は、メルティに近づいて耳元で囁いた。

「はい?」

(メルティ。……。絶対、幸せになってね)

「フンぐ!」

 思わず変な声をだすメルティ。


 なんてちょろい子なんだ。

 私に似ているって、もしかしてこういう所の事も言っているのか?


 私とルナは、その部屋をいったん後にした。

 部屋の奥は、広い広場につながっている。

 その広場に出て、城の外の様子も見ることが出来る。

 男爵様には、その説明などいらないだろう。

 綺麗に整備された王宮のだから、私と言辞ゲンジが行った古城より素敵だし。


「姉さま。良かったね。二人とも、お互い気に入ったみたいで」

「うん。メルティが怒り出すんじゃないかと心配だったぞ」

「でも姉さま。姉さまも、あの男爵様。良い人だと思ったでしょう?」

「うん。まあな。しかし、何でそれを私に聞く?」

「だって、メルティの性格とかが姉さまに似てるから、姉さまが気に入る相手なら大丈夫ってわかるもん」

「な?」

「んん? 反論できますぅ?」

 可愛く首を傾げてルナが聞き返してくる。

「ぬぐぐ」


 しばらくして隊の仲間から、メルティが男爵様と広場のところで楽しそうに話がはずんでいると報告があった。


(30分じゃ、終わらないなこれは)

 

 後は、ルナに任せて、私は次の作戦行動に移った。


 そう。

 次は、本命のオルトとメイのお見合いなのだ。


 

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