大聖堂って、要するにね(リリィ婦人の見解)

「皇国の人間は、少し愉快な人間が多いな」

 親方様が呟いた。

「そう、ですかね? ガルドやリンド皇国皇帝様は、真面目そうですが」

「そう思うか? まあ、フェイス殿下やアミュレットのようなタイプの人間が伸び伸びしていられるのは良いことだ」

「そうですね」


 大聖堂の内部から時々爆音が聞こえて来る。

 アミュレットの第壱部隊が、大聖堂内部を破壊しているのだ。


「燃やす方が早いのでは?」

 私は尋ねた。

「ふむ、破壊で済みそうになければ、最終的には火を放つ。魔法陣が当然火に対応できるものも用意してあった。まずは、そちらの破壊からだな。後、転移等の人的被害が起きるものを先に破壊している。用心のためだ。それと周りへの延焼を防ぐ意味もあって、なるべく破壊で済ませたいのだ」

「そうですか」


 主要な柱などを少しづつ破壊されていく大聖堂。

 窓のあちこちから破壊の際の煙が少し漏れ出していた。


「ガルド大隊長。準備が整いました。後は火薬による支柱の破壊で終わります」

 アミュレットがガルドに報告に来た。

 

「うむ。了解した。では、合図を持って破壊する」

「はい」


「その前に……」

 ガルドは、私と親方様にこれから壊すと確認をしてきた。

「親方殿。リリィ殿。これから、大聖堂を破壊する。これは、最終確認です。今更嫌だと言われても困るが、一応確認しておきたくてな」

 私は一度親方様を見た。

 私はあまりなじみがないが、親方様にとっては何やら深い縁のある大聖堂であるような気がしたからだ。

 しかし、親方様は私に任せると目で合図を送ってくれた。

 私はそれを受けて、ガルドに返事をした。


「うん。壊してください。ど――んと派手に」


 ガルドは、再びニッコリを笑って返事をした。

「そうか。では、派手に壊そう」

 

 ガルドはアミュレットに指示を出した。


「破壊せよ!」

「ハッ!」

 アミュレットは隊員に向き直し、指示を出した。

「大聖堂の破壊を実行せよ!」

「ハッ! 了解であります!」


 ド、ド、ド――ン!


 大きな爆音が大聖堂のあちこちから鳴り響いた。

 内部の柱が次々破壊されている様子が、外に噴き出す煙からなんとなくわかる。


 下の壁が次々と破壊されていく。

 そして、屋根の重みに耐えかねて崩れていく。


 屋根が崩れ落ちたかと思うと次は、屋根の部分があちこち爆発して破壊されていく。

 流石に屋根の部分の破壊された破片は四方に散乱していく。


 ゴゴ――ン! という音と共に、大聖堂の全部が崩れ落ちた。


 周りには、煙や埃がモクモクと広がっていく。


 とうとう、長年私と言辞ゲンジを苦しめていた大聖堂が破壊された。

 この世から消えたのだ。


 これで本当に言辞ゲンジは帰れなくなってしまった。

 だけど、私はあの人を絶対に孤独にしたりしない。


 破壊を確認したアミュレットが私のところにやって来た。


「本当に、何の施設だったんでしょうね? これで、言辞ゲンジさんの帰る手がかりがなくなってしまった。本当に良かったんですか?」

 と、アミュレットが私に尋ねた。


 それに、私は満面の笑みでアミュレットに答えた。


「うちの旦那が、昔使っていた『婚活会場』よ。もう必要ないから壊していいの」

 ニコニコしながら答える私。

「え? 『婚活会場』ってなんです? あそこでお見合いでもしてたんですか?」

 アミュレットが不思議そうな顔をした。

「いいえ。あの中に入ったのは、今日が初めてよ」

「ん?」

 『婚活会場』という言葉に必要に食い下がってくるアミュレット。

 ルナと気が合うわけだ。


「これで、本当に終わったんだなぁ」

 私は呟いた。

「ああ、そうですねぇ。言辞ゲンジさんとリリィさんにとっては、本当に厄介な建物でしたね」

 アミュレットが答えた。

「これで、帝国との縁が本当に切れたんだな」

「そうですね。リリィさんにとっては、良い国とは言えなかったですからね。そのままだったら酷い目に会ってたでしょうし。あ、今も十分に会っていますかね?」

「フフフ。そうだな」

「……」

「ん? どうした、アミュレット?」

「いや、そう言えば、リリィさんも笑っているのはあまり見たことなかったかなと思って」

「そうか?」

「ん――。どうだったかな――?」

 と悩むアミュレット。

「ちょ、ちょっと。そんなに悩まないと出てこないのか?」

「お屋敷に居る時は、笑ってたかな――? あまりお屋敷には立ち寄ってないから記憶にないな――」

「もう、初めて笑ったで良いよ。めんどくさい」

「アッハッハッハ。すいません」

 そう言って、アミュレットも笑った。


「リーゲンダ隊長! アルキナって奴は、結局どういう奴だったんですか? ただの暗殺者のひとりがここまで出来るとは思えないんですがね」

 アミュレットは親方様に尋ねた。

「そうだな。暗殺者に過ぎなかったが、アルキナは帝国皇帝とも直接会っているとも噂されていた」

 親方様は答えた。

「親方様と称されて、組織をまとめられていたリーゲンダ隊長は会ってもらえないのに?」

「そうだな」

「やっぱり、帝国皇帝本人か、帝国皇帝が乗り移る器なのかなぁ? ええ? 帝国皇帝って、あんな若い人だったの?」

「即位以来、一度も表に出ていないからな」

「良く統治出来ましたね」

「その為の暗殺部隊だったからな」

「ああ、なるほど」

「尋問で吐かせることが出来るかどうかもわからんな。その記憶等も何かの細工をしているかもしれん。だから見当もつかんな」

「親方様と言われる方でもですか? 凄い奴ですね。変な意味でですが」

「ふっ。そうだな」


 親方様ですら、帝国皇帝の正体がつかみ切れていない。

 帝国皇帝は、本当にどこに行ったのか?

 まだ、帝国領内にいるのか?

 それとも、アルキナは帝国皇帝なのか?

 その器に過ぎないのか?

 そして、アルキナは、どこまで知っていて、どこまで喋るのか?

 

 親方様でも見当がつかないのに、私では、なおさら見当もつかない。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る