大聖堂内の戦い(3)

 言辞ゲンジを返してあげることが出来るのか?

 元の世界に。

 本当に?


「帝国皇帝は、私と言辞ゲンジに抹殺指令を出しているじゃないか? お前は、それを無視するのか?」

「ハハハ。そんなもの、殺したことにして報告すれば済むことさ。この世界からいなくなれば、似たようなものだろう?」

「な、何?」

「いなくなるだけさ。ただし、君は僕と一緒だよ。そこは譲れな~い」

 不敵な笑みを浮かべて語る、人間の方のアルキナ。

 クローンのアルキナも、一緒のタイミングで笑みを浮かべる。


「最初の命令がうまく行っていたら、こんな苦労しなくて済んだんだけどね。君がしくじるから。しくじるだけじゃなく、あんな異世界人と一緒になるなんて。なんて馬鹿げた判断をしたんだ?」


 親方様が言っていたのと同じ様な事を言った。

 やはり、最初から私が目的?


 ああ、そうか?

 私を守る為に、言辞ゲンジが来てくれたんだ。きっと。

 私いたから、言辞ゲンジが呼ばれたんだ。

 そして、もし呼ばれた人が言辞ゲンジでなかったら、今の私はいなかったんだ。

 

 もしかしたら、私はこいつに騙されてどこか別の世界に連れていかれるか、不老不死とか材料にされかねなかったかもしれない。


「帝国皇帝が不老不死の目的で、私にコダワっていると聞いたが、それは本当か?」


「……」


 人間アルキナは、笑みを浮かべたまま答えない。

 知らないのか?

 答えないのか?


 ああ、言辞ゲンジ

 私はあなたを好きになって良かった。

 だから、あんな幸せな日常が、平凡な日々を経験できた。

 親方様の笑顔も見られた。

 

 たった一人でこの世界にきて、孤独だったあなたが、自分を殺しに来た少女を好きになってくれなかったら。

 あなたが小説家でなくて、ただの冒険者みたいに剣だけが強い人だったら。

 あなたが多くの人を巻き込んででも、私に好きだと言ってくれなかったら。


 こんな嬉しい気持ちにはなれなかった。


 言辞ゲンジ


「いらない!」

 私は、応えた。


「はぁ? 何? 何が、いらないんだ?」

 不快な顔をするアルキナ本人。


「もう、その世界に興味はない」

 うつむきながら歯を食いしばって応えた。

 

「……。な、何?」

 アルキナが不機嫌そうな声で言った。

 

「あの人が。言辞ゲンジが、この大聖堂を壊せと言ったの。残せば帰る手段が1パーセントでもあるかもしれない。だけど、それで私達の世界に悪い影響を与えるなら、壊せって言ったの! だから、ここは、壊す!」


「この! リ、リリィ――!」

 二人のアルキナは、怒り狂った顔をしていた。


「フ、フフフ!」

 その悔しがる二人のアルキナを見て、私は思わず笑ってしまった。

「何がおかしいぃ!」

 怒るアルキナ。


「フ、ハハハハ! 何年も時間と金と人をかけた横恋慕の結果がこれかと思うと。お前が哀れでな。ハハハ」

「だ、黙れ! 黙れー! 黙れ――! リリィ――!」

 二人のアルキナが、声をそろえて私に言った。


「黙らないよ。私の好きな人はただ一人。枇々木ヒビキ言辞ゲンジ、この人だけよ! 他所ヨソんちの家庭の平和な世界を壊そうとするアンタなんか、縛り上げてお仕置きしてやる!」

「ぐっ! リリィ――!」


 ごめんなさい、言辞ゲンジ

 ごめんなさい、親方様。


 やっぱり、使うなと言われた『チカラ』、使わないとダメみたい。


 周りから音がスッと消えていく。

 とても、とても静かになる。

 親方様に指摘されるまで、ただ集中力が高いだけなのかと思っていたんだけど、そうじゃないって知ったのは驚きだった。

 そして、これが、私が帝国皇帝やアルキナから狙われる『能力』だったなんて。


 でも、これで決められないと、後が無いの。


 ダンッ! と、大聖堂に音がこだました。


 二人のアルキナの首を切ろうとしていた。

 生かして捉える余裕がない。

 これしかない。

 御免ね。言辞ゲンジ


 しかし、次の瞬間には、大聖堂の壁に叩きつけられていた。


(こ、今度は横から?)

 アルキナは不敵な笑みを浮かべていた。


 なるべく魔法陣を避けるコースを選び飛んでいた。

 だが床だけでなく、壁にも書いていたのか?

 絵か何かでそれを隠していたのか?


 そのまま、私は力なく床に落ちていく。


「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ」

 体が重い。

 いままで、こんな事無かったのに。

 無理をし過ぎたせい?

 爆裂を受けたから?

 それとも、その両方?

 

 とにかく、とてもまずい。

 動かなきゃ。


 勝利を確信したのか、人間の方のアルキナがゆっくりと近づいてくる。


「ようやく、ようやく君は、僕の物になる。その力を使えば、突破できると思ったかい? 甘いね。規模を大きくすれば都市さえも吹っ飛ばせるんだよ、これ。君が光の速さでも超えない限り避けれるわけないじゃん」

 

「グッ! ち、近寄る、な」

 力ない声で、私は言った。


「うるさい。もう君に選択肢は無いんだ。さあ、一緒に行くよ、リリィ!」


 人間アルキナが私に近づいて来て、私を抱き上げようとした、その時。


「ぐ、ぐぁぁ!」

 誰かの悲鳴のような声がした。


「私の娘に、何をする」

 クローンのアルキナが、壁に串刺しとなっていた。

 そして、串刺しにしていたのは、親方様だった。


「お、親方様?」

 どうしてここに?

 ガルド達も入ってこれなかったのに。

 今、『娘』って言ったの?

 私の事を?

 娘の事の様に思ってくださっていたということなの?


「どうしたリリィ。お前の力は、そんなものではないだろう? 自分でケジメを付けるのだろう?」

 振り返りもせずに、親方様は私に言った。


「リーゲンダ・テンプルム候。貴様ぁ!」

 憤る、人間アルキナ。


「は、はい。親方様。ありがとうございます!」

 私の声を聴いて、アルキナはビックリした顔で振り返る。

 

「しまっ……、ぐあぁぁ!」

 アルキナ。

 迂闊に近づいたお前も詰めが甘いな。

 距離を取られていたら、今の私ではお前を捉えられなかった。


 こんなに近くに来てくれたから、お前のお腹に思いっきり拳を叩きつけることが出来たよ。


「グフゥ」

 目を向いた表情で、呻き声を上げるアルキナ。


「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ」

 私は肩で息をしながら、崩れ落ちるアルキナを見下ろす。

 

「リ、リリィ――」

 意識を失いかけながら私の名前を呼ぶアルキナ。


「アルキナ。お前、もしかして帝国皇帝、『本人』じゃないのか?」

 

 だが、それの答えは無かった。

 私が話しかけている間に、アルキナは意識を失っていたからだ。

 

 

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