伯爵令嬢ナビ婦人 その壱
私とルナは、まだ戦闘の続いている城を後にし、大聖堂のある帝国との国境付近へと向かった。
間に合えば、ガルド達と合流する可能性もあったが、ガルド達ものんびりしていない。
フェイスの支援を待たずに、帝国領内に突入して大聖堂に迫っているかもしれない。
この大聖堂を抑えないと、勝が見えないからだ。
城からルナと皇国領内を駆け抜ける。
街という街は、今は活動を
いつどこに、帝国の
今は、親方様率いる第参部隊の隊員が引きつけているが、他に展開しないとも限らない。
大聖堂へ向かう途中、私達を見かけると警備している皇国の兵士達が剣を立てて起立する。
私達に敬意を表してくれているのだ。
愛想のよいルナは、見かけるたびに手を振って応えていた。
そうすると、兵士達が「おおー!」と言って歓喜の声を上げる。
「お前だけ、愛想振り撒きすぎじゃないか?」
コミュ障の私は、そういう点ではルナが羨ましい。
「ええ。姉さまは、もう有名人だから必要ないじゃん。私は、皇国守備隊の隊長さんと結婚した元帝国の誰かぐらいしか、みんな知らないから覚えて貰わないと」
(あ、そうですか)
皇国の中央を抜けて、国境付近に近づいたころ、少し離れた場所に隊列を組んで荷物を運んでいる見かけない集団を見た。
(きっと、オルトの言ってたやつだ)
「ルナ! アレだな。少し寄り道するぞ」
「あい、姉さま」
私達二人は、その物資運搬部隊に近づいた。
「どちらの方ですか? 皇国の方ですか?」
隊を守備している兵士が槍を構え、やや緊張気味で問いかけてきた。
「皇太子特殊守備隊第参部隊所属のリリィだ。こっちは、ルナ。第参部隊副隊長のオルトより、必要な支援物資を受け取るように指示されてやってきた」
私とルナは馬を降り、その兵士に答えた。
「はっ! こ、これは失礼いたしました。私共は、サーフェイス皇太子殿下の御依頼を受けて、前線以外の地域に物資を届けに来た部隊です。リリィ殿のお話は聞いております」
「うむ、助かる」
「それと、この隊を指揮をとられてる方が、リリィ殿に会いたいと申しております。まずは、そちらに」
(私と会いたい? 隣国の人間で?
私は、ルナに新しい剣や多少の食料等貰って来てくれるようにお願いした。
「奥方様、リリィ殿をお連れしました」
(奥方様? 女の人なのか? まあ、私も女だけど。でも、戦闘中の皇国に入国してくるのは勇気あるな)
私は、やや中央後ろにある馬車の前へ案内された。
「はい。直ぐ参ります。しばしお待ちを!」
かわいらしい声だな。
やっぱり貴族のお嬢様じゃないか?
でも、そんな人が、どうして?
馬車の扉を開けて、その奥方様が下りてきた。
「お初にお目にかかります。リリィ様、ナビと申します」
「はい。この度は、皇国に物資支援と搬入までしてくださり感謝しております」
「リリィ様、お気にならずに。皇国と私の国は同盟国です。支援は当たり前ですから」
「そうですか? それでも助かっております」
「それと、実は、なのですが……」
そのナビ婦人は、少し躊躇いながら話し始めた。
「リリィ様とお会いするのは、これで二度目になります」
「どういう事でしょうか?」
「はい、帝国国内でお会いしております」
「はい? でも、あなたは帝国の人間ではありませんですよね?」
「はい。私は、元リンド皇国の人間です。フェイス様の元で、リンド皇国の潜入工作員として諜報・妨害・救助支援などを行っておりました」
「はぁ」
だから、何のだ?
私と、どこで会ったのだ?
今、サーフェイス殿下と呼ばずにフェイスと呼んだな。
どういう関係の人なのだ?
「あの、帝国のどこで会いましたでしょうか?」
すると、ルナ婦人は、
「えーと、リリィ様が
「え?」
私には心当たりがない。
あのあたりで会って話したのは、シャトレーヌと闇商人、宿屋の人間だけのはずだ。
「何故、シャトレーヌの事を知っている? 私達が殿下を呼んでいる時のフェイスという名前を、何故御存じなのですか?」
「私も、フェイス様と
驚いたな。
早く大聖堂の方に向かいたい気持ちもあるが、もう少し話を聞かなくては。
「
「!」
(はぁ? いつ? えっと、あれ? そう言えば、気が付いた時には、花束を持って部屋に帰って来ていた時があったな。あの時の花、この子だったのかぁ)
「あ、あの……」
あの時の私は、本当にどうかしていた。
いくら、暗殺に失敗したからと言って、あそこまでなるとは思っていなかったからだ。
当時は、何故、こんなに意識が持っていかれるか、全然わからずとても苦しかったのだけを覚えている。
「その時のリリィ様の様子を見て、私は帝国での工作員をやめました。皇国に戻り、最後の仕事として
「ええ?」
そんな事、初めて聞いた。
「そして、リリィ様が大怪我をされた時、屋敷で治療をした医者が私の夫です」
「……」
そんな繋がりがあるとは。
それにしても、
フェイスも。
「私は、何も聞いていないぞ」
少しムッとして答えた。
「はい。私が言わない様にとお願いしていたので。リリィ様と
そうだったのか?
そう言えば、あの時の医者は、医学書のアドバイスを受けに来たと言っていたな。
あの本、
もしかして……。
「ナビ婦人の旦那様は、医学書を出したと言われていましたね?」
「はい。私が
「ムムム」
「あ、あの? お気を悪くされませんように。こうして落ち着いた状況になりましたので、お話しておりますので」
そう言われても。
まあ、ちょっとぐらい嫉妬したかもしれないけど、黙っているなんて。
「無事に御結婚されたと知った時は、とてもとても嬉しかったです。本当に、良くぞ皇国に来る決断をして下さいました。本当は、御結婚まで一緒に待ちたかったのですが、役目柄それも出来ず。また、リリィ様に変な気遣いをさせてもいけませんので、関わった事も秘密にとお願いしておりました」
そうすると、ナビ婦人は涙を流し始めた。
「やっと、やっと幸せを御掴み下さったこと。ナビは嬉しく思います。今回が皇国が危機となりましたので本国を説得し、こうして私自ら出向いてまいりました。リリィ様にも、もう一度お会いしたくて」
ずるいな。
泣かれると、怒れないのだ。
「そ、そうなのか。それは大変だったな。それに、私に会いに? どうして?」
「それは、
「う。そ、そうか」
少し恥ずかしいのだ。
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