宣戦布告

『賢く、賢く、聞き控えよ!

 これより伝えるは、天地に誓っての神命である。

 世のコトワリを乱す、不調率な存在ソンザイ達。

 

 これを、我らは撃ち果たすなり。


 耳を澄まして、聞け!

 そして控えよ!


 我が帝国は、リンド皇国に対して、宣戦布告を宣言するものなり』


 いよいよリンド皇国に対して、帝国政府が正式に『宣戦布告』を宣言した。

 しかも、皇帝不在のままで。


 ここ数十年戦争はなかった。

 ただの脅しだろうと楽観視する人も少なくなかった。


 しかし、帝国は宣戦を布告した。


「は? 『神命』? 何言ってんの?」

 そう、私が言うより先に大きな声で口走ったのはルナである。


「だってそうですよねぇ、姉さま。勝手に他所の世界から人呼んでおいて、ポイっと捨てて、秘密にしておきたいから殺しちゃえっていってる連中が『神命』ですって!」

 ルナ様はご立腹である。

「まあ、その片棒を担いできたんだけどな。私達も」

 と私は言うが、自分で言っていて耳が痛い。

 

 かく言う私は、その勝手に連れてきた男を、自分の手で殺そうとしていたんだから。


「ええ? 言辞ゲンジさんは、そう思いますよね?」

「うん。まあね」

 苦笑いしながら答える言辞ゲンジ


 ルナの言ったことを、そのまま言って良い資格のあるのは言辞ゲンジだけだ。

 しかし、それを言うと私に当たる。

 それは、自分の嫁に飛んでくるから結果として自分に帰ってくる。


 だから、言辞ゲンジとしても言いにくい。

 御免な。

 旦那様よ。


 私達は、リンド皇国の王宮に呼ばれていた。

 リンド皇国皇帝を始め、戦いに参加する人達は全員戦闘服姿で集まっていた。


 布告には、私達の名前は入っていなかったが、その前に名指しで抹殺指令が出ている。

 だが、帝国の宣戦布告に無関係だと思っている人はいない。

 帝国の宣戦布告に対抗するこの式典で、親方様を始めとする元帝国暗殺部隊の全員が、正式に戦力として加わることが発表された。

 前回の首都防衛では、親方様のお陰で命拾いした貴族も多く、やっと加わってくれたかという感じだった。


 私達は、ガルド達の列の隣に並んでいた。

 私達の列の先頭は親方様だ。


 そして、宣戦布告に対抗する式典が終わった後、私達は控室にいた。

 控室にいる時、ガルドを伴ってリンド皇国皇帝と皇妃様、皇太子のフェイスと皇太子妃のローズが一緒に入って来た。


 そして。


「本日より、正式に。リーゲンダ・テンプルム殿率いる元帝国暗殺部隊の方々を正式に我が国に加わって頂くことになった。部隊名は仮であるが、第三特殊守備隊とする」

 リンド皇国皇帝より、改めて告げられた。

 

「謹んで拝命いたします」

 親方様は、片膝をついて、これに答えた。

 私達も親方様に合わせて、片膝をついて礼をした。


「リーゲンダ殿。そして、メンバーズの者達。前回は、良くぞ我が首都を守ってくださった。皇国の皆は、あなた方に感謝している。ここに改めて礼を言う」

「勿体なきお言葉。我が信条に従っての行動をしたまでであります。過分な名誉、恐れ入ります」

 胸に手を当て、向上を述べる親方様。


 親方様、なんてかっこいいのだ。


枇々木ヒビキ言辞ゲンジ殿、枇々木ヒビキリリィ殿。二人とも、決して怯んではならない。今回の事は我らの世界の不始末。本来なら事が起きる前に止めるべきであったことだ。言辞ゲンジ殿とのことは、世も交流を深めたいと考えていた。だが、サーフェイスの進言もあり、貴殿の感性が、この世界に影響されるのを極力控えたかった。決して疎遠にしておきたいと思っての事ではない。許せよ」

 

「いえ、このように取り立てて下さるだけでもうれしいです。感謝しております」

 言辞ゲンジは礼を述べる。

 

「リリィ殿も息災でなにより。一時大怪我をしたと聞いたが、傷は大丈夫であるか?」

「はい。皇帝様、皇妃様のお陰様で、前よりも元気になりました」

「ふふふ、そうであるか。こうして直接に会うのは、結婚式以来であるな。また、あの時の様に平和な時代を手繰り寄せようぞ」

「はい。必ず」

 

 そして、一連の挨拶が終わると皇帝様は御退席された。


 フェイスとガルド等が残った。

 ローズは、皇帝陛下御夫婦と一緒に退室していった。

 目では、私に『ここに残りたい』と合図してきた。

 だが、私は無視した。

 だって、私にそんな権限ないし。


「ははは、父上も堅いな。肩がこっちゃうよね」

 と言うフェイス。

 本当に、なんでこんなにフランクなの、この人は?


「さて、こうして帝国に喧嘩売られたわけだが、ご存じの通り正規軍同士では、ほぼ同程度だ。睨み合いで長期化する可能性がある。たが、長引いてるから手打ちにしようとなっても交渉する相手がいないんだよな、これが。もしかしたら、これが狙いなのかもしれないが。帝国の連中としても、本音はたまらないだろうな」

 フェイスは続ける。

「そこで、何が主戦場になるかと言えば、皆も知っての通り、転移魔法を使ったゲリラ作戦だ。国中のあちこちに、リリィさんを襲った連中が転移して来る。これとの戦いになわけだ。そこで、ガルドや親方様、えーとリーゲンダさんで良いのですか? 特殊守備隊との闘いが主戦場になります。こっちは、転移魔法がない。だから、足で帝国内に入らなきゃいけない点、ちょっと不利だけど」

 

 フェイスが言い終えると、ガルドが代わりに話を始めた。

 

「殿下ありがとうございます。ここからは、私からお話しする。この転移魔法を元凶である帝国内にある転移魔法大聖堂を破壊したい。これに我らガルドの隊は専念する。そうすると、国内の防御をリーゲンダ殿にお任せすることとなる。つい数年前までは『敵』とは言わないが、対抗する組織同士であった。故に、国防をお任せするに不安視する者も少なくない。だが、今回皇帝陛下より正式に加わったことで異論を唱える者も大人しくなるだろう。リーゲンダ殿、お願いできますかな?」

「問題ない。信頼して頂き痛み入る」

 

 親方様は、ガルドとほぼ同格扱いで遇された。

 帝国での爵位とか、私達は知らない。

 皇国では、ガルドと同じ爵位を持つことになったのだ。


「それと、リーゲンダ殿」

「何ですかな?」

「今までの様に、『親方様』あるいは、『親方殿』とお呼びしていてもよろしいかな? 言いなれていなくてな」

「一向にかまいません。お好きなように」


 シャトレーヌ夫人が、親方様の本名聞き出してしまったから、『親方様』あるいは、『親方殿』とお呼びしていた私達は、実はちょっと困っている。

 まあ、どっちでも良い事なんだけど。


 

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