第13話 Aランクパーティ風の旅人3
「いやーすまないね、荷物持ってもらっちゃって。しかしこれどういう仕組みなんだ?」
あれからツインベアーとやらの素材を剥いだんだけど、毛皮を剥ぐ労力が凄くて断念。何とか持っていきたいけど、ということで私の見えない手で持ってみたら持ててしまったのだ。このサイズだと2体で何kgあるんだろうか?
それと風の旅人のメンバーとは自己紹介をし合って名前もわかった。女性の剣士は魔法も使えるそうで、アーネスさんという。そして魔道士の男性がアルスターさんだ。三人ともゲームには出てきていない。
「えーっと、秘密です」
「だよな、俺らだって手の内は晒したくないし。それより消毒とやらについておしえてくれ毒消しとは違うのか?」
幸いにして能力の追及はなくて良かった。あまり根掘り葉掘り聞かれたくないよ。それより消毒の説明をしないといけないか。
「そうですね。消毒というのは実際には汚れなどに付いてる細菌という小さい生物を殺す為のものです」
ウィルスまで含めると話がさらにややこしくなるのでしないよ。
「細菌? 雑菌とは違うものか?」
「雑菌とは色々な細菌の総称みたいなものだと思ってください。細菌を殺す方法としては80度以上の熱湯や70度以上のアルコール、火であぶるなんかがありますね」
「すまん。80度とか言われても何の数字なのかさっぱりなんだが」
あー、そこからか。そういや世界最初の温度計ってガリレオだっけ?
温度とか濃度の説明が必要になるのか。それにアルコールという言葉自体無い可能性も出てきてる。というかないだろね。
「温度とはものの熱さを示す数字です。私達の体温は約36度くらいだと思ってください。そして80度という温度は普通に火傷します」
「ダメじゃん!」
だよね。魔法で細菌を殺す方法があれば解決するんだけどなぁ。ものを綺麗にする魔法とかあればできるかもしれない。少々の怪我なら傷口を洗えばいいが、魔物の爪とかどう考えても雑菌の塊だもんね。
「じゃあ汚物を綺麗にする魔法ってないんですか? 例えば腐ったものにかけると臭いがしなくなるとか」
「浄化魔法のことか? プリファイっていう汚れを落としたり汚物の臭いを取ってくれる魔法があるな」
「もしかしたらそれが使えるかもしれませんね。確証はないですけど」
臭いの元はだいたい雑菌であることが多いはず。消毒薬の始まりは遺体の異臭を防いだことが関係しているし。浄化魔法っていうくらいだから期待はできそうだ。
「テアちゃんの使った消毒魔法はどういうものなんだ?」
「私のは異能です。言葉で念じて使うもので魔法とは違うと思います。でも浄化魔法は確信に近いくらい期待できますね」
「そうなのか。よくわからんが違うものという認識でいいのかな。しかし浄化魔法が有効ならこれは歴史的発見と言っていい。是非ともこれは公表されるべきだ」
アルスターさんはすっかり興奮し、鼻息を荒くして熱弁する。それで多くの生命が救われるなら私も公表すべきだと思う。
「そうですね。まずは検証でしょうから治療を専門に扱う施設に伝えて試して貰えばいいと思います」
「待て待て。それだと手柄をかっさらわれるだけだ。それこそ叙爵するかもしれないほどの手柄だぞ? 先ずは冒険者ギルドだ。そこのギルマスを巻き込んでからだな。おめでとう、君は器量もいいし貴族の養子になることだろう」
貴族の養子か……。悪くは無いけど、それはレオン様にお近づきになれるチャンスがあるかどうかによるかな。そしてウォルノーツにレオン様はいない。ならその選択肢は今考えるべきじゃないと思う。
「貴族の養子には興味無いです。お金なら欲しいですけど」
「そうなのか、もったいない。ところでさっきからずっと大事に抱えているそれ、ずっと気になっていたんだが魔石じゃないのか?」
「あ、それ私も気になっていた。こんな大きい魔石滅多に見られないわよね」
2人が足を止め、まじまじと私の抱える魔石を覗き込む。Aランクでもワイバーンは倒せないのかな?
「あ、これワイバーンの魔石です。これを売ってお金にしたくて」
「わ、ワイバーン……?」
「おいおい、ワイバーンなんて簡単に狩れる魔物じゃないぞ。大抵は仕留める前に逃げられるもんだ」
そっか、空飛ぶもんね。危なくなったら逃げるに決まってるか。私の場合は不可視の攻撃で一撃だからね。多分見えてたら無理だと思う。
「えへへ。じゃあきっと高値で売れますね」
「いや、むしろ盗んできたとか疑われるんじゃないか? こんな幼い女の子にワイバーンが狩れるなんて話誰が信じるよ」
うあ……。確かにそうかも知んない。ということはこれ、お金に換金できないってことだろうか。それは困る。となるとここは若干の損をしても実を取るべきかも。
「あの、お願いがあるんですが」
「悪いが断る。その魔石を代わりに換金してくれ、ってことだろ? それはつまりワイバーンを俺たちが倒したってことになる。成し遂げてもいない偉業で有名になってもろくなことにならん」
「ふええええ……」
こちらが言う前に断るなんて……。換金できなかったらただのお荷物じゃんか。もう私泣きそう、っていうか本当に涙出てきた。
「あ、こんな幼い子泣かしちゃダメじゃないの。アルスターって極悪~」
「俺が悪いのかよ!」
「ううぅ~」
ツインベアーとやらだって一体は私が倒してるのに。恨みがましく低く唸ってアルスターさんを見つめる。これにはアルスターさんもタジタジだ。
「熊さん私だって倒してるのに」
「わかったわかった。換金についてはできる限り協力する。だから泣きやんでくれ」
「そうね、ツインベアーの報酬や素材の換金についてはこの子にも取り分を払う必要があるわね」
おお、アーネスさん話せるぅ。そしてカインさんもいい人だった。いい人に会えたのは本当に運が良い。
「素材運んでもらってるからその分もね。半分あげても割に合うくらいかな」
よし、勝った。幼女の涙に勝てるのは外道か鬼畜くらいのものだよね。これで当面の生活費はなんとかなりそうだ。
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