第5話

私たちは網縫館周辺の色々な伝承について調べて回った。


あの辺は調べれば怪奇現象を思わせるような話が沢山出てくる。しかも人が殺されるようなものばかりで、恐ろしいという感覚がずっと残っていた。


しかしやはり人喰い蜘蛛にまつわる伝承が特に多く、電車で読んだ伝説に加えてさらに残虐な妖怪だという印象を受けた。


なんでも喜晴が人喰い蜘蛛を殺した後に人喰い蜘蛛の住処を歩き回ったところ、乱雑に放置された食事後の人の死体があったらしい。

それも一人や二人ではなく大勢いたという。


なんともおぞましい…凪たちはこんなものを調べていたのかと思いながら調べ物を終わらせた私たちはなるべく早く網縫館へ戻るよう走った。


私たちが走り出してから十五分くらいで網縫館へと戻ることはできた。そこにはスーツを着た男性が二人、髪の毛に狐をかたどった髪飾りをつけた女性、それとここで働いているであろう女性がいた。


「それではこちらの部屋へどうぞ。」とここで働いているであろう女性が言った。私たちが来た時とは違う人が出迎えてくれたが、もしかして夫婦なのだろうか。


「わかりました。河童(かわらべ)くん、早速部屋へ行こうじゃないか」とスーツを着た男性が言った。あの人はベテラン社員という印象を受ける。


「はい、付喪(つくも)さん。ところで、ここの夕食は松茸がでるそうですが」ともう1人の男性が言った。こちらはあまりベテランという感じはしない。態度が随分と高圧的だ。あとなかなか太っているがどんな生活なのだろうか?


「いえ、この時期はまだ松茸は出せません」と言われたら「チッ、ふざけんじゃねえぞ。せっかくの楽しみが台無しだよクソが」と言って部屋へ向かった。ああいう大人にはなりたくないな。


「先程は大丈夫ですか?」と狐の髪飾りをつけた女性が話しかけていた。あの人は何だかミステリアスだ。何かデカめの秘密がある気がする。探偵としての本能がそう言っている。


「えぇ、大丈夫です。わざわざ気にかけてくださってありがとうございます。」と包帯を巻いた女性が言った。あの人はただの仕事熱心な人なのだろう。


狐の髪飾りをつけた女性が部屋へ向かったため、一応挨拶をしておこう。そう都合よくここの従業員ではない、なんてことにはならないだろうし。

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