第19話 黒猫クロの相棒ロゼ【完】

 ロゼラインはティナの上着の長椅子そのうえで目を覚ましたわ。


 ついでに私も一緒。


 目が覚めたとき彼女は複雑な顔で私のことを見つめた。


 そういえば眠っていた時、昔のことを夢に見たような。


 生きていた頃の私は別世界、それはロゼラインの前世がいたのと同じ世界だけど、すごく昔の別の国で、可愛がってくれていた人が急に裏切って高い塔から投げ落としたのよね。


 いくら猫でもそんなところから放り投げられたらひとたまりもないわ。


 でも、私は死を自覚せず、塔の下にいる人たちに何度も話しかけたけど誰も気づいてくれなかった。そんな中、サタ坊ともう一人の精霊がやってきて、私のことが見えているみたいだからついて言って今日に至るのよ。


 本人、いや、本猫も忘れていたくらいだからそんな神妙な顔をしなくていいのよ。


 それより、サタ坊と同量の別の精霊、美と夢幻をつかさどるネイレスもやってきて、ロゼラインの魂の今後を相談することにしたわ。


 でも、彼女は転生の仕組みに不信感を持っていた。


 変則的に前世の記憶を持ったまま「異世界転生」というやつをしてみないかと打診しても不発だった。


 ギフトとしての美貌と出自の良さを与えると言っても、そもそもロゼラインは美貌の公爵令嬢だったのよ、説得力なさすぎ!


 精霊としてもシュウィツアという国の運命を彼女に丸投げ放置しようとした負い目があるから彼女の言い分に反論できなかったの。

 

 結果として、もう少し彼女の木が落ちつくまでという話になったわ。


 それは私としてはけっこううれしい!


 いっしょに御所で遊んだり、時々ティナの手伝いに出かけたりするの楽しかったもん。


 でもそんな月日が五十年以上たってしまい、ロゼラインの魂の形を保つ限界がきたの。


 どうしてかなあ?


 私なんて数百年、ずっとここに居座っているけど平気なのにね。


 それは人と動物の魂の性質の違いと説明されたわ。


「人以外の動物は自我があっても他の個体と魂のレベルで接続しあっているから互いに気を交換し合っている。つまり、そなたが死んで数百年、転生も何もせずここにいても同族の魂から気を受け取ることができるから大丈夫だったのじゃ。しかし人間は個々の魂が独立しあっていて、魂の気を交換することができないので、死してリセットしないままじゃとただすり減っていくだけなのじゃ」


 ウ~ン、よくわからないけど……?


「だからお前が頼りじゃ」


 へっ?


 そう言われて私はロゼラインと一緒に霊界のある場所に送り出されたわ。


 そこはいつも暖かい日差しが降り注ぐ草原。


 動物たちの楽園よ。


 時々人間も迷い込むのだけど、それは生前、その動物と仲良く過ごしていた者か、逆に動物どころか人間の中にも愛し愛される者がいなかった者なの。


 誰にも振り向かれなかった魂はそこで過ごしながら苦しかった生前を思い出しては黒い霧を放出する、でも、ある時、一匹の犬や猫がその者に近づいていくの。


 そして、その動物と心が通い合うと、黒い霧は小さな水滴と虹に変わり、そのあと一緒に虹の橋を渡るのよ。


 ロゼラインと一緒に向かった先で、ティナよりさらに上位にいる存在がロゼラインにどうしたいかを尋ねたわ。


 そして私たちは帰って来たわ、精霊王の御所に。


 うれしくてロゼラインの腕からはねた私はぴょこんとティナの懐に飛び込んだ。


「そなた何やら雰囲気が……? どうも内包している力の量がの……?」


「へへ、なんかね、あたし、『ヴァージョンアップ』とかいうものをしたんだって!」


 私を検分して首をかしげるティナにどうだとばかりに説明したわ。


「クロ、いきなり飛び出してっちゃダメじゃない!」


 続いて現れるロゼライン。


 上半身純白から裾にかけて薄紅のグラデーションで裾がフィッシュテールになっているワンピース、上に羽織った薄衣のボレロは白銀の羽衣のように見える。

 美華として生きてきた日本でも通用するワンピースドレスよ。


 彼女の清楚かつあでやかな魅力が引き出されているでしょ。


「そなたも何やら雰囲気が変わったのう」


「ああ、これですか、虹の橋を渡った先にいた女官のような方々の見立てなんです」


 そうそう、私のデザインじゃないけどね。


「そこの偉い人から、これからどうしたい? と、聞かれたので、クロもなじんでいたことだし、この場所にまた戻りたいな、と……」


「そうか、そうか! そなたたち、我らと同じく精霊という上級の精神生命体になったのじゃ。良き良き! 人間由来の精霊はこの世界にはいなかったからの。まあ、四柱の精霊とともにいろいろこの世界を善き方向に導くために協力してくれればいい」


 善き方向なんて、と、ロゼラインはうろたえたが、心配しなくってもサタ坊たちでもやれているのよ。人間目線で彼らの足りないところを補ってくれるととてもありがたいわ、と、ティナが言ったのよ、私じゃなくてね。


「新たな精霊の誕生じゃ。名も気分を変えるために、少し……、そうじゃな『ロゼ』がいい。呼びやすくしかも華やかじゃ」


 新たな精霊、一緒に虹の橋を渡った私たちは相棒のような関係になったの。


 よろしくね、ロゼ。

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【完結】黒猫ですが精霊王の眷属をやっています、死んだ公爵令嬢とタッグを組んで王国の危機を救います 玄未マオ @maokuromi

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