第51話 結界破壊班、任務完了

「すぐ気絶するからな」


言い終わった直後、世界が止まる。2人だけ例外を残して。


「危なかったでありんす……間に合った……!!」


「後5秒遅かったら、圓明ただの金属人形になるところだったの」


結界内に無理やり入ってきた、向日葵と真百合。世界を止めたのは、向日葵の時の翼の力、『変幻時在ファント・アスシア』の効果のため。


「実際に止まっているわけではないのじゃ。限りなく遅くしているだけ。急ぐでありんす」


「……言葉遣いおかしいの?」


「……!!」


「焦るとたまに出るの、花魁言葉?」


「廓言葉とも言いますね。矯正してましたが」


「たしかにわかりづらくはあるの……って、こんなことしてる場合じゃないの」


そういうと金剛を炎でで包む真百合。金属の体はあっという間に融解し、大きい金属球に変化する。


「金属操作は見えていたので準備しておいてよかったです」


そういって取り出したのはプラスチック。それもバスケットボール20個分以上。それと銀とアルミニウム。


「まずはポリプロピレンで包み、さらに分厚いポリカーボネートで覆い、もう一度ポリプロピレンで覆ってさらに銀、アルミの順で包めば……完成です」


「でっかいの!!」


ただでさえ大きかった金属球を覆ったため、直径が2mほどになっている。


「大丈夫です……『次元圧縮』」


大きかった球体は冗談のように小さくなり、砲丸投げの鉄球サイズになる。


「内部を可能な限り2次元にしました。2次元には体積はありませんから……では、お願いします」


「了解なの。炎剣―――ヨルムンガンド」


剣というには非常に小さい、騎士剣の形をしたナイフが4本、それぞれの指の間に出現する。


「えっと……あっち側に飛ばせばいいの?」


圓明から見て真横に当たる方向を指す真百合。


「そうです。くれぐれも楓には当てないように気を付けてくださいね?」


「わかってるの」


4本のナイフを1本ずつ球体に差していく。確かにさしているのだが、球体に傷一つついている様子がない。その代わり、目に見えて金属球が動いていく。


これで直近の危機は去る。


「後は……楓か」


「こっちのほうが危機ではないの?」


「血液型は同じB型ですし……自分に血液は必要ないので」


そういうと、まず金属円錐から楓を引き抜く。つぶれた真っ赤な腎臓が見え隠れする。


「臓器に使える細胞はないですね……肉は無理やりやりくりして臓器固定と皮膚に使います」


「……肝心の臓器はどうするの?」


「機械を入れます」


その言葉を聞いて停止する真百合。

「は?」


「聞こえませんでしたか?」


「……いや、聞こえたの」


「腎臓のほかに、腸も削れています。腎臓だけなら肉で無理やり埋めましたが、腸はそういうわけにもいきませんので」


「あ、そうなの……って、入れたところでどうするの!?」


「あ、もしかして空間を埋めるだけと思ってます? 人工腎臓と人口腸を入れるんですよ。生体電気とカロリーで動く超最新機器ですから、大丈夫ですよ」

それに、しばらくは3iの次元にいるので死にはしません、と付け加える向日葵。


「ほんと、規格外なの。機械の翼」


「この程度はまだ想像できる範囲でしょう。それに、機械の翼の使い勝手はそこまでいいものではありませんよ」


精密機械の中身なら瞬時に作れるんですけどねー、とややふてくされて言う向日葵。


「でもそれで体造ってるの。十分規格外なの」


「真百合さんも訓練すればすぐにできると思いますよ? 体を炎で作ることぐらいなら」


「えっ、そうなの?」


「ある程度訓練が必要ですけどね……よし、皮膚以外は修復完了です」


そう言いながら傷口に近い位置の生皮をはぐ。


「お願いできますか?」


その言葉に無言で頷き、肩に片手を置く真百合。


『不』の翼が大きく展開され、『不』の文字そのものが噴き出す。


「『不可能を可能にするポス・シビリテイトサインフィーネ』」


はいだ生皮が不自然に揺れる。すると、だんだんと皮膚がはいだ生皮を基準に生えてくる。そう、増殖とか複製ではなく、文字通り生えてきている。

太い皮膚が通った後、隙間を埋めるように細かい皮膚が伸び、1枚になっていく。十分な広さになった後、2枚に切り取られ、皮膚がなくなっている圓明の傷口に張り付ける。


「これで完了です」


「ふーっ、疲れたの!」


座り込む真百合。


「お疲れ様です。ですが、すぐに移動しますよ」


お姫様抱っこをされる真百合。


「『|変幻時在《ファント・アスシア』』」

ゆっくりと、しかし確実に時間が現実の速さに近づいていく。

圓明を見る向日葵。


「すぐ会えるでありんす。危機も去ったのじゃ」


名残惜しそうに短くなった髪をなでる。


「だから……あきらめるのは早いのじゃ、かえくん」


ガラスが砕けるような音が轟く。結界が物理的に砕けたのだろう。

圓明が倒れたのを確認した後、向日葵は消えた。

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2024年12月3日 16:00

shoot 「アーウルム」 tha moon 夏樹 夏凛 @Natsuki000

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