第50話
引き金を引き、銃声が響く。しかし、ライフルの先からは目に見える弾丸は出ない。打ち出されたのは、圧縮空気の弾丸。その弾丸が金剛の体に当たると、爆風が解放され、金剛は吹き飛ばされる。当然、近くにいた桃花もだが。
ただし、自分は吹き飛ばない。なぜなら、空間の
桃花は転がる感じで吹き飛んだが、そのおかげでどこにいるかは一見わからなくなった。それを確認すると、吹き飛んだ金剛を追う。もちろん、
金剛は結界まで飛ばされていた。
「ふっ、まさか逃げないとはな。圓明、お前の能力はあまり知らないが俺を吹き飛ばした爆風をしのぐ力があれば、結界も越えられるだろうに」
「事実かもしれませんね。ただ、それだと桃花さんを見捨てることになります」
「意外だな。こちらに来た頃のお前は、逃げられる隙があればすぐ逃げると思っていたが。まさか、トウカに情でも?」
「情……そうかもしれませんね。どうやらぼくは、仲間を見捨てられないようなので」
「あ?」
「どうでもいいでしょう。さて、それでどうすればこの結界を消せるんですか?」
「さぁ? 俺は知らないな。 ウリエルにでも聞けばわかるだろう?」
「そうですか。では」
銃撃。しかし紙一重で躱され頭部ではなく右肩がはじけ飛ぶ。
「さすがに何度もやられりゃ慣れてくる」
「でしょうね」
すぐに2発目、3発目と撃つが、当たらない。気づけば接近され、左手の鉄拳が飛んでくる。それを銃で受ける。
「くっ」
さすがに重い。自動発動の猫又の
その一瞬を見逃すほど甘くないはず、と思ったがこの次の攻撃への備えが逆にあだとなった。
「正直、俺にはお前と戦う理由がないんでな」
その言葉とともに、僕への追撃はせず走り出す。方向はざっくりだが、桃花さんがいる方向であった。
「え……っ!!」
先ほど金剛が何をしようとしていたかを思い出し、すぐさま追おうとするが、止まる。向こうは肉体へのダメージなんて無視しリミッター全解除で爆走しているのに対し、自分は
「ならば……!」
すぐに姿を目視できるようになる。ただし、それは向こうも同じであり、自分が追っていることを確認される。それでいて、無視した。さらにスピードを上げたからだ。
「逃がしませんよ」
向かう方向へ向けて銃撃。移動速度も合わせ、通常ではありえない速度で左足のくるぶしを貫く弾丸。その勢いはすさまじく、そのあとのソニックブームで左足の膝あたりまで消し飛び、右足には無数の亀裂が走った。
勢いがあっても、加速するための足がなければあとは止まるだけだ。右足が崩壊し、宙に舞った金剛の上半身を高速移動の勢いそのまま体当たりで砕く。爆散するほどではないが、しばらく再生に時間がかかるだろう。
桃花さんの気配を探るため、目を閉じたまま減速し、足で着地しようとする。しかし、それがいけなかった。
ドッ ぐじゃ、という何かに当たり肉がつぶれるような音がする。
「えっ?」
その音の発生源は、僕の左わき腹だった。さっきまではなかったきれいな円錐状の金属光沢をもつ何かが、背中から貫いていた。
「ぎっ、があああああああああああああああ!?」
状況を確認したことで、痛みでもだえる。足が地面についているのがせめてもの救いだが、確実に内臓がつぶれている。少し動くだけで激しく痛み、動けなくなった。
「はっ、間抜けだな。ろくに相手もせず、トウカを狙えば焦って追ってくると思ったが、まさにその通りだったな」
5体満足の金剛が後ろから歩み寄る。
「まさ、か……最初、か…ら……!?」
「いいや、それは違うぜ、圓明。それこそできるようになったのはついさっきだ。感謝してるぜ」
その言葉を聞いて、血の気が引く。それは傷のせいか、それとも……
「俺はまだこの体に慣れていなかった。ギリギリまで調整はしたが、翼の力もあるため再生については2の次にしていた」
目の前に立つ金剛。全身に金蔵光沢がある、髪の毛のあるペプ〇マンのような姿をしている。
「この体は金属の翼の力で維持しているものだ。ただ、いきなり金属のみで構成することはできず、土で代用していた」
「つ、ち……つち、に、きんぞ、く……なんて……!?」
まさか、そういうことなのか!?
「その表情、気付いたみたいだな。土、というか岩石に最も多く含まれている元素は酸素だが、次に多いのはケイ素。ケイ素は金属といえるかはかなり微妙だが……俺の金属の翼で操ることができた」
ペ〇シマンからだんだんと着色されていく。服もどこからか再生しているようで全裸になることはない。
「だが、度重なる体の破壊、特に頭部や全身の破壊によって危機感を覚えた。死ぬわけではないが、再生に時間がかかることが明確に感じられ、かつ体も動かないときた」
逃げられる、と本気で焦ったんだぜ、これでも と金剛は付け加える。
「この計画はかなりの金をかけて5年以上前から練ってきたものだ。犠牲になった人数も両手両足じゃ足りないくらいだ」
数人はお前に殺されているがな、とさらっという。
「それ……は、ぼくの、せい、では」
「お前から言えばそうだろう。だがな、俺たちからすれば仲間を殺された事実は変わらない。恨むなら、その時の自分の立場を恨むんだな」
「知り、ません……よ」
「だろうな。ま、焦ったおかげで金属の翼を操る技術の向上により土ではなくほぼ金属で体を構成しかつ再生能力も爆速になったわけだ」
着色が完了し、普通の人間に見える金剛。ただ、その姿もかなりかすんで見えた。
「……っ、ガハッ!?」
少なくない量の血を吐いた僕。
「おっとやべぇ、こんなおしゃべりをしている場合ではなかったか」
自分へ手が届く位置に歩み寄る金剛。
「お前の体の一部を金属に変換する。関節や筋肉、それにつぶれた内臓、血管などをな。大丈夫、表面上は人間のままだ。俺の意思一つで勝手に体が動くようになるけどな。施術もすぐに終わる。なぜなら触れた瞬間、激痛ですぐに気絶するからな」
金剛の手が顔に迫る。抵抗しようにも、体は物理的に固定されているうえ血が圧倒的に足りず意識を保っているのがやっとの状態。完全に詰み。あきらめるしか
「あきらめるのは早いのじゃ、かえくん」
懐かしい声が聞こえる。走馬灯にはまだ早くない?
その直後、ガラスが木っ端みじんに砕けるような音がけたたましくとどろく。その音を最後に、自分は闇へと落ちていった。
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