第14話 悪化
「大成君、毎日来てるね」
僕達は学校が終わるとお馴染みになってきている滝の前に来ていた。
「ごほん。大成君、私昼休みに心ちゃんの未来を視たの」
真剣な表情になった雪野さんはそう切り出す。
「それで二人で話をしたんだけど……」
そう言うとだんだんと歯切れが悪くなっていく。
「思っていた程は……酷くはない?」
「どんな状態だったの?」
「……弱みを握られているの」
雪野さんは間を開けた後言いずらそうにその言葉を口にする。
「なるほど……」
これまでの結城君の行動から考えていい予感が全くしない。
「心ちゃんは……その」
「絶対に他言はしない」
本当に言いずらそうにする雪野さんにそう伝える。
「……心ちゃんは中学時代いじめられてたらしいの」
「……なるほど、そういう事か」
僕は重い口調でそう呟く。
僕も長年経験してきたいじめ。闇が深く救いの糸はあまりにも細い。
そして男女で性質があまりにも異なる。
「心ちゃんは中学時代からあの体型らしくて……女子からは良く思われていなかったらしいの」
中学時代は見た目や能力がかなり重要な要素になるからな。
「それで、心ちゃんは学校中で人気だった男の子に告白されたらしいの」
「それか……」
僕は思わずそう呟いた。
「心ちゃんがそれを断ったのが癪に触ったらしく複数の女子にいじめられるようになったらしいの」
「ありがちな話だね……」
そう思いたくはないが、いじめなんてこんなものだ。
「そこで助けたのが結城君なの」
雪野さんはかなり驚きのことを口にする。
「二人は……知り合いだったんだ」
学校での雰囲気では想像がつかずそう呟く。
「それが負い目になってるらしいの」
「なるほど……だからか」
圧倒的な強者に逆らうのがどれ程怖いことなのかを西念さんは知ってしまっているのだろう。
「雪野さんは西念さんのことどう思ってるの?」
これが一番重要なことなので尋ねる。
「今日、心ちゃんは結城君と話し合うって言ってたから……私は様子を見たい」
雪野さんはしっかりと僕の目を見てはっきりとそう言う。
「分かった」
僕はそう短く答える。
「それと雪野さん明日のことなんだけど」
僕達は明日の朝のことを考えて早く学校に行くことに決めた。
「ただいまー」
私は家に帰ってすぐにそう口にする。
「……あぁう、あ」
そんな返事とは言い難いお母さんの声が返ってくる。
「お母さん、今日の夕食は二人だよ」
お父さんは週に一回~二回朝まで帰ってこない日がある……それが今日だ。
「あぅわ!やっや!」
私がそう言うとお母さんのなんだか嬉しそうな返事が返ってくる。
「お母さん。私はちゃんと本が好きだったよ!」
私は今朝の事を言えてなかったので伝える。
「あ、あと、今日は大成君と係が同じでいろいろお話しできたんだけど……」
邪魔が入ったんだと。今日の出来事を話していく。
「私、明日3時に起きるつもりなんだ。」
一通り話した後起こしちゃったらごめんね。と伝えて私は夕食の準備を始めた。
「明日は6時に起きると」
僕はそう言いながら目覚ましをセットしてベットに横になる。
「………………あああぁ!!」
「っつ!」
寝つきそうになったところで頭の中に奇声が流れてきた。
「こんな時間にか」
頭を押さえながら時計を見ると針は11時を示していた。
「テレパシーが送られてきてしまったか……」
どうやら話し合いは失敗してしまったらしい。
「……結城君なら西念さんをいじめるように仕向けるのは容易か」
僕は起こったであろうことを想像する。
僕は〈重力の勇者〉にテレパシーを送るように命じられたら断れるのだろうか?
「結城君は雪野さんのことはいまいち知らない様子だったよな」
すっかり目が覚めた僕は僕が無能であることを雪野さんに晒された時の事を思い出す。
「まだ大丈夫か……」
僕は最悪の事態を考えながらそう呟く。
「あんなに良い人で〈未来予知〉なんて凄い能力を持っている雪野さんが傷つけられてはいけない」
僕は今後のことを考えつつ定期的に流れてくる奇声に苦しみながら眠ろうとした。
「さすがに寒いな」
僕は定期的に送られてくる奇声に耐え兼ねて散歩に来ていた。
「……どこ行こうかな」
こんなに朝早くに行く場所なんて思いつかず適当にブラブラする。
「あ!おはようございます。大成君」
「え、あ……おはよう柊さん」
僕はこんな時間に曲がり角で少女と出会うという異質な展開に困惑した声を漏らす。
「えっと柊さん?今何時か知ってる?」
「3時30分です」
困惑する僕とは対象的に笑顔な柊さんは冷静に時間を答える。
「な、何でこんなっ時間に?」
「目が覚めてしまったのでお散歩です」
平然としている少女はそう述べる。
「大成君はどうしてこんな時間に?」
「ぼ、僕も目が覚めちゃって」
「そうでしたか。ところで大成君は行こうとしている場所はありますか?」
「いや……特には」
そう答えると柊さんは嬉しそうな表情になる。
「で、では!私が行こうとしている所に一緒に行きませんか?」
「せっかくだしそうしてもいいかな?」
そう答えると柊さんはとびきりの笑顔で、もちろんです。と答えた。
「……綺麗」
柊さんに案内された場所は色鮮やかな花々が咲いている公園だった。
「大成君もそう思いますか!?」
「うん、とってもね」
テンションが高い柊さんに僕は頬を緩ませる。
「ここには良く来るの?」
いい場所を知っているな。と思った僕はそう尋ねる。
「ええ、週末に本を読みに来たりします」
「いいね」
こんな綺麗な場所で座りながら本を読む。これ以上なことはあまり無い。
「見て回りませんか?」
「そうだね」
立ち止まっててもしょうがないので僕たちはゆっくりと話しながら公園を見て穏やかに過ごした。
「結構歩きましたね」
公園全体を見て回った後ベンチに座って時計を見ると1時間程立っていた。
「大成君はもう帰りますか?」
柊さんは少し寂しそうな声をする。
「……まだいようかな」
帰ってもやる事もないし、嫌な事ばかり考えてしまうからな。
「そ、そうですか!では大成君、これをどうぞ」
嬉しそうな柊さんは持っていた鞄から本を取り出す。
「元々私はこの為に来ましたから」
「ありがとう」
僕は本を受け取って一緒に本を読み始めた。
「さすがだね柊さん」
柊さんは僕が一冊読むまでに三冊終えていた。
「それが私の能力ですから」
「〈速読〉だよね」
「あれ?知っていらしたのですか?」
そういえば柊さんの能力は空木さんが知っていたんだったな。
「ご、ごめん。クラスメイトが知っていて」
「そうでしたか。大した能力ではないで――」
「そんなことないよ!凄い能力だよ!」
僕は食い気味に言葉を遮る。
「そ、そうですかね」
「そうだよ!だって僕の三倍も早く本が読めるんだよ!」
若干引いている柊さんに僕は食い気味にそう伝える。
「僕には出来ないことだ」
「……確かに多くの本を読めることはいい事です」
柊さんはぎこちない笑顔でそう言う。
「と、ところで、読んだ感想を聞いてもいいですか?」
「も、もちろん。……そうだな」
僕らは感想を言い合いながら帰るのだった。
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