ギャル、着替える。 part2

 ガチャガチャと、ドアノブを回すが当然扉は開かない。そして、中からも反応はない。


 「ちょっと、ヤバいんじゃない?」


 「チッ、仕方ない……」


 状況が状況。

 今まで魔族が操っているであろう人形と戦っていた二人は、最悪の可能性を考え歯噛みする。

 もしかしたら、二人と関わったことで命を狙われている、もしかしたらすでに手遅れかもしれない。

 思考というのは、一度悪い方向へと回り出すと止まらなくなるものである。

 今の二人も、その負のスパイラルに陥っていた。

 焦ったセシリアは、握るドアノブに魔力を込めて力任せに引き千切る。

 鈍い金属音と共に、あっけなく壊れて開く扉。だが、その形は歪に変形してしまっていた。


 「レデ! 無事か!?」


 「無関係な人を巻き込むなんて、あーしが許さないわよ!!」


 転がるように、薄暗い店内へと飛び込む二人。

 辺りを見回しながら、襲撃者を探すがその姿はない。

 代わりに、凄まじい形相で睨みつけてくる、この店の主を発見した。


 「……一体、なんの嫌がらせだ?」


 レデは、作業を行う際は集中力を削がれるのを避けるため店を閉めることにしている。

 鍵を掛け、誰も店内へと入れないようにして仕事と向き合う。

 だというのに、今回はあまりにひどかった。

 作業もノってきて、集中力も最高潮に達しようとしていたまさにその時である。

 入り口が何者かによって破壊され、さらに派手に転がり込んで来て大声で叫び出す。

 もはや集中もなにもなかった。


 「ワタシの仕事を邪魔して、そんなに楽しいかい?」


 「ゴメンなさい!!」


 「すまん……」


 すっかり勘違いしてしまった二人は、しおれた花のようになって平謝り。

 仕方がなかった、とはいえ明らかにやりすぎてしまっていた。


 「まったく……マナはまだしも、オマエさんまでなんだい? ワタシの仕事のやり方は知っているだろうに」


 「う……それを言われてしまうと返す言葉もない……」


 はぁ、と大きなため息をつきながら、作業を再開するために二人を外へと追い出す。

 扉を破壊されて、気休め程度でしかないがそれでも少しでも集中はしたい。


 「余計な者が入り込まないか、見張っていてくれ」


 とりあえず、そう言って奥へと引っ込む。

 何か別のことをさせておかないと、また邪魔をされてしまうと考えたからだ。

 そうとは知らずに、大真面目に見張りをこなそうとする二人。


 「セシリーがちゃんと覚えててくれたらよかったのに……」


 「あの場合は仕方ないだろ……、人形と戦った後だぞ」


 勘違いしたのは、真愛まなも同様なのでそれほど文句は言わずに見張りに集中する。

 しかし、元々レデが人と関わることを避けるために求めた立地。

 人など歩いているはずもなかった。ましてや、壊れて歪んだ扉の前に二人の女性が睨みを利かせている場所に、すき好んで近づこうとする変わり者などもってのほかだった。


 「ヒマねぇ……」


 「とはいえ、勝手に頼まれごとを放棄するわけにもいかんだろう」

 

 とは言っても、すでに結構な時間が経過している。

 使えない、とわかっていても持ってきていたスマホに目をやると、時刻は一六時になろうとしていた。

 相変わらず、充電をしていないというのに残りの電力表示は九〇パーセントのまま減っていない。

 二年近く酷使して、バッテリーも寿命が近い。毎日充電しなければ、とてもではないが持たないはずだったのだが。


 「イイ方向に壊れることって、あんのかしらね?」


 「? 何の話だ?」


 怪訝な顔をしているセシリアに、「コッチの話よ」とあしらって、再び退屈な見張り作業を再開する。

 あくび交じりに、屋根の向こうへと目をやると何かが猛スピードで近づいてきた。

 そして、それはあっという間に目の前までやって来ると、セシリアへと恭しく跪いた。


 「騎士団長リーダー! 至急報告があります!」


 今日は、王女の命によって一日休みをもらっている。

 それを押しのける形で入ってきた報告。

 それの意味するところに、セシリアは非常に険しい顔つきで部下の男の話を聞く。


 「哨戒任務にあたっていた騎士団員が、何者かに襲われる事件が発生しています。中には重傷者も出ており、騎士団長リーダーには至急王城へと戻っていただきたいとのことです」


 「そうか。マナ、聞いての通りだ。どうやら、襲われたのは私たちだけではなかったみたいだ。悪いが、買い物はここまでのようだな」


 返事を聞く暇すらも惜しい、というようにセシリアは足に纏わせた風を解放して、城へと一気に駆け上がっていった。

 報告に来た部下の男も、それに倣うように跳ぶ。

 後には、真愛まなだけがポツンと残されてしまった。


 「ちょっとぉ……、一人でいろってのぉ?」


 真愛まなも、あとについていってしまおうかなどと考えていたその時だった。


 「待たせたね。ようやっと気に入るモンができたよ……おや、相方はどこに行ったかな?」


 キョロキョロと見回すレデに、とりあえずの事情を話すと彼女は笑って言った。


 「ハハハ、相変わらず忙しいオンナだねぇ。まぁいいさ、用があるのはオマエさんだしね」


 言いながら、レデは服を渡す。

 レザーを中心に仕立て上げた、大人っぽい雰囲気の意匠が見て取れる。


 「奥で着替えてきな。オマエさんも急ぐんだろう?」

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